高層ビル屋上にたたずむ84の男性像 ロンドンで衝撃の自殺防止キャンペーン

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2018年03月29日 16:32  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<視線を上げると今にも落ちそうな人々が...。イギリスで毎週84人の男性が自殺する現状を表現>


イギリス人男性(45歳以下)の死因で一番多いのは自殺だ。平均すると毎週どこかで84人の男性が自ら命を絶っていることになる。さらに言うと、2時間に1人死んでいる。


男性の自殺予防に取り組む団体のCALM(The Campaign Living Against Living Miserably)は今週、大胆なキャンペーンに打って出た。ロンドンを流れるテムズ川沿い南部のサウス・バンクは、セントポール大聖堂やロンドン・アイなどが立ち並ぶ景観の美しい観光スポットだが、3月26日の朝は何やら様子がおかしい。


英テレビ局ITVのビルの屋上の縁に、男性が立っているように見えたのだ。それも1人じゃない。他のビルも含めて合計84人。


これこそがCALMのキャンペーン「プロジェクト84」で、今週いっぱい続く予定という。ITVのビルに72体、朝の情報番組 「This Morning」のスタジオの屋上から12体が街を見下ろしている。84という数字は1週間当たりの平均自殺者数だ。


男性像は実物大で、ビルの屋上に佇む姿は、自殺のリアルを生々しく表現しており、道行く人々は足を止めた。SNS上でハッシュタグ「#project84」を検索すると、多くの反響が見られる。


I noticed some statues on top of the ITV Tower last night, which are in fact there for #project84 - a suicide prevention campaign. A powerful image. They may feature on #ThisMorning pic.twitter.com/cakZfv6z9N— David Furness (@davidfurness) 2018年3月26日


「うつ病は恥ずかしい...」男性は相談しないで抱え込む


あるSNSユーザーは、若干の動揺を示しつつも「プロジェクト84」の意義を評価しているようだ。ブロガーのブリット・ワイヤットは、「私には父親がいたことがないけど、あなたに父親や兄弟、おじ、親しい男性の友人がいるなら尋ねてあげて。そうすることが、彼らに、話してもいいと伝えることになる。彼らの命を救えるかもしれない」と、周囲のサポートを呼び掛けた。


Actually an emotional mess watching @thismorning. I've never had a dad in my life, but if you have yours, or a brother, uncle or close male friend, ask how they are. Let them know they can talk to you. It might just save their life. #mensmentalhealth #project84— Britt Whyatt (@shewhobakes1) 2018年3月26日


(ブリット・ワイヤットの投稿)


「プロジェクト84」は多くのメディアに取り上げられ、キャンペーン自体は成功したと言えるだろう。ただ、少なからず不快感を露わにする人もいる。「屋上の男性像で気が散る」、「無神経極まりない」という声もあった。(ワシントン・ポスト)


CALMの責任者サイモン・ガニングは過去11年間に渡り、男性の自殺を予防する活動を通して、当事者へのアプローチだけでは足りないと話す。「だから今回の『プロジェクト84』で、実物大の男性像を目にしたすべての人に、自殺の現状のスケールの大きさを明確に示したいと考えた」


CALMの調査によると2016年、うつ病を経験した男性のうち誰かに相談できたのは、55%にとどまった。対して女性は67%で、男性よりも周囲に頼ることができていた。ガニングは、心の病を患うのを「恥ずかしい」ことだとする社会を変える必要性を訴えている。


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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


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