「ここからは私たちの番だ」全米に銃規制を呼びかけた企業トップ

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2018年03月01日 18:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ウォルマートもデルタも... 大企業が続々と銃規制の強化に賛同するアクションを取り始めた。しかし、既得権益を守ろうとする圧力は強い>


銃社会アメリカの変化の兆しなのか――


2月14日にフロリダ州の高校で起きた元生徒による銃乱射事件(17人が死亡)を発端に、全米で銃規制を求める声は高まり、企業が続々とアクションを取り始めた。そして2月28日、小売最大手ウォルマートが21歳未満の客に銃を販売しない方針を固めた。


これに続けとばかりに、スポーツ用品販売大手ディックス・スポーティング・グッズも同様の措置を発表。さらに、運営する全店舗の約800店舗でアサルトライフル(自動小銃)の販売を中止すると発表した。


銃販売の一角を担う大手2社の発表を、ニューヨーク・タイムズは「全米を巻き込んだ銃規制をめぐる論争のど真ん中に、ウォルマートとディックスが乗りこんできた」と報じ、「アメリカ企業が銃に対して行った、最も重要な動きだ」と踏み切った2社を称賛。このほか多くのメディアが好意的に伝えている。


Parkland students have turned attention from the school shooting into a gun-control movement. Here's how they did it. https://t.co/7ELC6ajaO4— The Wall Street Journal (@WSJ) 2018年2月28日


(銃撃から生還した生徒たちはSNSから銃規制の強化を求めるムーブメントを起こしている)


ディックス株価を動かす発言。そして反発するNRA


ウォルマートの広報によると、同社の決定は最高経営責任者(CEO)が決定し、取締役会に通知したという。約4000店舗で銃器を販売しているウォルマートの顧客規模はかなり大きく、影響は広範囲に及ぶものとみられる。


ディックスは最高経営責任者(CEO)のエドワード・スタックが自ら発表に臨んだ。フロリダの高校での銃乱射事件が動機になったと話し、銃規制の改革のためにアクションを取ることを明らかにした。


スタックは「パークランドの銃乱射を見たとき、とても混乱し動揺した」と話す。「私たちは子供たちと彼らが上げた声(銃規制の強化の要求)が愛しい。もうたくさんだ。ここからは私たちの番だ」


Here are the therapy dogs who were at the gates of parkland to welcome back students today.There is evil in the world, but also so much good. pic.twitter.com/o5S2c14rjY— Boogie2988 (@Boogie2988) 2018年3月1日


(銃乱射事件から2週間が経ち、生徒たちは3月1日に再び登校する。学校ではセラピードッグも待機している)


スタックの呼びかけはアメリカ中に響いた。SNS解析ソフトを手掛けるスプラウト・ソーシャルのデータでは、スタックの名前を含むツイッター投稿は過去10日間の平均と比べ1万2000%増加。ハリウッド俳優や女優が支持を表明する投稿もあり、全体の79%がポジティブなリアクションだったという。もちろんアンチも出現し、ハッシュタグ「#boycott」とともにツイートしてウォルマートやディックスでの不買運動を呼びかける者もいる。それでもディックスの株価は、28日の取引で前日から約1.8%上昇。投資家も問題はないと判断している。


ウォルマートとディックスが発表する以前からも、複数の大手企業が全米ライフル協会(NRA)との関係解消に向けた動きはあった。なかでもハーツレンタカー、メットライフ保険、そしてデルタ航空は正式に優遇措置を解消することを発表。他にも多数の企業が賛同しており、NRAとの関係解消を表明した企業は10社を超える。


デルタは2月24日にNRA会員に運賃割引を適用していたが、これを廃止。すると、デルタが本社を置くジョージア州の共和党は態度を一転させ、州議会で審議中のジェット燃料の州税免除の条項の削除をちらつかせているという。ジェット燃料の州税免除はデルタにとって大きな減税が見込める。


.@Delta, if Georgia politicians disagree with your stand against gun violence, we invite you to move your headquarters to New York. https://t.co/BHvyPECWSe— Andrew Cuomo (@NYGovCuomo) 2018年2月27日


(「ジョージア州の議員がデルタの決定に反対なら、デルタ本社のニューヨーク移転を招致するよ」)


企業の銃販売年齢規制の可否は裁判所の手に?


連邦法では、銃器販売業者から拳銃を購入できる年齢を21歳以上と定めているが、実は抜け穴がある。今回の動きを報道する日本のメディアは、「販売大手が21歳未満への銃販売を禁止」という伝え方が目立つが、話はここで終わらない。


連邦法では、拳銃以外のライフルや半自動ライフルは18歳以上であれば買うことができるとしている。


それでも、ドナルド・トランプ米大統領が超党派議員のグループと会談するなど、政府も動き始めている。フロリダの銃乱射事件を受け、銃規制措置の強化を求め複数案を提案しているが、その一方で、全米ライフル協会(NRA)はおもしろくない。銃砲所持の権利こそアメリカ人の最も大事な権利と信ずるNRAは2月25日、沈黙を破り「銃のいかなる禁止も支持しない」と言った。


今後の動きとしては、企業による21歳未満への銃の販売規制は裁判所で審査される可能性がある。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)法学部のアダム・ウィンクラー教授によると、年齢差別を禁じる州法の違反でディックスは訴えられるかもしれない。「ニューヨークなど一部の州は、企業が年齢という基準で商品やサービスの提供を拒否することを禁止している」と説明している。


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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


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