トランプ「貿易戦争」の狙いは何か? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2018年03月27日 16:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<トランプが貿易戦争を仕掛けた背景には、政権への逆風がおさまならないなかで、対外強硬策を打ち出して支持を繋ぎとめたい思惑がある>


鉄鋼やアルミに関税をかけるという話にも驚きましたが、トランプ政権は中国に対してはさらに知的財産権問題の制裁などとして、輸入品約500億ドル(約5兆3000億円)に対する関税を決めました。これを大統領令で進めるというのですから規模も含めて、極めて異例です。これは、21世紀の国際分業を否定するものですし、そのために短期的にも中長期的にも米国のGDPにはマイナスの効果になると思われます。


中国に関して言えば、知的財産権に関してクレームをつけるのは根拠のない話ではないのですが、「知的財産権の正常化」を要求するのではなく、別の分野で制裁関税というのは安易な手法です。


アメリカの株式市場がこれを嫌ったのは当然ですが、では自国のGDPにはマイナスとなり、株価を押し下げるような政策をどうしてトランプ大統領は強行しているのか、そこには3つの要因があると思います。


1つは政治的な現状です。トランプ政権への支持率については、40%前後で推移しており、急降下ということはありません。ですがこの間、ジワジワと情勢が変化しているのが中間選挙の選挙戦です。ペンシルベニア州第18選挙区の下院補選で、共和党が「まさかの敗北」を喫したのは氷山の一角で、盤石と思われていた下院の多数が守れるのか厳しい状況になりつつあります。


仮に共和党が敗北して、下院の多数党が民主党になると、弾劾裁判の「訴追」ができてしまうわけで、政権としては非常に危機感を持っています。政権の周囲でも、相変わらずロシア疑惑は続いていますし、最近は「大統領の下半身スキャンダル」が3人の女性から告発を受けるとか、メラニア夫人との不破、長男の離婚などゴシップ記事には事欠かない状況になっています。そうした中で、刺激的な政策で何とか「コア支持者」を繋ぎ止めたいということはあると思います。


2つ目は、担当大臣のロス商務長官です。大統領にとっては古い知り合いであり、80年代の貿易戦争的な「レトロ感覚」も同じです。そして通商強硬派というイメージもあり、ロス長官本人としても「自分らしさ」を発揮できるということなのでしょう。


3点目としては、これは推測ですが、中国に対して大きな圧力をかけておいて、それを中国との取引材料にしようという可能性です。背景にあるのは、北朝鮮問題であり、米朝会談構想がうまくいかない場合は、最後は習近平に登場してもらう、その際に輸入制限や制裁関税の「解除をちらつかせる」ことで、ゲームの「カード」となるわけです。


この点に関しては、北朝鮮の高官(金正恩本人という見方も)が3月26日に北京入りしたという報道があり、もしかしたら米中は水面下で「取引」をしているのかもしれません。トランプとしては選挙戦の時から「北朝鮮問題は習近平に解決させる」などと主張してきたわけで、仮に上手くいけば、その「公約」が実現することになります。あくまで仮の話ですが。


このように、今この時点でムチャクチャとも言える手法で「中国への貿易戦争」を仕掛けた背景には、様々な要因を考えることができます。


一方で、鉄鋼・アルミ関税について日本を対象から外さなかったのは、80年代の貿易戦争を記憶している世代のレトロ的な感情論に媚びる作戦であり、結構厄介かもしれません。ただこちらに関しても、韓国と「FTA再交渉」を進めているように「落とし所としての日米FTA」構想があるという見方も可能です。


ですから、対中国にしても、対日本にしても「貿易戦争」に訴えているという行動には一定の合理性はあるわけです。ですが、いずれにしても21世紀という国際分業の時代に、経済合理性に反する行為に訴えているのは間違いありません。ということは、まわりまわって「現在の実業界」に密接な利害を持っている共和党議員団とは距離感が出てくるでしょう。そう考えると、習近平との「取引」についても、日本との「FTA」にしても11月の中間選挙までに成果を出さなくてはならないことになります。


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