誰しも、年をとっていくもの。では、年をとるとどうなるのか? 加齢にまつわる話題をピックアップ。華麗に加齢と向き合うヒントを探っていきましょう。
第9回:「ゴミの中から現金」事例に見る、高齢期の金銭管理
ゴミ処理場から多額の現金が見つかったというニュースが相次いで報じられ、話題になっています。富山市内の廃棄物処理施設で昨年11月に見つかった1700万円は、落とし主が現れないまま、保管期限(3カ月間)が過ぎ、遺失物法にもとづき、拾得者である同施設が取得の権利を得たと言います。一方、群馬県沼田市のごみ収集会社の敷地で見つかった現金4000万円は持ち主が特定されたものの、すでに亡くなり、遺族が遺品と一緒に誤って捨てたことがわかりました。
|
|
高齢者が自宅に現金をしまいこみ、家族がそうと知らずに処分してしまうケースは決して珍しくありません。遺品整理の経験者に聞くと「洗剤の空き箱や冷蔵庫の中など“なんで、こんなところに?”と言いたくなる場所から現金が出てくる」(55歳・女性)、「古い布団の間から50万円近く入った封筒が出てきて驚いた」(60歳・女性)といったエピソードは尽きません。
■高齢者が現金を自宅で保管したい理由
|
|
なぜ、高齢者は金融機関ではなく、自宅に保管する「タンス預金」を好むのでしょうか。その背景として考えられるのは「現金が手元にないと、いざというとき困る」という不安感です。
私たちの日常生活のなかで「現金が手元にないと困る」場面は限られています。近くにコンビニエンスストアがあれば、24時間ATMで出し入れできるし、ちょっとした買い物であればSuicaなどの電子マネーで決済する手もある。
|
|
一方、高齢の方々の暮らしぶりを見ると、やはり現金決済が中心。「コンビニATMの存在は知っているし、使おうと思えば使えるけど、手数料がもったいない」という心理的ハードルや「近くにコンビニや銀行のATMがない」などの地理的制約もあります。また、80代以上の方だと「ATM操作が苦手」「生活費は窓口でまとめておろすのが習慣」という人も少なくありません。
■現金の隠し場所と認知症
実家の片づけを手伝うと、冷蔵庫に洋服ダンス、古新聞入れなど、予想もしない場所から現金が現れ、驚かされることがあります。巧妙に隠しすぎて忘れてしまった“へそくり”の可能性もありますが、もしかしたら認知症の兆候かもしれません。
「手元に現金がないと心配」なため、まとまった現金をおろす。でも、そのしまい場所を忘れ、「誰かに盗られたのではないか」と不安になる。今度は盗られないよう、誰にもわからないような場所にしまう。そして、再びどこに保管したのかを忘れてしまい……の無限ループが起きかねないのです。
義理の両親が認知症だとわかったとき、介護経験がある母からの助言は、まさに「片づけをお手伝いするときは、現金を間違って捨てないように気を付けて」。実際、これまで古いチラシや新聞の間から現金を何度か発見しています。1か月分の生活費が手つかずのまま、出てきたこともあれば、くしゃくしゃのティッシュにくるまれた、ほぼ“紙ゴミ”状態の1万円札を発見したことも。
■「奇妙な場所から見つかる現金」は老親からのSOSサイン
思いがけない場所から現金が出てきたときのショックはなかなかのものです。親が元気な場合は「ちょっと、どういうつもりなの!?」と文句のひとつも言いたくなるかも。でも、ここで親を責めるのは得策ではありません。
高齢になるにつれ、お金の管理が難しくなっているとしたら、誰よりも困っているのは親自身のはず。不安を覚えながらも、相談できずにいるのかもしれません。そんなとき、子どもにきつい口調で責められたら、助けが必要でも言い出せなくなります。
では、どうするか。私自身がやってみて好感触だったのは「爆笑しながら報告」作戦です。チラシの間から1万円札がヒラヒラ現れたり、ごみ箱の中から現金入りの封筒を見つけたりしたら、即座に「おかあさーん、たいへんたいへん、お宝発見!」とゲラゲラ笑いながら報告しました。
現金がなぜそんなところにあるのかは深く追求せず、今後の注意も反省もなし。奇妙な場所から現金が出てきちゃうのはタブーではなく、楽しいハプニング。ひたすら「見つかってラッキー」を伝え続けたところ、ある時期から実家に行くたび、義母から「ねえねえ、聞いて。引き出しを開けたら、封筒にお金が入ってたの……!」と嬉しそうに告白されるようになりました。
おかあさん、それ、頼まれておろしてきた生活費ですから〜〜!! なんてことも少なからずありますが、それはそれでご愛敬。ものをしまうときの行動パターンが見えると、探しものもずいぶんラクになります。何より、お金を巡ってピリピリした雰囲気にならずにすむので、お互いストレスが最小限ですむのです。