パイオニアに聞く 日本のインバウンドビジネスの現状と課題(1)

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2018年02月01日 19:03  新刊JP

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パイオニアに聞く 日本のインバウンドビジネスの現状と課題(1)
人口減少局面に入った日本にとって、「グローバル経済の中でどのように稼いでいくか」は大きな課題となる。

長らく日本のお家芸とされてきたモノづくりを見ても、新興国の台頭著しい今、日本がいつまで世界の中で優位を保ち続けられるかは未知数であり、新しい収益の柱の確立が急務となっている。

そんな中、注目を集めている概念、そして市場が「インバウンド」だ。観光業界においては「訪日外国人観光客」を指す言葉として以前から知られている「インバウンド」。しかしこの言葉は必ずしも実態の全部を表していないとするのが、『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則 未来を読む「世界の国・地域分析」と「47都道府県別の稼ぎ方」』(日経BP社刊)の著者で、10年も前からこの分野に携ってきた中村好明さんだ。

今回は中村さんご本人にインタビュー。真の意味でのインバウンドが示すものと、多くの人にビジネスチャンスが開かれているその巨大な可能性、そして日本のインバウンドに今後求められるものについて聞いた。



――『儲かるインバウンドビジネス10の鉄則 未来を読む「世界の国・地域分析」と「47都道府県別の稼ぎ方」』について。まずは中村さんがインバウンドに関わるようになったきっかけについて教えていただきたいです。

中村:私が今代表を務めている(株)ジャパンインバウンドソリューションズの業務の源流は、2008年7月に始動したドン・キホーテグループのインバウンド・プロジェクトです。そのプロジェクトリーダーに任命されたことが、私がインバウンドに関わるきっかけとなったのです。

その当時は「インバウンド・プロジェクトのリーダーをやってくれ」とオファーをもらっても「一体なんでしょう、インバウンドって?」という状態で、私はまったくの素人でした。それゆえプロジェクトを始めるにあたっては、何もかもが一からの勉強でしたね。当時はまだ情報も少なかったのです。すべてを独学で学び、調べあげるような感じでした。

――そのプロジェクトを始動してみて、何を感じましたか?

中村:そうですね。もっというとそのインバウンド・プロジェクトは、当時任命されてうれしいような仕事ではありませんでした。マーケットは未知数でしたし、ドン・キホーテの未来に役立つかどうかもわからない。他の業務で手が回らないという状況でもありましたから、正直内心では断りたいなと思ったくらいです。

しかし、そうやってミッションを受けて、自分なりに調べて動き出してみて、インバウンドは“ドン・キホーテの未来、そして日本の金の鉱脈”になりうると気づきました。未開拓ではあるけれど、アジアの将来の人口動態やアジア諸国の一人当たりのGDPの今後の伸びしろというようなデータを見ていくと、10年後、20年後には巨大なマーケットになる可能性が見えていた。これはドン・キホーテの未来であり日本の未来だと確信したのです。

――本書ではインバウンドを通常よりかなり広い意味に定義されています。このことの狙いはどんな点にあったのでしょうか。

中村:狙いというよりも、それがまさに現実そのものなのです。“インバウンド”という言葉は日本では「レジャー目的で訪日する外国人観光客」というふうに狭義にしか捉えられていないのですが、世界的にはもっと広い意味で使われる大きな概念です。

たとえば、今日本では「日本版DMO」(注:Destination Management/Marketing Organization)という従来の観光協会をバージョンアップさせた新組織への移行を政府は促しつつあります。ところが、たとえばイギリスのロンドンのDMOである「ロンドン&パートナーズ」という組織では、すでに観光客の誘致(ツーリズム)に加えて、海外からの留学生の誘致やロンドンへの投資の誘引(シティセールス)まで一手に引き受けているのです。

このロンドンの先進事例において、インベストメント(投資)もシティセールスもエデュケーションもツーリズムも一つの組織がマネジメントしていることからもわかるように、これらをすべて含めて広義の「インバウンド」なのです。

本来のインバウンドとは、観光業界やレジャー産業だけのものではありません。この本では、より広い意味でのインバウンドを扱っていますので、観光業界の方々だけでなく、様々な業種・業界の方々に手に取っていただきたいと願っています。

――インバウンドビジネスを持続可能なものにしていくために、本書では「哲学」と「ビジョン」を持つことの重要性を説いていらっしゃいますが、現場で働く人はどうしても目先の利益に目がいきがちです。リーダーは哲学やビジョンをどのように浸透させていけばいいのでしょうか。

中村:ノウハウもテクニックも、それで稼げるのはごく一時期であって、それらは時代の変化の中ですぐに更新されて古いものになっていく。ましてや世界の新興国の成長スピードを考えると、小手先のハウツーなど瞬時に陳腐化してしまいます。

この本で述べている哲学やビジョンとはまさに読者の皆さんご自身が時代の変化にジャストミートできる新たなノウハウやテクニックを生み出す力を授けるものなのです。

読んでいただいて、いいと思ったら同僚や部下、上司など周りの人に広めて共有していただければ嬉しいですね。

――中村さんはこの本で書かれているようなインバウンドビジネスのビジョンや哲学を伝える活動をされています。この活動を始めた頃と今とで、受け取り手の反応が変わってきたと感じますか?

中村:今回の本以外にもインバウンド関連の本をすでに5冊書いているのですが、読者層が広がってきた実感はありますね。以前は自分の本を手に取ってくれる方はどうしても観光関係の方々に限られていたのです。

今回の本については、すでに思いもかけない業種の方々から、読みましたよと声をかけていただいたりしています。インバウンドや観光に携っていない業種のビジネスリーダーの方々にも読んでいただけているようです。

また、講演に来てくださる方も増えてきています。私は国内外で年間約200回講演をするのですが、今は合わせて年間のべ約5万人もの方々に聞いていただけています。「中村さんの今回の本、もう読みましたよ!」と嬉しい声もかけていただいています。まだ読んでいないという方はぜひご一読いただきたいですね。

(後編につづく)

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