「介護舐めるな」と批判噴出――“訪問介護をボランティアに”財務省の提案に、現場の本音は?

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2018年04月17日 15:43  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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kaigokoramu

 「訪問介護をボランティアに」――4月11日、財務省財政制度等審議会の分科会であがった提案に、ネット上が大荒れとなった。介護は、家族だけで抱えるとパンクする、プロのサポートが必要という考えが浸透してきた現在、訪問介護を無償のボランティアが担うという案は、ネット上で「介護を舐めるな」「やりがい搾取」との批判を巻き起こしたのである。

 こういった案が出てくるのは、超高齢化社会が進む中、医療費や介護費が増大しているという背景が関係している。後期高齢者の数は2030年頃まで大幅に増加することが見込まれているのに対して、保険制度の支え手となる年齢層は減少が続く。そんな中、財務省が、介護保険の分野において、調理や掃除など身の回りの世話をする「生活援助サービス」を、ホームヘルパーの代わりに地域の住民やボランティアを活用し、費用を抑えることを提案。確かに、国の介護費は膨張しており、このままでは介護保険制度が立ち行かなくなるという危惧はよくわかる。介護にかかわる人材不足も深刻だ。訪問介護を担うヘルパーの高齢化が進んでいるとも耳にする。

 筆者は訪問介護における生活援助サービスの現場を、これまでに何度か取材したことがあるが、そこだけを切り取ってみると、確かにやっていることは「家事」であり、それほど介護度が重くない方でも、月に数百円の自己負担でサービスを受けているという事実に疑問や不公平感を抱く人がいても不思議ではないと思う。提案をした財務省財政制度審議会のメンバーも、おそらくそこだけを切り取って見ているのではないだろうか。さらに「単なる家事ごとき、ボランティアで十分」というニュアンスも感じられるのもちょっと引っかかる。

 では、こういった生活援助サービスを、プロではなく地域住民やボランティアが担うとなると、どんなことになるのだろうか。訪問介護に携わっている関係者に話を聞いた。

 最初に話を聞いた花島さんは長く訪問介護に携わり、今はケアマネジャー(以下、ケアマネ ※1)として首都圏の大手介護事業所で働く。花島さんの所属する事業所のある市は、要介護者の状態を改善する取り組みに注力する先進的な自治体である。そこで花島さんやその事業所は、精力的に取り組んで数々の成果を挙げており、自治体からの信頼も厚い。

 いわば“凄腕ケアマネ”である花島さんは、「ヘルパーが生活援助だけで入るということはまれ」だと言う。ちなみに訪問介護には料理や掃除、買い物など利用者の生活のお手伝いを行う「生活援助」と、入浴や着替え、おむつ交換など利用者の身体に直接触れて行う「身体介護」がある。生活援助でも、日常の家事の範囲を超えている草むしりや窓ガラスの掃除などは含まれない。

「料理や掃除だけでなく、週のどこかで身体介護の枠もあるので、その方の生活全体を見て、状態を確認しつつサービスを提供しています。さらに民間の配食サービスを利用するなどしながら、料理や掃除などの生活援助サービスは必要最低限にしているんです。それもアセスメントで本当にその人にその援助が必要かを検討し、必要であると認められないとそう頻回には入れられません。買い物や掃除でも、ただヘルパーが買ってくる、掃除するのではなく、その方と一緒に買い物に行ったり、掃除をしたりと、ご本人の意欲向上や運動につながるようにしていますね」

 花島さんの自治体では、社会福祉協議会などが有償ボランティアを活用している例もあるが、人員が確保できないなど、事業として行うには課題も多く、軌道に乗っていないと感じている。花島さんは「我々のサービスは、プロの目で見て、根拠に基づいたサービスを提供しているのであって、安易に生活援助サービスを提供しているわけではない。コストが安いというだけでボランティアを活用するとなると、難しいのではないか」と言い切る。

