南北首脳会談に動き出した朝鮮半島、米朝対話は実現するか

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2018年03月06日 17:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<平昌オリンピックから始まった南北対話ムードを、トランプ政権はじゃませず概ね静かに見守ってきた。大統領より下位レベルで対話に応じるなど突破口は開けるか>


朝鮮半島の危機を不安な気持ちで見守ってきた人々にも、少しはホッとできる展開と言えるだろうか。この数週間、アメリカも北朝鮮も、相手を壊滅させるという脅しを口にしていない。それどころか、3月5日には韓国の特使団が北朝鮮の首都・平壌を訪問。世界を破滅的な戦争に巻き込みかねない危機的な状況を打開するために、北朝鮮の最高指導者である金正恩朝鮮労働党委員長と会談を行った。北朝鮮の朝鮮中央通信は6日、金正恩は南北首脳会談に向けて「満足のいく合意」を得らた、と報じた。


会談に先立って韓国・平昌で開催された冬季オリンピックは、スポーツイベントとしてだけでなく、政治的なイベントとしても大きな成功をおさめた。南北朝鮮はこの大会に、統一旗の下、合同チームとして出場。大会期間中に両国の当局者たちが生産的な協議を行い、それが今回の韓国特使団による平壌訪問につながった。


「今回の会談は2011年以来はじめての直接交渉だ」と、シンクタンク王立国際問題研究所(ロンドン)アジア太平洋プログラムのジョン・ニルソンライト上級研究員は言う。彼はこれについて「大きな前進だ」とし、評価すべきだと続けた。「韓国側が実際に会談に踏み切り、アメリカがそれを阻止しようとしていないことは、いい兆候だ」


「舌戦」はやや沈静化


韓国の文在寅大統領にとって、一連の会談は戦争回避へ確かな道を開くものになる可能性がある。戦争となれば韓国が最も打撃を受けることになる可能性があり、それを回避するには対話しかないというのが彼の考えだ。


韓国は核兵器を保有しておらず、防衛面では同盟国アメリカの圧倒的な軍事力に依存している。一方の北朝鮮は核兵器を保有している。いざ戦争となってこれらの核兵器が使用されれば韓国は壊滅的な被害を受け、数分以内に数百万人の命が奪われかねない。


「今は韓国側に気運が向いている」とニルソンライトは言う。「介入を控え、交渉を進めさせるというアメリカの判断は賢明だ」


トランプ政権と金政権の間の非難の応酬も落ち着いてきたようだ。ドナルド・トランプ米大統領は「適切な条件下でなら」と条件付きながら、対話に応じる姿勢を示した。


韓国の(最も影響力の大きな)友好国である中国もまた、米朝が対話を始めることが朝鮮半島の安全保障にとって重要だと考えている。ロイター通信の報道によれば、北朝鮮外務省の報道官は国営メディアに対して「我々は対話を懇願することもないし、アメリカが騒いでいる軍事的な選択肢から逃げることもない」と言ったが、ミサイル発射実験を盛んに実施していた2017年の米朝両国の脅しの応酬に比べれば穏やかだ。


「北朝鮮は決して認めないだろうが、彼らはアメリカを少し挑発しすぎて危険な状況に陥りつつあることを懸念しており、それがこの変化の一因ではないか」と、2000年代初頭に在北朝鮮英大使館の開館に尽力した元外交官のジム・ホーアは言う。


一方トランプ政権側は、冬季オリンピックでマイク・ペンス副大統領が北朝鮮代表の金栄南最高人民会議常任委員長との握手を拒絶するという外交的なミスを犯した後、我に返ったようだとホーアは指摘。そのせいで今、北朝鮮との対話のチャンスに対して以前よりわずかながらオープンな姿勢になっているように見えるという。


この計画的な「冷たい挨拶」は「双方による強がり」が招いた結果だと、シンクタンク、国際戦略研究所アメリカ支部のマーク・フィッツパトリック事務局長は言う。「制裁が北朝鮮経済をますますひっ迫させるなか、北朝鮮側が、大統領よりも下位レベルでの会談につながるような譲歩を提案してくる可能性もある」


だがトランプが突き付けた非核化という条件については「北朝鮮側が検討することはほぼあり得ない」とホーアは言う。より現実的なのは北朝鮮が核兵器や特定の原料の生産に上限を設けることに同意するという、1994年の米朝枠組み合意に近いものだろうと彼は言う(同合意でアメリカは北朝鮮から、原子炉の建設を凍結する合意を取りつけた)。


