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巧妙化する悪質リストラ手法に気をつけろ! 突然の出向先は追い出し部屋、業務は自分の転職先探し

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2018年03月22日 15:51  リテラ

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リテラ

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 Aさんは某電気メーカーでSEとして働いていた40代の正社員だった。ある日、上司に呼び出されて、いきなりこう話を切り出された。



「君も長年我が社でがんばってくれて感謝している。そろそろ新たな道を歩んでみないか。いま、我が社を退職し、別な会社へ転職しステップアップしてくれれば退職金を特別に増額するから」



 Aさんは何の話かと思いきや、これは、要するに「会社を辞めてくれ=退職勧奨」ということではないか。



 結婚し、子どもも生まれ、ローンでマイホームも買った。これから子どもも成長し教育費等もかかってくるのに、いま仕事を辞めるわけにはいかない。なにより40代も後半に差し掛かった自分をいまと同程度の条件で雇ってくれる会社なんてあるわけがない。



 Aさんはそう考えて、上司に対して、自分は退職をするつもりはないとはっきりと告げた。しかし、話はそれで終わらなかった。



 Aさんは、その日から、上司や会社の総務関係の担当者から連日のような面談攻勢を受けるようになる。会社を退職する気はなく定年まで働くつもりであると言っているAさんに対して上司は、



「残念ながらいまの会社に君の居場所はない」

「別な会社に転身して君のスキルを活かしたほうが君自身にとってもよいことではないか」



 などと、あの手この手で説得を試みようとしてきたのだ。



 Aさんは、毎日、長時間にもわたり上司らからの説得を受け続けても、なおも退職することを拒み続けていたが、上司の説得は止まらなかった。



 Aさんは、行政機関の労働相談なども利用しながら退職勧奨には応じる必要はないことを知っていたので、断固として会社の要請を断り続けた。



 その後、会社側は、今度はAさんにある会社への出向を打診することになる。出向とは、現在勤めている会社に籍は置いたまま、その会社とは別の会社に行って働くことであり、企業では人事異動の一環としてしばしば行われているが、今回の出向は驚きの内容であった。



 会社から示された出向先は「ジョブクリエーションコーポレーション」(仮名)なる会社で、大手派遣会社の子会社であった。驚いたのは、出向先での業務内容である。





 Aさんが出向先で行うべきとされた業務は「自身の転職先を探すこと」であった。



 要するに、仕事はしなくていいから、出向先でパソコンを開いて転職サイトで転職先を探し、求人があれば応募をして一日も早く転職を決めて、元の会社をめでたく退職するようにとの業務命令であった。Aさんは、びっくり仰天して、当然ながら、これは実質的には退職勧奨であり、会社を辞めるつもりはないので当然に断った。



 会社側もここまでの流れから当然のことながらそれで引き下がることはなく、



「どうして断るんだ。会社は君のためを思って転進先を探すために必要な環境を与えてあげるんだよ。給料もいままでどおり払うし、転職に必要にサポートは全面的にする。こんないい条件なのにどうして断るんだ?」

「いいかい、考えてみたまえ。繰り返すが、いまの会社に君の居場所はない。部署の異動も考えたが、どこの部署も君を受け入れるつもりはないと言っている。ほかの会社だったら、当然にリストラの対象者だよ。夫がリストラに遭ったなんて、奥さんにどうやって説明をするんだ。恥ずかしいし、カッコ悪いとは思わないか」

「会社は、君を解雇するだなんて一言も言っていないじゃないか。会社は君の将来のことを第一に考えて、もっと積極的な気持ちで、ポジティブなマインドで考えられないかな」

「いまの会社からステップアップして新たなスキル、ステイタスを獲得できるチャンスなんだよ」



 などなど、畳みかけるようにAさんを説得しようとした。



 Aさんも上司らの話を聞き続けるうちに何が正しいのか、会社を辞めたくないという自分の考えが正しいのか、訳がわからなくなってきてしまった。ただ、いろいろきれいな言葉は並べられているが、結局のところは、出向先に行って真面目に「業務」に取り組めば取り組むほど、転職の実現可能性は高まり、転職活動が功を奏して転職が決定すれば、いまの会社を退職することになるのだから、どう考えても、退職を求められていることには変わりはないではないか。



 結局、会社側は業務命令として、Aさんに対して出向を命じたことから、Aさんは弁護士にも相談の上、「異議を留め」た上で出向に応じることにした。「異議を留め」るとは、出向には本来同意も納得もしていないが、業務命令違反でさらなる不利益(解雇等)をされるのは現実的な不利益が大きいことから、出向命令自体を認めたわけではないが命令である以上さしあたり従わざるをえないという意味を込めて、会社側に「異議」を示したうえで出向には応じるという対応方法である。