 では、もし生活援助サービスがボランティアになったらどんな問題が考えられるのか、聞いてみた。

「ボランティアになると研修体制もしっかりしていないでしょうから、基本的なやり方やルールがわからないまま利用者さんのお宅に入るというのは非常に不安ですね。それから、ヘルパーは訪問すると、まずご本人の様子、意欲や体調など最初に確認します。その方の主治医が誰で、どんな病気があるのかなどもトータルで見て、サービスを提供しているんです。掃除だけ、食事の支度だけ、と切り取って任せているわけではありません。だから少なくともその方をトータルで見ることはできなくなると思います」

 次に話を聞いた天野さんも、ヘルパーとして訪問介護に長く携わり、今は横浜市の事業所でケアマネとして働いている。

 現在、要支援者(介護は必要ではないものの、日常生活に不便をきたしている人)への訪問介護や通所介護(デイサービス)は、国ではなく市町村が中心となって担う体制に移行し、NPO・ボランティア団体なども支援サービスを提供できるようになった。独自の研修を実施して、修了者を「市認定ヘルパー」「生活支援サポーター」などとして活用し、日常生活支援サービスを行うことで、介護予防にかかる給付費を抑える取り組みを行っている市町村もあるのだ。実際には、軌道に乗っているとは言いがたい状況だが、横浜ではかなり進んでいるという。各事業所の研修を受けて、ヘルパーよりも安い金額で要支援の方に生活援助サービスを行う仕組みで、天野さんの知人も、この“横浜モデル”のヘルパー派遣を中心とした事業所を開設準備しているという。

「『掃除だけお願いしたい』といったニーズは実際にあります。その場合、大手の事業所には頼みにくいので、そういった事業所に仕事を依頼したいと思っている方もいるんです。といってもケースバイケースなので、サービス提供責任者(※)がそれぞれのニーズをくみ取ってマッチングできれば、ボランティアであってもうまく活用できるかもしれないですね。専業主婦としての経験を生かして家事をやってあげて、高齢者の役に立ちたいという人は少なからずいるので、これから先もちゃんと使える仕組みが整えば、ボランティアもありだと思います」

 横浜市の場合、シニアが高齢者施設等でボランティア活動を行った場合にポイントが付き、将来自分のために使えるという。ボランティアに応える仕組みはかなり整っている方だ。このことも天野さんがボランティアを容認する意見に影響を及ぼしているかもしれない。また天野さんは、“生活援助だけのニーズがかなりある”という点の具体例を教えてくれた。

「腰の悪い方や独居の男性など、掃除だけ、買い物だけ、料理だけ、というニーズは確実にあります。そういう要請に対しても、必ず医師が『訪問介護による生活援助が必要』と判断し、意見書を出したうえで対応しているので、安易にサービスを提供しているわけではありません。それでも家族がいると、そうしたサービスは提供できないんです。例えば、奥さんが要介護の高齢夫婦の2人暮らしは、夫がいることで料理などのサービスを入れられないこともあります。そういった場合でも、ボランティアなら入れるとしたら、夫婦の生活を支えることができるのではないでしょうか」

 さらに国の財政を考えたとき、介護費を抑制する必要があるということについては、一定の理解を示す。

「ただ、現場で真面目にサービスを行っているヘルパーや私たちケアマネとしては、国のことを考えて介護費を抑制しなければ、という意識にはならないと思います。例えば、在宅の認知症の方だと、家族の負担を減らすためには一緒にいる時間を少しでも減らしてあげたいと我々は考えるんです。すると、ケアマネとしては、デイサービスを増やす方向になる。1割負担ではあっても、利用者はお金を払っているわけですから、『お金をかけさせて申し訳ない』という気持ちにはなりますが、ご本人とご家族のことを考えるとそれは仕方ないと思う。だから、国の介護費というコスト意識があるかと言われれば、ないと言わざるを得ない。私たちは、介護保険の枠組みの中で、できるだけその人のためにと考えるので、介護費を抑制しなければならないのなら、枠組みで縛るしかないというのは理解できます。そうすれば、私たちもその範囲内でやりくりしますから」

 では、ボランティアが入ることによる問題は?

