たとえ株価が下がろうとFRBは超低金利から中間層を救うべきだ

4

2018年02月14日 19:52  ニューズウィーク日本版

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ニューズウィーク日本版

<短期的に景気が後退するとしても低金利政策によるバブルを軟着陸させたほうがいい>


2月1日以来、スタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数は5%近く下げ、数年ぶりの大幅下落を記録した。


不動産関連株はさらに大きく下げた。最大規模の米不動産インデックスファンドは2月1日以来6%下げ、年初来10%の下落となった。


こうした大幅急落はほんの序章にすぎない。投資家はFRB(米連邦準備理事会)の新議長に就任したジェローム・パウエルが利上げペースを維持するか加速するとみており、株や不動産など、金利上昇から悪影響を受ける資産から資金を引き揚げている。


一部の投資家や市場の専門家からは、景気後退を引き起こさないよう利上げペースの緩和を求める声もあがっている。だがパウエルはそんな声を無視すべきだ。10年続いた超低金利政策は、貯金に老後を頼る中産階級を苦しめ、市場をゆがめた。


金利を急に従来の水準に戻せば、株価の下落や短期的な景気後退を引き起こすかもしれない。だがそれは、アメリカに残る自由な企業精神と自助の精神を守る唯一の方法だ。


ゼロ金利政策の巻き添え


2008年秋の金融危機に際して、FRBは融資と投資の刺激策として金利をゼロに引き下げた。景気後退のさなかの急激な利下げは筋が通っている。だが、その後に起きたことは前代未聞だった。09年に景気後退は一段落したのに、FRBは2015年12月までゼロ金利政策を継続したのだ。


FRBの決定は巻き添え被害をもたらした。特に大きな損失を被ったのはベビーブーム世代だ。高齢者や退職間近の人々は従来、資産を譲渡性預金(CD)や国債といった安全資産に預けてきた。


だがこれらの資産は近年、ほとんど利息がつかない。1年物CDの金利は現在約1.8%。インフレ率が1.8%前後で推移していることからすれば、実質金利はゼロだ。多くのエコノミストは、政府のモデルがインフレ率を過小評価していると感じている。つまりCDでは実質的に資産が目減りしている可能性もある。


一方、10年物米国債の利回りは現在約2.8%で、2013年以降利回りが3%を超えたことがない。


こうした金融商品のリターンがあまりにも低いため、退職者には2つの選択肢しかなくなった。元金を取り崩しながら生活するか、高リターンを求めて株やジャンク債のようにリスクの高い投資に手を出すか。


先週の株価急落は、強気相場が永遠に続かないことを示している。株式は本質的に変動しやすく、株価は過去最高水準に近い。著名投資家ウォーレン・バフェットはかなり前から人々に警告してきた。「短期間で株価が50%下落して困る人は、株を買うべきではない」


虎の子の蓄えが半分に目減りした退職者の心境は察するに余りある。


FRBが金利を上げ、10年物米国債の利回りを過去平均並みの6.24%に戻した場合、56歳の夫婦が年金を100%受給できる67歳になるまでの間に、退職金をリスクなしで倍に増やすことができる。


10年に渡る低金利政策は、単に人々の貯蓄に損失を与えただけではない。それは一攫千金的な文化を刺激し、長期投資は損と感じる風潮を作った。デイトレーディングと不動産転売ブームが復活したのは、人々が資産価格のさらなる高騰を期待するようになったからだ。読みが外れれば、厳しい結果が待っている。


超低金利はアメリカの若者のキャリアに対するインセンティブを歪めた。数世代前の最優秀層の学生は、医学や工学、科学分野のキャリアを追求したものだ。そこでは成功の報酬が生涯にわたって発生した。


今は多くの優秀な若者が、一攫千金をねらって金融界になだれこんでいる。彼らは複雑な金融商品や低金利の資金に頼って、早く大きな利益を得ようとする。


景気後退の長期的効果


低金利融資は、経済バブルを引き起こす典型的な元凶だ。投機家は低コストで資金を借りて資産価格を押し上げ、バブルがはじける前に売り逃げようとする。必然的に、誰かが貧乏くじをひかされる。資産バブルがこのまま膨れ上がり破裂するのを待つよりは、今のうちに萎ませるほうがいい。


金利を従来の水準まで上げることは、一時的に経済成長を滞らせるだろうし、短期的な景気後退さえもたらすかもしれない。だが景気後退は痛みを伴うが、長期的には経済をより健全なものにするのに役立つ。


古い茂みを焼き払う火事が森林の再生を促すように、景気後退は低金利融資のおかげで生き残った赤字を垂れ流す「ゾンビ」企業にとどめを刺すだろう。金利の上昇は、長期的な経済成長と雇用創出を促進する生産的な企業に資本を再配分させるだろう。


今こそ、倹約、産業、貯蓄などアメリカを築く礎となる習慣を奨励する通貨政策が必要だ。




トッド・スタイン(米投資銀行ブレイサイド・キャピタル社長)


このニュースに関するつぶやき

  • 身勝手な拝金主義者はどこの世の中でも迷惑だ。社会の足を引っ張るナマポを中心とするクズどよりも迷惑な存在かもしれない。
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(2件)

ニュース設定