捕鯨の町から世界を見つめる…映画『おクジラさま』で監督が目指したものとは?

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2017年10月18日 18:03  教えて!goo ウォッチ

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写真捕鯨の町から世界を見つめる…映画『おクジラさま』で監督が目指したものとは?
捕鯨の町から世界を見つめる…映画『おクジラさま』で監督が目指したものとは?
イルカ(小型クジラ)の追い込み漁を糾弾するドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』によって一躍有名になり、世界中の活動家たちから集中砲火を浴びることになった和歌山県太地町。その小さな漁師町を取り巻く多種多様な意見を真摯に取材し、捕鯨問題に新たな光を当てた映画が『おクジラさま ふたつの正義の物語』だ。ここでは同作を監督した佐々木芽生さんに、制作の経緯や作品の狙いなどを聞いた。

──この作品を制作しようとした経緯を教えてください。

監督:今年でアメリカ在住30年になるのですが、捕鯨問題に関してはずっとモヤモヤしたものを抱えていました。アメリカは銃規制にしても中絶問題にしても賛否両論があって、議論を戦わせながら解決を考えていく社会。それなのに捕鯨問題に関してはネガティブな意見しか聞こえてこないんです。「いったいどうしてなんだろう」と考えていたところ、2009年に『ザ・コーヴ』が公開され、それを観て衝撃を受けたんですね。一方的に小さな漁師町を断罪しているところもショックでしたが、日本側からあの映画に対する反論が聞こえてこなかったことにも驚きました。それで「日本人がなぜクジラやイルカを獲るのか」というところが海外では全然理解されていないのではないか、情報を発信していく必要があるのではないかと考え、この映画を作ることにしたんです。

──制作を決めたとき、周囲からはどんな反響がありましたか?

監督:この作品の前に現代アートの収集家に取材したドキュメンタリー『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』と『ハーブ&ドロシー2 ふたりからの贈りもの』を制作しているのですが、そちらは観て誰もが幸せな気分になれる映画だったので、「どうしてわざわざ、そんなややこしいテーマで映画を作るの?」という反応はありましたね(笑)。資金集めなども苦労したのですが、2015年にクラウドファンディングサービス「A―port」を通じて呼びかけたところ、非常に多くの方に応援していただいて。すごく大きな励みになりました。

佐々木芽生監督
佐々木芽生監督


──撮影のため太地町に何度も足を運ばれたそうですが、どんな雰囲気でしたか?

監督:太地町は東京からだと片道7時間くらいかかるのですが、そこに世界中から「イルカ漁反対」と言って活動家たちが来ていて、町の漁師さんたちと一触即発の状況になっていました。だからカメラを持って歩いているとピリピリした空気を感じましたね。現地には何十回と足を運んで撮影したのですが、撮影を許可されただけでも非常にラッキーだったと思います。映画では漁師さんたちの船に乗せていただいたり、ご自宅に伺ったりもしていますが、そういった場面は普通は撮らせてもらえないそうです。もちろん、そこまで行くには大変なこともいろいろあったわけですが。

──映画では町の人たちだけでなく、シー・シェパードなどの活動家たちの意見も取材していますよね。中立的な立場を意識しているのでしょうか。

監督:作り手として「自分が正義にならない」というのは気をつけました。正義の立場に立つと、「悪」を見つけなければならないわけですよね。『ザ・コーヴ』がまさにそういう映画でしたが、それは非常に危険だと思うんです。だからこの映画でも登場人物を「悪者」にしないというのは意識しました。ただ、それは中立というわけではないんですね。というのも漁師さんたちと活動家の人たちとでは、立場も考え方もまったく違うし、それぞれが考える「中立」も違う。活動家の人にとっての中立は、漁師さんたちにとっての中立とは全然違う地点なんです。だから、この映画を作るときも中立的な立場というよりは、どちらかに偏らないようバランスを取ることを心がけました。また、取材する際は片方に隠れてするのではなく、正々堂々とオープンにすることも注意しましたね。

