巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。
第７８回 広告から伝わる深く美しい覚悟
「私がまだ元気なうちに皆様方に感謝の気持ちをお伝えしたく先の通り感謝の会を開催することにいたしました。」byコマツ元社長・安��暁さん
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【センテンスの生い立ち】
2017年11月20日付の「日本経済新聞」朝刊に、「感謝の会開催のご案内」と題した個人広告が掲載された。依頼したのはコマツ元社長の安崎暁（あんざきさとる）さん（80）。そこには、10月上旬に胆嚢がんが見つかったこと、もう手術はできないという診断を受けたこと、お世話になった皆様への感謝の気持ちを伝えるために感謝の会を開催することが書かれていた。その深く美しい覚悟に、ネット上で感動や称賛の声が広がっている。
【3つの大人ポイント】
- 重いがんに罹っている事実を冷静に受け止めている
- 自分がまだ元気なうちに感謝を伝えたいという決意
- 憧れと尊敬の念を抱かせるカッコイイ「幕の引き方」
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「いかに死ぬか」は、人生における大きな課題のひとつ。20代30代の頃は、自分は永遠に元気なままで、いつまでもバリバリ仕事したり遊んだりできる気がしていました。50代を迎えると、死はそれなりに身近で手ざわりのあるものになってきます。いやまあ、70代80代の先輩たちに言わせればちゃんちゃらおかしいんでしょうけど、必ずやって来る死を迎える日までに何ができるかなんてことは、頭の片隅で考えずにはいられません。
がんの告知を受け、しかも、あちこちに転移していて手術はできないとお医者さんに言われたら、どんな気持ちになるでしょうか。ショックなのは当然ですが、それを乗り越えて、じつに見事な行動に出た元経営者がいます。建設機器メーカーとして知られるコマツ（小松製作所）の元社長で、国家公安委員会委員なども務めた安崎暁さん（80）が、11月20日付の「日本経済新聞」朝刊に、読む人を驚かせ、うならせる個人広告を出しました。
時候の挨拶から始まり、がんが見つかったことを述べ、続けて「残された時間をQuality of Life優先にしたく」「副作用にみまわれる可能性のある放射能や抗がん剤による治療は受けないことにいたしました」と現在の自分の状況を報告。続いて、1961年にコマツに入社してから今日まで「40余年、皆様方には公私ともに大変お世話になり、誠にありがとうございました」と感謝を述べ、次のような表現で「感謝の会」の開催を告知しています。
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つきましては、私がまだ元気なうちに皆様方に感謝の気持ちをお伝えしたく左記の通り感謝の会を開催することにいたしました。
ご都合のつく方々にご参加いただきお会い出来ましたら私の最大の喜びでございます。
日時は12月のとある平日の11時30分〜13時30分。会場は古巣であるコマツの本社からも近い高級ホテルの宴会場。おそらく、後輩たちが昼休みに顔を出せるようにという配慮でしょう。「会費お志等のお気遣いは無用です」という但し書きもあります。パーティの費用も新聞広告の費用も、すべて自腹だとか。人生の集大成として、パーッとお金を使ってお世話になった人を幅広く招待して感謝を伝える。それができる実績と人望を積み重ねてきたことも含めて、なんて素敵な生き方でしょう。
安��さんがコマツの社長に就任したのは1995年。当時のコマツはバブルの負の遺産に苦しんでいました。彼が土木建設など不採算事業からの撤退やエレクトロニクス事業の推進を大胆に行なったおかげで、その後の発展の土台がかたまったとか。2001年に会長になってからも、あちこちの会社で取締役を務めたり、さまざまな団体の会長や理事長を務めたりなど引っ張りだこの人気です。きっと、とても魅力的な方に違いありません。
実際に出席するわけではありませんが、参加者はどんな顔をして出席して、主役の安崎さんとどんな会話を交わすのかと、余計な想像をしてしまいます。ただ、これだけの思い切ったことをやる人のまわりには、肝の座った人が集まっているはず。参加者ひとりひとりが本人の覚悟を尊重して、さぞ明るく楽しい会になることでしょう。そして、安��さんはどんな挨拶をなさるのか。間違いなく、参加者の胸に深く刻まれる挨拶になるはずです。
ネット上には、自分もこういう状況になったら同じような会を開きたい、という声もちらほら。たしかに、憧れと尊敬の念を抱かずにはいられないカッコイイ「幕の引き方」です。有名人が「生前葬」を行なったという話をたまに目にしますが、重いがんでお医者さんにもう手術はできないと言われた状況で、自分がまだ元気なうちに感謝の気持ちを伝えようと決心するのは容易ではありません。多くの人は、そこまでの気力はないでしょう。
実際にはなかなか難しいからこそ、「死ぬ前に、こうした会を開きたい」と願いつつ生きるのは、けっして悪くない方向性です。自分の経済力や友達の数に合わせた形で、会いたい人やお礼を言いたい人に集まってもらえたら、そんな嬉しいことはありません。何より、そんなことをやろうと思う気力と潔よさがあるお年寄りになれたら、なんて素晴らしいんでしょう。死を考えることは、生き方を考えること。最後の会にたくさんの人が来てくれるように、まわりの人を大切にして、一生懸命に日々を生きていきたいものです。
【今週の大人の教訓】
見事な行動にケチをつけたがる人には、見事な行動はできない
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