 Aさんは、このような経過をたどって、仕方なく、出向先である「ジョブクリエーションコーポレーション」(仮名)に行くことになった。



 出向先では、毎朝簡単なミーティングをし、あとはひたすら会社から提供されたパソコンで大手の転職サイトを検索し、求人情報を調べて応募をするという作業の繰り返しである。なにしろ与えられた業務内容が「自分の転職先を探すこと」であるのだから、ほかにやることはない。出向先では、転職を支援するためのキャリアカウンセリング的なことも行われているが、とにかく、目的は一日も早い転職の実現(=元の会社からの退職)である。



 昔からリストラ、退職勧奨といえば、労働者を窓際に追いやり、草むしりや新聞記事のスクラップなどをやらせて嫌になって退職させるという手法がしばしば行われていたが、そのような露骨な嫌がらせは違法であることから企業側としてもリスクを冒してあえてこのような手段をとることは少なくなってきているように思われる。



 そこで、最近は、さらに手口が巧妙化、悪質化し、異動先における業務を「自らの転職活動を行うこと」と指示することにより、当該人事異動を認めさせた時点で、当該労働者を退職に向けた不可逆的なレールに乗せて、結果として、退職に追い込むという方法が現れるようになった。



 その一例が、いわゆる「追い出し部屋」と呼ばれる配転、出向を利用した退職強要であり、近時、裁判例においても配転命令、出向命令を無効とする判決が登場している(ベネッセコーポレーション事件東京地裁立川支部平成24年8月29日判決、リコー(子会社出向)事件東京地裁平成25年11月12日判決、労働判例1085号19頁参照)



 Aさんのケースで問題となった出向を利用した退職勧奨は、いわば「追い出し部屋」のアウトソーシングともいうべき制度であり、問題点は「追い出し部屋」と同様である。



 この出向を利用した退職勧奨の巧妙性、悪質性は、その制度そのものにある。すなわち、このような人事異動(出向)による退職強要の根幹は、異動(出向)先における業務が「自らの転職活動」という点にある。したがって、ひとたび出向命令に応じてしまえば、労働者に残されている行動の選択肢は、退職しかない。「転職」といっても、当該企業を退職することに他ならないからである。



 労働者の本心は、定年までの雇用の継続を望むのが通常であり、とりわけ昨今の雇用情勢に照らせばなおのこと中途で転職をするという選択は経済的にも不合理であり、このような選択を通常の精神状態で自らの意思で行うことは考えがたい。





 使用者は、そのような労働者の意向、本心を当然のごとく認識しながらも、自らのリストラ計画、人員削減計画を推進するために当該労働者を退職にもっていくために様々な言辞を用いて「説得」活動を行う。「説得」の過程で当該労働者は、自ら会社に必要とされていない人間であることに絶望し、なんとか自らの労働者、社会人としての自尊心を維持するためにも、最終的には「自らの意思によって」、当該人事異動を受け入れるというかたちをとることを選択するようになる。これは人間の心理上、当然の反応である。



 人は、他人から強制されたことよりも、自らの意思で決めたことを行うほうが心理的な抵抗も少なくなるし、精神的な負担も生じなくなるからである。しかし、このことは、当該労働者が、本心から納得して応じたことを意味しない。できることなら会社に残って業務を行いたいが、やむを得ず、仕方なく応じているのが実態であり、本当のところは、できることなら応じたくないと考えるのが当該労働者の通常の心理である。



 その結果、退職勧奨を受けた労働者が自ら自発的に転職先を探し自ら退職を目指した活動を「業務」として行う、という状態が完成する。



 これはリストラを行いたい企業側にとっては、法的に違法、無効と評価される可能性が大きい解雇や露骨な嫌がらせを伴う退職強要を行うことなく、不要と判断した労働者を退職させることが可能となる。



 Aさんは、出向命令が無効であることの確認を求めて会社を相手に提訴をした。あわせて、このような「追い出し部屋」的な出向の受け入れを行う出向先の会社に対しても損害賠償を求めて提訴した。裁判の結果、会社との関係では和解による解決を選択し、Aさんは円満に退職をすることになった。出向先の会社に対する損害賠償請求は最高裁まで争ったが、残念ながらAさんの敗訴に終わってしまった。



 しかし、裁判所は、出向先が不法行為に基づく損害賠償義務を負わないと判断しただけであり、決してこのような出向を正当化したわけではない。出向を伴わない「追い出し部屋」が違法であることは多くの裁判例が認めるところである。今後、同種のケースで出向命令自体が無効であるとの裁判所の判断が出される可能性は充分にある。



 労働者は、会社において何か利益になることを実現するために働いているのであり、自分の転職先を行うことが会社での「業務」であるなどといって、労働者に対して自分自身のクビを締めさせるような行為を会社が行うことは許されないはずである。



 大した理由もなく安易に行われる解雇が許されないのはもちろんであるが、このような形で外形上は労働者の自発的な退職を装った巧妙なリストラ手法にも注意する必要がある。



【関連条文】



労働契約法

(出向)

第十四条 使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。



(戸舘圭之/戸舘圭之法律事務所 http://www.todatelaw.jp)



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ブラック企業被害対策弁護団

http://black-taisaku-bengodan.jp



長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。

この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。


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