座間9遺体事件、白石容疑者が供述調書のサイン拒否…「反省していない」ということか?

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2017年11月10日 19:42  弁護士ドットコム

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神奈川県座間市のアパートの一室で、男女9人の遺体が見つかった事件。11月10日未明には被害者全員の身元が判明し、凄惨な事件の概要が少しずつ明らかになっている。


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そんな中、死体遺棄容疑で逮捕された白石隆浩容疑者の供述が、二転三転していると報じられた。報道によると、白石隆浩容疑者は逮捕後は取り調べに応じていたということだが、最近は供述調書へのサインを拒否するなどしているという。


供述調書にサインを拒否すると、どうなるのだろうか。また、もし起訴され裁判が開かれることになった場合、供述調書はどのように取り扱われるのか。秋山直人弁護士に聞いた。


●サインをすれば、違法な取り調べがない限り証拠になる

供述調書とは、どういうものなのか。


「供述調書とは、事件の証人や被害者・被疑者の供述を警察官や検察官が聞き取り、文書にまとめたものです。


これは捜査官が被疑者に事件についての質問をした上で、『私は、XXのことで取り調べを受けています。』『私は、事件当時、XXで…』というように捜査官がパソコンで被疑者の一人称で作る文章です」


供述調書は裁判での証拠になるのか。


「被疑者の供述調書については、被疑者の署名もしくは押印があれば、その供述内容が被疑者に不利益な事実を認めたものであるとき、または、特に信用できる情況のもとで供述がされたものであるときに限って、被疑者(起訴後は『被告人』)や弁護人が証拠とすることに同意しなくても、証拠にすることができるとされています。


ただし、被告人に不利益な事実を認めたものであるときは、任意にされた供述でない疑いがあるときは、証拠とすることができません(刑事訴訟法322条1項)


つまり、被疑者の供述調書については、被疑者が署名した、被疑者にとって不利な事実を認めた内容の供述調書は、裁判では、被告人や弁護人が異議を唱えても、自白を強要する違法な取り調べなどがない限りは、被告人に不利な証拠になります」


署名をすると、どんな内容であっても証拠となるということか。


「はい。ですので、捜査機関は、捜査段階のうちに、被疑者に自白をさせ、不利な事実を認めさせて、その内容を記載した供述調書に署名をさせようとしますし、弁護人の立場からは、捜査段階で、不利な事実を認めた供述調書に被疑者が署名することは避けようとします。


供述調書は、被疑者本人が言った内容そのままではなく、警察官や検察官が文章にする過程で、多かれ少なかれ、警察官や検察官にとって証拠に残したい内容は強調され、そうでない内容は記載されなかったり、矮小化されたりニュアンスが変えられる傾向にあります。


ですので弁護人の立場からすると、被疑者の言い分は、起訴された後、法廷で直接に裁判官や裁判員に話を聞いてもらって判断してもらいたいと考えることが多いと思います。捜査段階で警察官や検察官がいわば作文する供述調書に被疑者がサインすることは『百害あって一利無し』ということが言えます。特に今回のような重大事案ではなおさらです」


●被疑者の供述の義務はないし、供述調書へのサインの義務もない

そもそも、被疑者は供述調書にサインをしなければいけないのか。


「まず、被疑者の取調べについては、被疑者には黙秘権が憲法上保障されていますから、自己の意思に反して供述する義務はありません。


そして、供述調書についても、警察官や検察官が被疑者の供述を聞き取り、供述調書を作成したら、閲覧させ、または読み聞かせて、間違いがないかどうかを聞きます。


被疑者が、調書に間違いがないと認めた場合には、被疑者に署名押印を求めることはできますが、被疑者が拒絶した場合には強制はできないとされています(刑事訴訟法198条)。


つまり、被疑者に供述の義務はありませんし、供述調書に署名・押印する義務はなく、署名・押印を拒否することも、法律上認められているところです」


●「調書裁判」への反省

今回白石容疑者が供述調書へのサインを拒否していると報じられているが、これをどう考えたらいいのか。


「今回のような重大事案では、おそらく既に経験の十分な弁護人がついているのだろうと思います。そのような弁護人が、被疑者に対し、供述調書への署名押印は拒否するように指導していることも十分考えられます。


今回の事案は、もし起訴されれば裁判員裁判になります。裁判員裁判では、以前の、供述調書の内容を法廷での供述よりも信用する傾向のある『調書裁判』への反省から、捜査機関が作成した供述調書よりも、まずは法廷で被告人本人の供述をしっかり聞いて判断しよう、という流れもあります。


被疑者が供述調書へのサインを拒否していると報じられると、取り調べに素直に応じず、反省していないひどい人間だと非難される傾向があるでしょう。ですが、むしろ間違った判決を避け、法廷中心の証拠調べで適正な判断をするためにも、捜査段階での供述調書への署名押印拒否は被疑者の権利として認められていることを、きちんと認識することが必要ではないかと思います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
秋山 直人(あきやま・なおと)弁護士
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は溜池山王にあり、弁護士3名で構成。原発事故・交通事故等の各種損害賠償請求、不動産関連、労働事件・労災事件、企業法務、契約紛争、高齢者の財産管理、離婚・相続、債務整理、刑事事件等を取り扱っている。
事務所名:たつき総合法律事務所
事務所URL:http://tatsuki-law.com


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  • せめて殺害日だけは正直に話すべきだ。遺族は命日が分からなければ法事もできない。
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