ドゥテルテ大統領、超法規的殺人に関する捜査に「協力するな」と指示

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2018年03月07日 20:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<大量殺人の共謀の疑いでICCに告発されたフィリピンのドゥテルテ大統領、容疑を全面否定、徹底抗戦の構え>


フィリピンのドゥテルテ大統領が推進している麻薬犯罪関連容疑者に対する超法規的殺人の政策が「人権侵害や大量殺人の疑いがある」として国際機関による捜査が始められたことを受けて、ドゥテルテ大統領が警察官や兵士に対し「一切捜査に協力するな」と指示したことが明らかになった。


3月1日に出身地のミンダナオ島ダバオで警察のエリート部隊を前にして演説したドゥテルテ大統領は「国際組織の捜査官による捜査で人権の話になったりした場合、捜査官がどこの誰であれ、私の命令は答えるな、関わるなである」と述べて、捜査への非協力、捜査拒否を「命令」した。


これは2017年4月にフィリピン人弁護士のジュード・サビオ氏が麻薬関連犯罪容疑者に対するフィリピン警察などによる現場での殺害、いわゆる超法規的殺人は人権侵害や大量殺人の疑いがある、として国際刑事裁判所(ICC)に告発したことを契機としている。


ICCは集団殺害や人道に対する犯罪、戦争犯罪などの重大犯罪に関し、責任ある個人を訴追、処罰する目的でオランダのハーグに本部を置く国際機関。現在フィリピンを含めた124カ国が加盟している。


ICCの予備捜査、2月に開始


ICCは告発を受けて2018年2月に予備捜査を開始。2月8日にICC検察局から「予備捜査開始」の連絡を受けたフィリピン政府のロケ報道官は記者団に対し、「人道に対する罪を犯したとして非難されることにドゥテルテ大統領は辟易としている。このため今回の予備捜査も歓迎する」と述べ、当初は捜査を通じて政府の麻薬対策の正当性や反論を主張する「好機」ととらえていた。


ところが、3月2日の演説でドゥテルテ大統領は「私がフィリピンで進めている(麻薬対策の)政策に一体誰が干渉しようとしているのか。フィリピンは麻薬の飲み込まれようとしている現実がある」などとして予備捜査で事情聴取などが予定される「警察官や兵士」に捜査に協力しないよう「命令」したのだ。


「捜査歓迎」の姿勢が一転


これはドゥテルテ政権のICCの捜査に対する方針が180度転換したことを意味する。


ドゥテルテ大統領は2016年6月の大統領就任以来、深刻な麻薬犯罪の増加に対する強力な対策として、警察や軍による麻薬関連犯罪の捜査で、「抵抗した場合などは現場での射殺も辞さない強い姿勢で臨み、麻薬犯罪の根絶を目指す」との方針を掲げてきた。


しかし、この超法規的殺人が捜査現場で拡大解釈されたり、不法に適用されたり、容疑や証拠が不十分なケースでの射殺が相次いでいる、と人権団体などは指摘している。


国際的人権団体の「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」によると政権発足以来これまでに超法規殺人で殺害されたフィリピン人は1万2000人に上るという。


これに対しフィリピン政府は「約3900人」という数字を発表している。この約3900人という数字はあくまで捜査の現場で抵抗したり逃亡しようとしたりして警察官や兵士に射殺された麻薬容疑者だが、人権団体などによると、これ以外に正体不明の殺人者によって殺害された容疑者が多数いるとみられる。


多くのケースで捜査機関は証拠をねつ造し、偽の捜査報告書を作成し、現場では麻薬使用者、麻薬ディーラーと見なさされた人物への問答無用の「処刑」が続いていると指摘している。


こうした指摘に対しドゥテルテ大統領は「人権団体などの主張には証拠がない」、「警察には正当防衛、逃亡、抵抗などの理由でしか射殺を指示していない」と全面的に否定する姿勢を貫いてきた。


戸別訪問の捜査方式が射殺を助長か


フィリピン警察、捜査機関による麻薬捜査は「オプラン・トクハン」と呼ばれる捜査手法で行われるケースが多い。これは伝統的な捜査方式で警察官が1軒ずつ自宅や店舗を訪問して事情聴取や家宅捜査を実施するもの。「トク」はドアを「トクトク」とノックする音、「ハン」は「尋ねる」。ドゥテルテ大統領がダバオ市長時代に始めた捜査手法という。


この「オプラン・トクハン」で訪問捜査中、抵抗もしないのに射殺されたり、捜査官が持ち込んだ麻薬を「証拠」としてでっちあげられたり、という事例が増加。今や「トクハン」は警察官に射殺されたことを示す言葉として恐れられるようになっているという。


ICCと全面対決、脱退も示唆


ICCへの告発では、ドゥテルテ大統領はこうした日常的な超法規的殺人の「共謀者」とされ、予備捜査の結果「訴追」された場合は、ドゥテルテ大統領に対する逮捕状が発行される可能性もあるという。


これに対しドゥテルテ大統領は、ICCからの脱退も示唆するなど、「抵抗」で「全面対決」する姿勢を強めている。


[執筆者]


大塚智彦(ジャーナリスト)


PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



大塚智彦(PanAsiaNews)


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