暴露本『炎と怒り』が明かすトランプ政権の深層

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2018年02月13日 18:22  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<トランプと保守派メディアの太いパイプや広報対応のずさんさが明らかに>


ドナルド・トランプの大統領就任の裏で大きな役割を果たしたのが、テレビ局のFOXニュースやオンラインメディア「ブライトバート」といった右派メディアだ。彼らはトランプを大統領にふさわしい人物と持ち上げ、共和党の既存の政治家に取って代われる存在だというイメージをつくり上げた。


マイケル・ウルフの新著『炎と怒り』にも、トランプと保守派メディアの蜜月ぶりや政権の広報部門の裏側が赤裸々に描かれている。暴露された10の「事実」を紹介すると......。


【1】ロジャー・エールズはFOXニュースのCEOとして米政界に多大な影響力を持ち、大統領選でトランプの助言役も務めた人物。16年にセクハラ疑惑で同社を去ったが、トランプの右腕だったスティーブ・バノン大統領首席戦略官・上級顧問(当時)に接近。新たな保守系テレビ局を立ち上げてFOXの有名キャスターらを引き抜く構想について相談していたという。


「(FOXの看板キャスター)ビル・オライリーと(トーク番組の人気司会者)ショーン・ハニティが加われば、近い将来、トランプに刺激された右派の情熱と主導権による新時代が訪れ、大きなテレビ利権が生まれる可能性があった」と、ウルフは書いている。


【2】そのエールズは「トランプが自分の悪口ばかり言っている」という報道に傷つき、トランプと仲たがいしていたと、ウルフは指摘する。エールズは「最高の忠誠心を求める男ほど他人への忠誠心が薄いものだ」と不満を漏らしていたという。エールズは昨年5月、77歳で亡くなった。


【3】トランプは何かにつけてニューヨーク・タイムズ(NYT)やCNNといった大手メディアを批判するが、その一方で主要メディアが自分についてどう報じるか常に気にしていたという。「大統領の会話のかなりの部分は、キャスターや司会者が彼について言ったことの繰り返しだ」と、ウルフは書く。毎日何時間もテレビを見ているという報道について、トランプは否定しているが。


【4】ウルフに言わせればトランプは典型的な女性差別主義者だが、職場では女性を信頼している。女性のほうが男性よりも忠誠心が強く、信頼が置けるからだという。ただし女性はセクハラを我慢しない限り、トランプと一緒に働くことはできなそうだが。


【5】テレビカメラの前で激しい言葉でトランプを擁護する姿が印象的なケリーアン・コンウェイ上級顧問。だがプライベートでは、大統領をこき下ろす発言を連発しているようだ。「彼女はトランプをひどい誇張ばかりのばかげた人物と見なしているようだ。彼女は大統領に対する自身の考えをさまざまな表情を駆使して伝えている。軽蔑のまなざしを向けたり、口をポカンと開けたり、頭を振ったり」


【6】28歳の若さで広報部長に抜擢された元モデルのホープ・ヒックスは、トランプ陣営の選対本部長で後に解任されたコーリー・ルワンドウスキと恋愛関係にあったと噂されている。トランプはヒックスに向かって、「ルワンドウスキが付き合った女の中で君が一番セクシーだな」と言い放った。ヒックスは「トランプの下で働いた誰よりも献身的で、(トランプのセクハラに)寛容だ」と、ウルフは指摘している。


【7】メディア対応の最前線に立つ大統領報道官のポストには、FOXニュースの人気司会者タッカー・カールソンや、保守派の論客ローラ・イングラムなどの名前も挙がっていたという。結局、白羽の矢が立てられたのは長年共和党の中枢で働いてきたショーン・スパイサー。オファーを受けたスパイサーは、「引き受けたら、再び仕事をすることができるだろうか」と自問したという。


【8】トランプはNYTのベテラン記者で、ゴシップに強いマギー・ハバーマンをやたらと気にしているという。彼女の記事はホワイトハウスの内情を詳細かつ批判的に伝えるもの。「トランプはクイーンズ出身で、NYTに畏怖の念を抱いている。その点を除けば、トランプをあざ笑い、イメージを悪化させるハバーマンにトランプとヒックスがなぜ期待するのか、ホワイトハウスの誰も理解できない」


【9】トランプの娘婿で上級顧問のジャレッド・クシュナーと、バノンの仲がしっくりいっていなかったのは周知の事実。2人はそれぞれ独自のメディア戦略を持っており、親しいメディアにリークした情報の内容が食い違うこともしばしばあった。


バノンの広報部長を務めていたアレサンドラ・プリエイトは「ウイットに富み、シャンパンに目がない保守派のセレブ」。彼女が親しくしている保守派の大富豪レベッカ・マーサーは、ブライトバートを含むバノンの政治活動を支援してきたとされる。ただしマーサーは『炎と怒り』の出版に先立ち、バノンと距離を置く声明を出した。


【10】トランプ政権の「広報活動はホワイトハウスの現代史の中でもまれに見る機能不全状態に陥っている」と、ウルフは書く。広報業務を取り仕切るのは広報部長のヒックスと、昨年7月に辞任したスパイサーに代わって報道官に就任したサラ・サンダースだ。サンダースはウルフの新著を「今まで誰も名前を聞いたことがない著者によるごみ」と切り捨てた。


<本誌2018年1月23日号「特集:トランプ暴露本 政権崩壊の序章」から転載>


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アレクサンダー・ナザリアン(本誌シニアライター)


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