南北融和か鼻血作戦か......北朝鮮核危機の行方は

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2018年03月01日 17:12  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<国防長官や国務長官らが反対するなか、米政権内で検討が続く北朝鮮への限定攻撃案。五輪後の朝鮮半島はどこへ向かうのか>


融和ムードいっぱいのオリンピックだった。2月25日に閉幕のピョンチャン(平昌)冬季五輪には北朝鮮選手22人が参加し、開会式では南北の選手団が統一旗を掲げて一緒に行進。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長と握手を交わした。


その2人の近くに、マイク・ペンス米副大統領が居心地悪そうに座っていた。ペンスは北朝鮮代表団との接触をひたすら避けたが、それも当然だ。つかの間の儀礼的な「ショー」の裏で、米政界では激しい論争が進行している。北朝鮮の核・ミサイル開発に、果たしてアメリカはどう対処すべきなのか――。


北朝鮮に核開発を放棄させるというトランプ政権の政策に変化はない。だがその目標をいかに達成するか、そもそも、それは達成可能なのかは今もはっきりしない。


手段として浮上しているのが、北朝鮮の核関連施設などを「限定的に」攻撃するという「ブラッディ・ノーズ(鼻血)」作戦だ。その目的は、米政権は核開発を黙認しないという明確なメッセージを送ることにある。


作戦が目指すのは、北朝鮮の核関連施設を全滅させることではなく、アメリカの軍事力を見せつけて北朝鮮に再考を迫ること。その根底には、米軍が攻撃しても、金正恩は体制崩壊につながるアメリカとの全面戦争を恐れて本気で反撃してこないとの読みがある。


鼻血作戦が持ち上がったのは17年。アメリカの国家安全保障を担うNSCの提案だった。18年の2月には、米高官らが「鼻血作戦は存在しない」と発言したものの、選択肢としての可能性は消えていない。


作戦支持派は、核を保有する北朝鮮と共存する未来はあり得ないと主張する。そんな事態になれば、核拡散をめぐって悪夢のような懸念が生まれる。日韓も核保有に走る一方、北朝鮮はならず者国家に大量破壊兵器を売却するかもしれない、と。


トランプ政権内に、核武装した北朝鮮のリスクを否定する者はいない。彼らはこぞってオバマ前政権の対北朝鮮姿勢を非難する。当時の怠慢な戦略的忍耐政策が「この混乱」の一因だと、あるホワイトハウス高官は語った(公的に発言する権限がないため匿名を希望)。


それでも、北朝鮮への一方的な限定攻撃は道理に合わないとみる向きは政権内に多い。ジェームズ・マティス国防長官、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長、レックス・ティラーソン国務長官はそろって軍事力行使に反対している。


1月半ば、カナダ・バンクーバーで開かれた北朝鮮問題に関する20カ国外相会合で、マティスは強調した。「現段階の努力は外交分野のみにある。私たちが取り組んでいるのはそこだ」


金正恩が収めた「勝利」


それこそ各国外相が聞きたかった言葉だと、会合に出席した日本のある外交官は言う。「トランプ政権には一貫して、戦争を現実的な可能性と捉える強い意識がある。一部にとってはそこが恐ろしい」


米政権が1月末に駐韓米大使の人事案を撤回した一件は、アメリカの同盟国の間に渦巻く不安を強めた。大使に内定していたビクター・チャはブッシュ元政権でNSCアジア部長を務めた人物。北朝鮮専門家であり、鼻血作戦を支持していない(チャが外されたのは政策観の相違が理由と指摘する声もあったが、実際はそれほど単純な話ではなく、チャの親族の1人が韓国に事業権益を持つため利益相反の疑いを招きかねないと懸念されたことが真相らしいが)。


身内にも否定的な声があるにもかかわらず、ホワイトハウスは今も鼻血作戦を選択肢とみている。反対派が最も警戒するのは「限定攻撃に対する金正恩の反応は分かっている」という思い込みだと、CIAの元北朝鮮担当分析官で、戦略国際問題研究所のシニアフェローであるスー・ミ・テリーは言う。


北朝鮮に対する「封じ込め・抑止」戦略の強化を支持する米政権内の一派は現在、いくつかの選択肢を取りまとめている。より包括的な制裁、北朝鮮からの不正輸出を阻止するための船舶検査および日韓米のミサイル防衛システムの強化などだ。


だが、それも時機を逸したかもしれない。平昌五輪の融和ムードの後では、韓国は北朝鮮に対しより強硬な姿勢で臨みたがらないのではないかと、アメリカは不安視している。


文との会談の際に金与正は兄からの親書を手渡し、訪朝と南北首脳会談の開催を呼び掛けた。北朝鮮に融和的とされる革新系の大統領である文は、すぐにも誘いに応じるかもしれない。米政権はその点を懸念したが、文は「条件が整えば」と当たり障りのない返答をした。


しかし、これで不安が解消したわけではない。韓国内では今後、平壌での南北首脳会談を早期に実現せよ、との政治的圧力が高まると考えられる。


同盟国を安心させるべく、アメリカは南北首脳会談を支持することになるかもしれない。さらには米政府自ら、北朝鮮との直接会談に臨む可能性もある。金正恩の「オリンピック作戦」は大成功を収めた、のか?


<本誌2018年3月6日号[最新号]掲載>


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ビル・パウエル(本誌シニアライター)


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