アジアで急成長するフィンテックと日本の役割 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2018年03月20日 18:32  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<フィンテックで日本は出遅れていると言われるが、各国ともまだまだ混沌としているのが現状で、これから日本が国際標準のイニシアティブを取る可能性は十分にある>


先週13〜15日にシンガポールで開催されたフィンテックの国際会議「Money 20/20 ASIA」に参加してきました。


日程の関係で、私は後半のみの参加でした。それでも、フィンテックではアジアが一種の主戦場になっていることを痛感させられるイベントでした。


日本についてはここ20年ぐらいの間、いつまでも「モノ作り」にこだわって「ソフトウェア」や「金融」のジャンルでは世界に遅れを取ってきたと言われます。しかし今回のイベントを経験して、日本も依然としてキープレイヤーの1つになる可能性があると感じました。「フィンテック周回遅れ論」というのは、やや印象論が過ぎるのではないでしょうか。


まず、何と言ってもフィンテックの中で大きな位置を占める「支払い・決済」機能について、現時点では、まだ日本はクレジットカードの普及率も高くないし、電子マネーやスマホ決済の普及も遅れています。


その原因としては、アジア諸国では「盗難リスクやニセ札リスクなどから現金使用が危険」なのでキャッシュレスが進む一方で、日本の場合は治安が確保される中で現金決済のリスクが少ないという議論があります。また反対にアジア諸国では「加盟店手数料」が低い一方で、日本の場合はクレジットカードをはじめとして手数料が高過ぎることが普及を阻害しているということも言われています。


ですが、こうした大規模なイベントで、各国の事情や様々なサービス提供者の話を聞いてみると、現状はまだまだ混沌としていることが明らかです。中国では「QRコード」決済による少額支払いが一気に普及しましたが、「アリペイ」にしても中国独自のサービスであり、アジアではまだ大きなシェアになってはいません。各国それぞれに様々な支払いサービスが乱立しています。


ではどのような競争が起きているのかというと、認証などセキュリティに問題があれば、そこから不正利用などが発生してコストになる反面、セキュリティを固めればコストダウンになり、加盟店手数料を下げるなどの競争力が出る流れが1つあります。その一方で、プラットフォームを拡大するなど、投資を行ったり提携関係を作ったりして利便性を上げる戦略も必要です。


日本の金融サービス産業としては、世界の動向を見ながらアライアンスを組んでいく動きをしていますが、動き方によってはグローバルな市場で大きなシェアを取ることもまだまだ可能なように思われます。今回のイベントでも、私はプレゼンを聞く機会がありませんでしたが、SBIや楽天などは積極的な発信をしていたようです。


その一方で、ブロックチェーン技術や、クリプトカレンシー(暗号通貨・仮想通貨)の部門では、日本の存在感はかなり大きなものがあります。


日本は先進国中で「規制が遅れた」ことと「若年層を中心としたリスク選好マネーが流入した」ことで、仮想通貨への投資が活性化し、交換所なども多く営業している現実があります。「コインチェック」による「NEM流出事件」というのは、そうした現状のなかで起こりました。


この事件に関して、例えばイベントに参加していた日本銀行フィンテックセンター長の河合祐子氏に対しては「中央銀行としての規制」をどうするのかといった質問が浴びせられていました。河合氏は一般論として必要な規制を行うという回答に終始していましたが、仮に日本が「有効な規制の枠組み」を提案できれば、それが国際標準になる可能性はあると考えられます。


この仮想通貨規制に関して、今回のイベントのラストを飾る基調講演を行った、シンガポール金融通貨庁(中央銀行に相当)のラビ・メノン長官は実に明快な方針を示していました。


メノン長官によれば、仮想通貨に関しては以下の3つの規制が必要だということです。


1)発行母体の財務健全度の開示


2)資金洗浄やテロ財源などの抑止


3)利用者の保護


つまり、「価格変動が大きいと通貨としては不適格」だという保守的な観点は盛り込まず、新技術を世界で活用するための規制はこの3点に絞るべきだという考え方です。


この「価格変動」の問題については、このイベントの多くの発言者が「電信送金で何日もかけて送金している間に為替レートが変動することを考えれば、仮想通貨の価格の上下は送金スピードで相殺できる」という指摘をしており、メノン長官はこの点を明言しなかったものの同様の考えに沿った発言とも考えられます。


実はシンガポールドルについては、「世界初の法定デジタル通貨」として、「仮想シンガポールドル」の発行に踏み切るのではないかという観測が流れています。メノン長官は、この点についても明言は避けましたが、ここまでハッキリとした「有効な規制に関するイメージ」を持っているからには相当な検討が進んでいるのだろうと感じさせました。


この仮想通貨規制、と言うよりも仮想通貨が有効に機能するために必要な「制度インフラ」については、国際社会ではまだ検討が始まったばかりです。日銀・金融庁もメノン長官の提言と同様の検討は進めているはずで、トランプ政権下でウロウロしているアメリカを横目に「国際標準のイニシアティブ」を日本が取れる可能性は十分にあるのではないでしょうか。


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