<「自分はいったい、何者か?」アイデンティティーの探求にもがく英在住ムスリムの若者たちの姿>
イギリスの街角に立つ浅黒い肌の彼らは、カメラを見据えながらこう問い掛けているようだ――自分はいったい、何者か?
パキスタン系イギリス人の写真家マタブ・ハサンは、現代イギリス社会に生きる南アジア系ムスリムの青年たちを9年間にわたり撮影してきた。ロンドン、ノッティンガム、バーミンガムなどの地域社会で彼らと対話し、その言葉も記録する。
ハサンがこのプロジェクトに乗り出したのは、移民の両親の元に生まれた自身の境遇ゆえだ。同じ移民の居住地区で過ごした幼少期は人種について疑問に思うこともなかったが、両親の離婚で状況は一変。白人労働者階級地区に移り住むと、「パキ」「いつ国に帰るんだ」といった言葉を浴びせられるように。一方で、白人の友人もできたハサンはパキスタン系の仲間から「白人過ぎる」と揶揄された。
移民の中だけで育ったら、「自分と違う人々を恐れるようになっただろう」とハサンは言う。「白人至上主義者がマイノリティーに恐怖を抱くのと同じ。人種差別は双方向に働く」
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アイデンティティーの探求にもがく若者たちの姿を、ハサンは鮮やかに切り取っている。
Photographs by ©Mahtab Hussain 2017 courtesy MACK; from the book "You Get Me" co-published by MACK and Light Work
「もし誰かに自分のアイデンティティーについて聞かれたら?
『もちろんイギリス人だ』って言いたいところだけど、
えっ?という顔で聞き返されるのは分かっているから、
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『いや、イギリスのムスリムだ』と答えざるを得ないだろう」
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「自分は望まれない存在だ。ここで生まれたのに、
今でも『国へ帰れ、ここの人間じゃないだろう』と言われる。
僕はこう思う。僕の家はここだ」
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「僕はイギリス人でアジア人......そう、半々だ。
誰だって自分のルーツを忘れないだろ?
だからってココナツ(外側が茶色で中身が白い
白人かぶれの有色人種)なんて呼べないだろ?」
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「自分はイギリス国民だ、パスポートも持っている。
祖先も自分もこの国で働き、
イギリスを形作るのに貢献している」
「9.11米同時多発テロが起きたとき、
僕は4歳だったから何も理解できていなかったけど、
今ならメディアでムスリムがどう描かれているか分かる。
すごく偏った描写だ。僕たちは皆テロリストで、邪悪で、
この国を乗っ取ろうとしている、と」
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「メディアは、あごひげを生やし、
リュックサックを背負って歩く男をテロリストだと決め付ける。
髪を剃った白人は皆、ネオナチなのか?」
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「最初から人種差別主義者の奴もいなければ、
生まれついてのテロリストや過激主義者もいない。
彼らは洗脳されてそうなる。真の容疑者はメディアだ」
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「白人労働者階級の人々は概して、
僕たちを縛るのと同じ奴らに縛られている。
奴らは見事に分断に成功している」
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「僕は多くの挫折も経験したが、
そのおかげで人間として成長できた。
もし何不自由ない家に生まれていたら、
こうはいかなかっただろう」
「今の彼女はイギリス人で、
美しい田園地方に住んでいる。
僕は週に3、4回も喜んで通っている。
もし以前と変わらず地元にずっといたら、
僕はもっと嫌な人間になっていただろう。
人は環境によってつくられる」
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「若いムスリム男性の抱える大きな問題は
志の低さと、手本となる人物がいないことだ。
ごく普通のアジア系の若者の手本に誰がなる?」
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「友人たちには、『何でいつでも深刻なんだ、
リラックスしろよ』とよく言われる。
でも気を抜いたら落ちこぼれ、成功できなくなると思う」
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「ムスリムの男はピラミッドの底辺にいる。
悪党で密売人で、過激主義者だ」
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「ギャングだの犯罪だのは、
アジア系コミュニティーに特有のものじゃない。
黒人や白人のコミュニティーでもあり得ることだ」
撮影:マタブ・ハサン
1981年、イギリス生まれ。両親はパキスタンからの移民。シティ大学ロンドンとノッティンガム・トレント大学でアートなどを学び、後者で博士号の取得予定。英芸術・人文科学研究評議会をはじめ、多くの芸術関連団体やメディアから高い評価を受けている。本作は最新写真集「You Get Me?」(英MACK社刊)からの抜粋
[本誌2017年11月21日号掲載]
<「Picture Power」の記事一覧はこちら>
Photographs by MAHTAB HUSSAIN
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