6カ国協議復帰が前提だった中朝首脳会談──遠のく米朝首脳会談

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2018年04月06日 13:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

中朝首脳会談を承諾するに当たって、習近平は中国が主導してきた6カ国協議を前提条件として金正恩に課していたようだ。この情報が漏れたことにより、米朝首脳会談が流れる可能性が生まれ、日本にチャンスを招く。


漏れてきた中朝首脳会談の中身の一部


まだ正式発表を控えていた中朝首脳会談の中身の一部が漏れ伝わってしまったようだ。中国政府関係者が、「正式発表はしていないのに、誰かが漏らしてしまった」と教えてくれた。日本では日経新聞(北京=永井央紀)が4月5日18:00のイブニングニュースで伝えている。中国政府関係者が言った「誰かが漏らした」というのは、この日経新聞にそっと教えた人なのか否かは定かではない。日経新聞では「複数の中朝関係者が明らかにした」と、うまくぼかしている。一般に情報源の近くでぼかすものだ。ただ、いずれ漏れてしまったのなら、筆者も自身の見解と経緯を発表しても許されるだろう。


中国は北朝鮮問題に関する「中・朝・露・韓・米・日」(順不同)の6ヵ国による協議を2003年から主導してきたが、2008年には中断に追い込まれてしまい、面目を無くしていた。習近平政権が発足した2013年には(習近平が国家主席になったのは2013年3月)、北朝鮮は「6カ国協議は存在しない」と宣言していた。


したがって金正恩委員長の方から中朝首脳会談を申し出たのだから(北朝鮮自身が3月末に発表)、習近平国家主席に非礼を詫びて「6カ国協議に復帰します」と言ったであろうことは想像にかたくない。


その点を中国政府関係者に確認したところ、「誰かさんのように、まだ正式発表していない会談内容の部分を教えることはできないが、しかし中国は一貫して6カ国会談という対話の形で半島問題を解決すべきだと主張してきた」とのみ答えた。中国では「六国会談」と言うのが慣例。


思うに習近平は、金正恩の中朝首脳会談に関するオファーに対して「会うのは構わないが、その代わりに六国会談に復帰するということが前提条件だ」と要求したのは確かだろう。


限界が見えてきた金正恩外交


これまでの金正恩の、韓国、中国、アメリカ、ロシア......といった外交戦略と動き方を見ていると、なかなかに戦略的だという側面を否定できなかったが、しかしここに来て、馬脚を現し始めたか、という感を拭えない。


まず、中朝首脳会談をやってのけてから米朝首脳会談に臨むという「順番」に関する戦略だが、一見「うまい」ように見えるが、しかし、それによりトランプのプライドを傷つけ、米朝首脳会談の可能性を遠ざけている。このことは4月5日付のコラム「河野発言、中国に思わぬ一撃か?」の最後の部分に書いた通りだ。


当たった「河野発言」


さらに北朝鮮問題分析サイト「38ノース」が河野発言を証拠立てる新たな画像を発表したようだ。「38ノース」は「原子炉の稼働が停止した可能性がある」とする一方で、「川から冷却水を取り込む場所で大規模な掘削作業が行われている」「原子炉の将来の稼働に備え、水の供給を安定させようとしている可能性がある」と分析しているという。ANNニュースが伝えている(英文原文は確認していない。どうにも時間が取れないため、第一次資料に当たっていないことをお許し願いたい)。


となれば、「北朝鮮が核実験のための準備をしている」とする河野発言に反論を唱えた「38ノース」だったが、今度は河野発言をサポートしたことになる。


これが真実だとすれば、金正恩は何とまた愚かなことをしているのだろう。


これでは自分の首を自分で絞めているようなものだ。金正恩外交は、これ以上の発展を見ることはできまい。


日本にチャンスか


連鎖反応的に考えれば、これは安倍政権に有利に働く。日米首脳会談も成功する要素が生まれてきた。


というのは、トランプ大統領は「2国間協議」は好むが、「多国間協議」を非常に忌み嫌っているからだ。したがって中朝首脳会談で主導権を奪われただけでなく、米朝首脳会談が6カ国協議につながる可能性があることが判明すれば、トランプは、おそらく、米朝首脳会談など実行しようとはしない可能性があると判断されるからである。大統領の中間選挙に必ずしも利するとは限らないので、実行する方向に動いたとしてもハードルは高いにちがいない。


安倍首相が影響力をもたらし得る空間が、少し開けてきたのではないだろうか。


[執筆者]遠藤 誉


1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。


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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)


このニュースに関するつぶやき

  • 6か国会議は中国が主導していましたからそれを復活させたいのはわかりますが、どうなるのでしょう。
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