──確かに映画でも活動家の人と漁師さんの価値観はまったく違って、交わることなくどこまでも平行線でしたね。

監督:映画の中で「対話集会」という話し合いの場を持つシーンがありますが、お互いの価値観が違うことを確認するだけの集会でした。話し合いというのは非常に難しいですね。彼らに限らず、身近なところを見渡しても最終的に「なぜ私たちは歩み寄れないのだろう」というところに行き着くことがありますが、私自身はお互い歩み寄れなくてもいいのではないかと思っています。人間の数だけ違う考え方があるわけで、違って当たり前ですから。正反対の意見の人を無理に好きになる必要はない。ただ、「違うから排除する」のではなく、「違いを認めてその多様性をいかに尊重し共存していくか」を考えることは大切ですよね。

──その意味では、作中に登場するアメリカ人のジャーナリスト、ジェイ・アラバスターの存在が救いでした。

監督:そうですね。彼は太地町の捕鯨の歴史に興味を持って町に住み込むようになった人ですが、こういう状況の中でも彼を通じて一つの「希望」を提示することができたのかなと思います。

佐々木芽生監督
佐々木芽生監督


──作品で描かれている内容は、今日の世界のさまざまな問題に通じるところがありますよね。

監督:捕鯨問題が題材ではあるのですが、太地町という小さな町で起きていることを通して世界に共通する普遍的なテーマが見えるように作品を作りました。たとえば、グローバリズムとローカリズムの衝突ですね。グローバルな視点からすると動物に対する残虐さが問題ということで、スペインの闘牛やフランスのフォアグラなどが廃止されたり禁止されたりしている。昨年イギリスで投票によってEUから脱退することが決まりましたが、それもヨーロッパから流れてくる移民や安い製品に危機感を抱いた人たちが「グローバリズムは不要」といって投票したのが大きな要因でした。アメリカの大統領選も同じ。グローバルとローカルの価値観の衝突は、いろんな形で世界中で起きている問題なのかなと思います。

──この作品を、どんな人に観てほしいですか?

監督:若い方にも観ていただきたいですね。「好き」の反対は「嫌い」じゃなくて「無関心」とよく言いますが、日本人なのにこの問題に無関心な人って結構多いなと。鯨肉を食べない人には実感がわかないのかもしれませんが、世界からいまだに批判を浴びている問題なので、もっと関心を持ってほしいなと思います。

──読者へのメッセージをお願いします。

監督:この映画は捕鯨問題が題材ということで、とても難しい政治的な作品だと見られがちなのですが、「おクジラさま」というタイトルからも想像できるように、実は笑いの要素もたっぷり。みなさんもエンターテインメントとして気楽に観に来ていただければ。映画を観てもう少しこの問題について深く知りたいという方や、映画の背景を知りたいという方は、同名タイトルの書籍もあるので、そちらも参考にしていただければ嬉しいです!


ちなみに、佐々木監督によればニューヨークに比べると日本のスーパーで売っている魚は、物価の違いを考慮しても「異常に安い」のだとか。アメリカではシーフードは贅沢品で裕福で健康に関する意識の高い人じゃないと日常的に食べられないため、日本に戻るたびに「安いのは嬉しいけれど、海洋資源が危機的な状況にあるのに本当に大丈夫なの?」と思うそうだ。とくに日本の食料廃棄率の高さには危機感を覚えるそうで、「よく日本ではクジラを余すところなく利用すると言いますが、むしろ今の日本は食料を無駄にしているのでは」と語ってくれた。映画も、そんな監督の視点を通して「日本にいると見えてこない問題」に気づかされるはず。ぜひ劇場に足を運んでみて!

なお、「教えて!goo」では「あなたのクジラに関する思い出を教えて!」ということで皆さんの意見を募集中!

公開情報
映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』
9月9日より渋谷ユーロスペースほかにて上映中

映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』公式サイト

教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)



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