慈善団体オックスファムの買春を大目に見るな

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2018年02月23日 16:12  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<職員がハイチの被災地やチャドの支援先で女性を買春。言語道断の行動になぜ世論は沈黙しているのか>


英労働党は事件について正式にコメントせず、怒りのツイートの少なさは驚くほど。セクハラや性犯罪の告発で権力の座にある男性を脅かした「#MeToo(私も)」のようなキャンペーンも起きていない......。それが、イギリスに本部がある国際協力団体オックスファムのスキャンダルに対する現時点での反応だ。


貧困問題に取り組むオックスファムの職員が、10年に大地震に見舞われたハイチの被災地やチャドなどで買春、レイプ、性的虐待を行っていたのが明らかになったのは2月上旬のこと。もちろん、政党が全てのニュースに声明を出すのは無理だし、どれほど怒れる活動家もあらゆる問題にひたすら憤怒することはできない。だが、それにしてもこの「沈黙」は奇妙だ。


1月、英政財界などの有力者の団体プレジデンツ・クラブの慈善夕食会で、一部の出席者が接客係の女性にわいせつ行為をしたと判明したときはどうだったか。メディアは事件の話題一色になり、新事実が報じられるたびに、ソーシャルメディアでは怒りの大きさを競い合うかのように激しい批判が噴出した。


富裕層が集うプレジデンツ・クラブが、男性会員限定で開いた夕食会での出来事は低俗そのものだった。接客係の体を触ったり性的誘いをかけたりした愚かな男たちは、非難の集中砲火を浴びて当然だ。


スキャンダルの本質は


それでも、どう考えてもオックスファムの事件のほうがずっとひどい。英政府の助成金を受けている事実を脇に置いても、今回の事件はまるでレベルが違う。接客係に対するセクハラは言うまでもなくとがめられるべきだ。しかし無防備な状態に置かれた被災地の女性を、支援に駆け付けたはずの人間が性的に搾取するのは極悪非道だ。


被害者の立場を念頭に、相対的に判断しなければならないと(左派にありがちな)主張をしようと、オックスファム職員の行動の非道さは変わらない。確かに男性有力者ばかりの場で、ウエートレスとして働く女性の立場は比較的弱い。だが被災地で食べ物にも事欠く少女と、食事や避難所の提供者として舞い降りた「救い主」の立場の差とは比べものにならない。


なのに、なぜ怒りの声が燃え上がらないのか。わいせつ行為の発覚を受け、プレジデンツ・クラブは解散に追い込まれた。一方でオックスファムは活動を続け、即座に弁明してくれる擁護者までいる。オックスファムは世界中で多くの善行をしている、事件はごく少数の悪者の仕業であってその場で報告された、などなど。正しい対応はオックスファムへの助成金を増額することだ、と発言したコラムニストすらいる。


そんな主張は真実ではなく、正当な理由になるとも思えない。過酷な環境で活動する支援団体は数多いが、オックスファムの場合は援助物資の提供だけに熱心なわけではない。少なくとも同じくらいの熱意で、彼らは反資本主義のロビー活動に取り組んでいるように見える。


今回のスキャンダルの本質は悪質な職員の存在ではなく、事件を隠蔽し、問題の職員をひそかに転任させた組織の体質にある。買春などの行為は、少なくとも全面的にはその場で報告されてはいない。援助団体への助成金を増やすのであれば、自らの主張の宣伝ではなく、学校や病院の建設、被災地支援にカネを使う団体に与えるべきだ。


2つのスキャンダルへの反応に、これほど差が生まれた理由は何か。答えは人間の思い込みだろう。私たちは潜在意識レベルで、人々を「善」と「悪」に二分してしまう。リッチな実業家は援助活動家より同情を寄せにくい存在であり、彼らを見る目はより厳しくなる。


見ないふりの果ての愚行


しかし逆説的な話だが、ある組織を大目に見たら、その組織は劣化する。援助活動に取り組むという倫理的優越性に世論の甘い目が加わったとき、身を律することができる組織などほとんどない。大規模な支援団体の活動を間近で目撃する貧困国の人々にしてみれば、今回の事件は特に驚きではないはずだ。


いい例が国連だ。国連関係者が援助物資と引き換えに、地元住民に性交渉を要求するなどの事例が発覚しているが、国連は国際平和を体現するイメージのおかげで、政府や民間組織が同様の行為をした場合ほど大きな非難にさらされていない。


ブレグジット(イギリスのEU離脱)の是非を問う英国民投票では、特に若年層の間でEUが「神聖視」されている実態が浮かび上がった。不適切な運営や説明責任の欠如、明らかな腐敗にもかかわらず、彼らにとってEUは良きものだ。反EU論者は人種差別主義者と見なされ、どんな批判も政治的動機に基づくものと断じられる。


こうした見て見ぬふりが極端化すれば、スターリン主義時代の愚行につながる。当時の欧米の知識層はソ連のスターリンの非道に目を向けることを拒んだ。共産主義者は理想を目指している、その実現に多少の犠牲は付き物という論理で、だ。


オックスファムの事件も同様の展開をたどるだろう。しばらくすれば全ては忘れられ、いずれ新たなスキャンダルが持ち上がる。権力を持つこの手の団体の体質そのものが、問題を引き起こしている可能性については誰も真剣に論じようとしない。そんな在り方は、いささか不健全だと思えるのだが。


<本誌2018年2月27日号[最新号]掲載>


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ダニエル・ハナン(ジャーナリスト)


このニュースに関するつぶやき

  • 慈善団体や市民団体など端から低俗な連中だと思っております��ʥѡ���――
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