対話実現には数々の障害


米朝間の合意には、北朝鮮に対する制裁の緩和が伴う可能性がある。国連、アメリカと欧州連合(EU)はいずれも、核弾頭を搭載でき米本土に到達可能な大陸間弾道ミサイルの開発を推し進めるなか、2017年に繰り返しミサイル発射実験を行ったことを理由に、北朝鮮に制裁を科している。


「北朝鮮側が主張するように、彼らはこれらの兵器の開発で大きな進展を遂げているため、我々が望み得る最大の合意は計画の凍結だ」とニルソンライトは言う。


だが、北朝鮮の核に何らかの上限を科せば、必然的に彼らが核兵器を保有していることを正式に認めることになる。ならず者国家に国際舞台でより大きなステータスを与えることは、とくに周辺諸国にとって最も望ましくないことだ。


今回、平壌で開催された南北会談から、金政権が核開発計画をはじめとする重要な問題において、どれだけ譲歩する意思があるかが判明することが期待されている。


「北朝鮮にどこまでの提案をする意思があるのか、まだ分かっていない。南北朝鮮の対話によって、もしかしたらその点について明確な情報が幾らか引き出されるかもしれない」とニルソンライトは言う。


問題はまだある。近い将来、米韓の緊密な関係が試されることになるかもしれない大きな問題が、トランプが「アメリカ第一主義」の下で掲げた鉄鋼に関する輸入関税計画だ。アメリカへの鉄鋼輸出が3番目に多い韓国は、この関税で大きな打撃を受ける可能性がある。


「さらに緊張が高まる余地があるのは明らかだ。そして北朝鮮は、その気になれば両国の仲を引き裂くことができると知っている」とニルソンライトは指摘する。


別の火種はトランプ自身だ。外交駆け引きには繊細さが求められるが、トランプは繊細な人間ではない。どんなに愚かな考えであろうと、ツイッターを使って平気で脅し、拡散する。


「最大の不確定要素はドナルド・トランプだ」とニルソンライトは言う。「これまでは、全体で最も予測が難しいのは北朝鮮だった。しかし今は、トランプ政権という不確実性が加わった」


米朝会談を実現したいなら、米韓合同の軍事演習は再延期する必要があるだろう。平昌冬季オリンピックが終わった今、アメリカと韓国は北朝鮮の反対のため延期していた米韓合同軍事演習を実施する予定だ。こうした軍事力の誇示は、かなり意図的に北朝鮮政権を挑発するものになる。


「(米韓合同軍事演習では、)純粋に防衛を目的とした演習が展開されるが、どんな作戦もその気になればすぐに攻撃に転じられる。北朝鮮には恐ろしく見える」と、ホーアは指摘する。「(軍事演習は)恐怖心を抱かせることが目的だ。北朝鮮に対して、『やめた方がいい。さもなくば、お前たちを木っ端みじんにするぞ』と見せつけたいのだ」


だが、米朝会談実現の可能性を完全に除外することもできない。金正恩政権は異常だというのが一般的な見方だが、彼らは自分たちが何をやっているのか知っている。リスクの高い一か八かのゲームに興じているだけだ。


トランプも柔軟さを見せたことがないわけではない。だが、「非核化」という対話の前提条件で譲歩する可能性はあるだろうか? 「融通の余地はまだあると思う」と、ニルソンライトは言う。「トランプは、韓国、中国、日本などに大きな影響をもたらす北朝鮮との戦争を必要としていない」


早い段階で対話を実現させて、たとえ一時的にであっても食い違いを解消しなければ、戦争に発展しかねない。「大きな転機となるのは、北朝鮮の核攻撃が現実の脅威であるとアメリカが感じたときだ。そのとき、状況はがらりと変わる」とニルソンライトは言う。


「もちろん、アメリカ側はそうした事態になるのを努めて避けている。そうした事態が近づけば、軍事行動を求める声がずっと高まるからだ。われわれはまだそこまでは行っていない」


(翻訳:森美歩、ガリレオ)




シェーン・クロウチャー


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  • 南朝鮮にそんな能力ないってみんな知ってるだろう
    • イイネ!1
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