永田町に突然の解散風、自民党の戦略に死角はゼロなのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2017年09月21日 16:12  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<民進党がマイナス要因を抱える今、消費増税+改憲を争点にして安倍首相が解散・総選挙に踏み切るのは有利な戦略だが、死角がゼロではない>


安倍政権が「加計+森友」の処理や、3補選のミクロ的情勢を嫌って解散に踏み切るというのは、大義の有無はともかく、テクニカルには成立する話と思います。ですが、仮にそうであっても、消費税に関して総理は据え置きもしくは、引き下げというサプライズ戦術をやって、長期政権を狙うのかと思っていました。


そうなるとアベノミクスの失敗(あるいはプラマイゼロ)を政治的に認めることとなりますが、アベノミクス株高効果を持ってしても巨大なデフレ圧力に拮抗するのがせいぜいで、消費税アップに耐えられるところまで景気を引き上げるのは「できなかった」という低姿勢を見せれば、世論は理解するかもしれないと考えられるからです。


ですが、結局のところ安倍総理は「予定通りの税率アップ」を公約してしまいました。さらに、9条改憲も公約に掲げるようです。いくら既定路線とはいえ、増税を公約するというのは、無党派層には微妙なマイナス要因になります。改憲論も、党内が一本化されていないことも含めて公約化は少々早いかもしれません。


では、政権周辺にはどんな計算があるのかというと、野党、特に民進党に関しては「敵失がたくさんある」という判断です。特に民進党の場合は、前党首の不人気、山尾議員のスキャンダルと離党など、マイナス要因を多く抱えています。


では、今回の「消費増税+改憲」というのは、敵失を大きく見積もった中で「下手をすると慢心」になるのかというと、それも違うという見方ができます。例えば、消費増税に関しては、民進党の党首選の争点になっていました。「見送りもやむなし」という枝野氏に対して、当選した前原党首は「予定通り増税」を公約にして党首になったわけです。ですから、安倍政権としては安心して「増税」を公約できるということになります。


これに加えて「改憲」を争点にしたという戦術ですが、そこにもテクニカルな計算があるように思います。この点については、前原民進党は反対するでしょう。その理由としては「唐突だ」とか「今はそんな議論をしている余裕はない」という言い方が可能と思いますし、そうした反対論には一理あると思います。


ですが、小選挙区でどうしても自民党を追い詰めたいという一心で、仮に「全野党協力」という調整を進めてしまうと、もっと強い護憲論の勢力との合流ということが現実になります。そうなると、民進党の党首選で負けたはずの枝野氏の路線が復活することになり、民進党の立ち位置が左にズレてしまうことになります。


前原氏としては、構造改革を訴え、北朝鮮への備えを厳しくと言いつつ、それとは相反する左派勢力との選挙共闘をすることになります。改憲を争点にするというのは、安倍政権にとっては大胆なリスクを取ることになるはずが、この問題を争点に据えることで、相手の野党が実はバラバラであることをクローズアップさせることが可能になってしまうわけです。


つまり、前党首の不人気だとか、スキャンダルや離党者が相次ぐといった民進党の敵失だけでなく、消費税と憲法を争点化することで、更に自民党には有利なポイントが入ってくるという計算です。そうなれば、「加計+森友」であるとか、論戦を回避しての解散というような「失点」をカバーしても「お釣り」が来るという、そんな考え方です。


ですが、この戦略にも一箇所だけアキレス腱があります。それは、


1)「税率アップで景気の腰を折れば、トータル税収がマイナスになる危険がある」という日本経済への厳しい認識から、「消費税率を据え置きもしくは引き下げ」を主張。


2)何よりも経済を成長軌道に戻すのが先決だという理由から「改憲議論のタイミングは今ではない」と主張。


という組み合わせで対抗してくる勢力が登場した場合には弱点をさらけ出すという点です。税負担が嫌だから増税反対なのでもなく、古典的な護憲論から改憲に反対するのでもなく、日本経済の現状への厳しい認識ゆえに、増税を見送り、改憲を見送り、改革に専念するという主張です。


自民党や民進党以外の勢力が、この立ち位置から攻めてくるようですと、計算しつくされたはずの自民党の解散戦略に狂いが出てくる可能性があるのではないでしょうか。


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