東京と地方の文化格差を助長する、都内大学の定員抑制

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2017年09月07日 14:22  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<経済的事情から地方での地元大学志向が顕著になっている。だが定員抑制などで若者の地域移動を抑えることは、東京と地方の文化的格差につながるおそれがある>


大学進学の地元志向が強まっているという。仕送りなどの経済的負担が大きいために、地元の大学に通って欲しいと願う家庭が増えているのだろう。生徒の地元志向も高まっているようで、甲南大学の阿部真大准教授は「東京で苦学するより、親の経済力に頼れる地元にいる魅力が大きいのではないか」と指摘している(2016年5月1日、朝日新聞)。


地方は所得水準が低く、大学の学費負担だけでも大変なのに、これに家賃や生活費などが加わる「ダブル」の負担は重い。最近、学生のブラックバイトや奨学金借入による生活破綻が問題になっているが、その多くは地方から都市に出てきている「苦学生」ではないだろうか。


地元志向の高まりは、統計でも確認できる。4年制大学入学者のうち、自分の出身高校と同じ県内の大学に入った者は何%いるのか。バブル末期の1990年と2017年現在の断面を比べると<図1>のようになる。日本の経済状況が悪化する前の頃と、最近の状況の比較だ。


1990年春の大学入学者は48万6946人、2017年春は61万694人となっている(浪人生を含む)。大学進学率が高まっているので、入学者の絶対数は増えている。


このうち出身高校と同じ県内(地元)の大学に入った者の割合を見ると、1990年の35.9%から2017年の44.1%に上昇している。激増というほどではないが、大学進学の地元志向は確かに強まっているようだ。


【参考記事】欧米の名門大学よ、 中国マネーに屈するな


しかし筆者の郷里の鹿児島県で見ると、地元大学入学者比率は36.6%から33.6%に減っている。逆に新潟県のように17.3%から35.6%に倍増した県もある。<表1>は、地元入学者比率の変化を都道府県別に明らかにしたものだ。


全国的に地元入学者の比率は増えている(5つの道県を除く)。10ポイント以上増加した県も少なくない(黄色マーク)。中でも群馬、新潟、静岡、愛知、滋賀、岡山、広島、徳島、長崎では、地元志向の高まりが顕著だ(赤字、15ポイント以上増加)。


地元に魅力的な大学ができた、学費の安い公立大学ができたなど、様々な要因があるだろう。丹念に探れば、若者の定住を促すヒントが見えてくるかもしれない。


ただ大学が都市部に偏在しているため、進学に際して地域を移動する生徒が多い状況は変わっていない。全国の私大生の半分が首都圏、2割が都内23区の大学の学生で占められている(2017年5月時点)。


【参考記事】海外旅行格差から見える日本社会の深い分断


これを是正するために、都内23区の私大の定員増加を禁止する方針が示されている。大学の地方分散を図ることが狙いだが、若者の地域移動をむやみに抑えつけることは、文化の地域格差を固定(拡大)させることにもなる。


中世のヨーロッパでは、若者は教わりたい教師の下に移動し、各地に学びの共同体が出来上がった。これが、大学(University)の原初形態だ。移動とはすなわち「交流」で、都会の大学を出た後Uターンし、学んだ知識やスキルを地元の発展に活かしている若者もいる。大学進学時に若者が移動することは、地域間の文化交流という機能も果たしている。


都市部での大学設置抑制に踏み切る前に、そこで学んだ卒業生(地方出身者)のUターン率などの指標も観察してみる必要がある。


<資料:文科省『学校基本調査報告』>



舞田敏彦(教育社会学者)


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