日本人がアメリカに渡って何年か住んだ際にわかることが2つあります。
1つ目は、アメリカに実際住んでみなければアメリカ人の良さも悪さもわからないということ。もう1つは、外に住み、外から見ることによって日本人の良さや悪さがわかるということです。当たり前の話ですが、実際に外からだけではわからないことだらけです。住んで、生活してみなければ、その国やその国の人について何も語れません。そのことを実感した外国人監督がいます。2003年から日本ハムの監督を務めたトレイ・ヒルマンです。
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■チーム低迷のなかで気づいた「法則」
ヒルマンは、もともとヤンキースのマイナー組織の指導者として腕を磨き、2002年オフにはヤンキースの次期監督候補として名前が挙がりました。けれども当時はジョー・トーリ監督が栄華を極めていたこともあり、声がかかった遠いアジアの国、日本ハムのユニホームを着ることになりました。
ところが、就任から3年間は5位、3位、5位と低迷。「なぜ勝てないんだろう」と悩んだヒルマンは、ベンチ座る日本人選手たちをじっと観察しました。その結果、ある“法則”を見つけたのです。
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それは、試合中、1点でもビハインドだとシーンとしていることでした。アメリカでは考えられません。3点ぐらいのビハインドでも「よーし、オレの1発で逆転してやる!」とやる気満々だからです。ただ、そうやってシーンとしている日本人選手が、あることを境にして、俄然、活気づくことがわかりました。それは同点に追いつくことでした。
「ビックリしたよ。ベンチのムードが一瞬にして変わるからね」
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この変化を見逃しませんでした。「そうか、同点にすればいいんだ」と気付いたヒルマンは、とにかく同点にするための“スモール・ベースボール”を展開することを決意します。
■日本人選手は「ビハインド」に弱い?
逆転を狙うのではなく、0 対1を1対1に、0対2を2対2に、1対2を2対2にするのです。すると、あれよ、あれよと勝ち出して、2006年はパ・リーグを制して日本一にまで輝きました。2007年は中日に敗れはしたものの、チームを2年連続で日本シリーズへ導いたのです。
少しでもビハインドだとシュンとしているくせに、いざ同点になると俄然活気付くというのが日本人の「特性」らしい。そうとわかれば活かさない手はないでしょう。ライバルをグンと追い抜かすのではなく、まずは追い付く。ライバル社を一気に出し抜こうとはせず、まずは肩を並べる。このやり方こそが日本人らしいということを、ヒルマンが教えてくれたのです。
指導者に必要な力とは、部下の「特性」を見出すことなのです。