政府の「スニーカー通勤奨励」で予想されるサラリーマンの“凄惨”なファッション

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2017年11月27日 19:00  citrus

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来年、スポーツ庁がスニーカー通勤を呼びかけるプロジェクトを発表するという。クール・ビズだからと環境省にいわれ、ようやくネクタイを外し上着を脱ぐことにした日本人は、きっと盲目的に従うに違いない。学生時代は生徒手帳に、社会人になってからは、上からお達しがないと自分が着る服すら選べないことにはため息しかでない。

 

スーツにスニーカーで颯爽と通勤電車に乗り込むサラリーマンが増えるのは確実だが、伊勢丹が推奨するようにスマートなスーツ&スニーカースタイルならともかく、現実はいまから凄惨な状況が目に浮かぶ。「悲惨」どころじゃない。「凄惨」だ。

 

たしかに足元は楽チンだろう。いつもより足取り軽く、朝はひと駅先まで歩けるし、帰りはいつもよりひと駅手前で降りることもできる。だが機能性を優先するならスーツを着たままというのは何かおかしい。オフィスについたら革靴に履き替えるだけで済むという理屈だろうが、いつもよりひと駅多く歩いたあと、汗だくのワイシャツのままでデスクに向かうのはいただけない。健康促進は結構だが、スニーカーに囚われすぎて様々なことを忘れてはいまいか。健康促進が目的なら、本格的にジャージー通勤やジョギングウェア通勤を推奨すべきで、中途半端なスニーカーブームの強制的な仕掛けだとしたら、きっと背景には大手広告代理店が手ぐすねを引いている。

 

革靴やハイヒールで出社して、オフィスではサンダルに履き替えるサラリーマン・OLは少なくない。これには賛否両論あって、オフィスだから楽チンな足元が許されるというのは職種やオフィスの雰囲気にもよるはずで、私などは役所や銀行などの窓口の人がサンダル履きだったりするとがっかりである。かつて米ニューヨーク市でジョギング通勤や自転車通勤が流行ったときに、オフィスでは革靴、ハイヒールに履き替えるのだと報じられ、日本中が「?」となったのだが、むしろビジネススタイルにサンダル&スニーカーは、ドレスコードとしてアウトというのがグローバル的に至極当然だ。服装が人に与える印象を気にしない日本人に多くて、これはひとえに親から子へ、あるいは学校、社会で服装について学ぶ機会がまるっきりないからにほかならない。

 

先日キリリとかっこよくスーツを着こなした社会人一年生に取材する機会を得た。やけにモデル顔の彼は案の定、お父様がスペイン人だという。それにしてもスーツ姿がキマっていますねと尋ねると、子供の頃から父親にうるさく言われてきたというのだ。服装に厳格な父の服育が功を奏していることを目の前のイケメンが証明していた。

 

多くの欧米のファッショニスタ、ウェルドレッサーといわれる人物を取材してきたが、皆口を揃えて「父や祖父に着こなしを教わった」と話す。海外では父が子に服の着方を教えるのはアタリマエだ。服装の基礎は親から子へと受け継がれるもの。基礎を知らずに応用ができたとしても、それはまぐれかどこかできっと論理が破綻している。掛け算を知らずに、たまたま因数分解ができたようなものだ。スーツにはスニーカーを履けと教える父親はいない。

 

思い返せばクール・ビズ初期はひどいものだった。スーツのジャケットを脱いだだけ、ネクタイを外しただけのサラリーマンが街中に溢れ、まるで一日中お昼休みのオフィス街の有様。ようやく襟もとが広がらないボタンダウンやカッタウェイなどのシャツや、腰回りがぴったりスマートな単品パンツが行き渡り、最近では半袖シャツもカッコよく着こなすクール・ビズな人が増えている。これも政府主導の“服育”の賜物と考えれば、スニーカー通勤奨励はその前哨戦となるのか。

 

スニーカー然たるゴム底の革靴は、昔からある「ウォーキングシューズ」のカテゴリーだが、2011年の震災以降、売上げが拡大している。歩きやすさを第一に考慮した革靴モドキだが、Nikeのエアクッションシステムを搭載するアメリカの高級靴メーカー、コールハーンでも主力の商材だ。「いきなりスニーカー」は少々乱暴だが、ウォーキングシューズの奨励から入るべきだったのではないだろうか。

 

先日、某国産本格革靴ブランドが、来春は軽量で歩きやすいスニーカー底の革靴モドキのカテゴリーに本腰を入れると聞いた。そもそも欧米の革靴文化は本来、駅まで10分歩いて電車やバスに揺られ、出社したら一日中足を棒にして外回りにする人が履くことを想定していない。執務室を有する邸宅内の貴族か、オフィスまで専用車が迎えに来て、絨毯が敷き詰められた廊下しか歩かない人のための靴だ。壊れた高級ブランド靴を修理に持ち込んだら「お客様、この靴を履いてお歩きになられましたか?」というジョークもある。日本のサラリーマンに相応の靴が供されてもいいだろう。ただし、それを父が子へと受け継ぎ、やがて日本の服装の文化として定着させる覚悟ももってほしい。流行やトレンドに踊らされがちな軽薄な日本の服装文化が、こんなところに表れているように思えてならない。

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