「そのお家に入るんですから、やろうと思えば何でもできますよ。例えば認知症で独居の方とか、犯罪が起こる可能性は大きいと思います。それから、せっかくやる気になって入っても、こんなはずではなかったと思うこともあるでしょうね」

 これについては、サービス提供責任者のマッチングや指示が重要になるだろうと天野さんは指摘する。ケアマネはおおまかなケアプランの作成をするが、利用者の細かなニーズをくみ取ったり、利用者とヘルパーの相性を考えたりするのはサービス提供責任者だ。トラブルが起こらないように采配するサービス提供責任者の役割が大きくなるとすれば、必然的にそこにはお金が発生するだろうと天野さんは言う。最後に天野さんは、訪問ヘルパーをしていたときの思いを聞かせてくれた。

「自立援助のための訪問介護をやった経験があります。脳梗塞の後遺症で片マヒの男性で、腎臓が悪いので減塩食を作らないといけませんでした。その方もやる気があって、週に2回一緒に食事を作っていましたが、私はその方に切り方など指示をするのと同時に、自分の作業も進めて調理を時間内に仕上げないといけない。すごく大変でした。その方は要支援だったのですが、やりがいはあるとはいえ、労力に対しての報酬はほとんどボランティアレベルで、正直むなしかったです。国の目指す生活援助サービスは、そうした自立支援なのでしょうが、内情はそんなもの。利用者のADL(日常生活動作)を伸ばす生活援助をちゃんとやろうとすると、プロとしての高いスキルが不可欠だと思います」

 そして、正直な気持ちも明かしてくれた。

「本当に介護費や医療費を減らしたいと考えているのなら、延命治療とか終末期でものすごくお金がかかっているところにメスを入れてほしい。無駄な医療はたくさんあって、訪問介護にかかる費用なんか比べものにならないくらいの金額がかかっています。訪問介護なんて小さすぎますよ」

 訪問看護に携わった経験のある看護師、吉岡さんには少し客観的な意見を聞いてみた。「ボランティアについてはあまり詳しくはないが」と前置きをしつつも、医療専門職の視点から答えてくれた。

「今の介護保険制度で、ヘルパーは仕事としてサービスを提供しているから回っているけれど、ボランティアとなるとサービスの質は確実に落ちるんじゃないでしょうか。ヘルパーは、例えば家族と一緒に住んでいる人には提供できないサービスがあったり、病院に同行しても先生の説明を聞くことはできないなどと、できる仕事とできない仕事の線引きがはっきりしているんです。実際訪問看護に行くと、家族はいるけれど忙しくて掃除などの家事はほとんどできていないのに、家族がいるという理由でヘルパーが掃除に入ることもできず、劣悪な環境で暮らしている高齢者もたくさん見てきました」

 それだけに、ボランティアが何の線引きもなく生活援助を行うと、問題も発生するのではないかと危ぶむ。

「ボランティアが『誰かの役に立ってうれしい』程度の気持ちでやると、利用者から何でも頼まれてズルズルと引き受けてしまったり、家庭内部に入り込みすぎて、1人で抱え込んでしまったりもするでしょう。甘える家族だと際限なく甘えてきますから。家庭の秘密を外に漏らすなどのモラルの問題やお金のトラブルも起こると思う。問題が起こると、今まで真面目にやってきたヘルパーの信頼まで薄らぐでしょう。震災のボランティアとは違って、生活援助はずっと続くもの。日本はボランティア文化が根付いていないので、問題が噴出する気がしてなりません。結局困るのは、サービスを利用する高齢者です」

 さらに、こんな憤りも口にした。

「ボランティアの教育や指導などをどうするのか、具体的に決めることなく現場に下ろされることになるのではないかと疑ってしまいますね。ボランティアだからといって教育をしないで良いわけはないでしょう。でも、それを誰がするのか。介護事業所が教育するとして、その費用は誰が持つのか。役所って、細かいところを決めずに現場に下すことが多くて、病院でもそれぞれやり方が違うということはよくあるんです。現場が混乱するのは目に見えています。何よりこの提案、厚労省が言ってるのではなく財務省が言っているというところに、切りやすいところから切るんだなというイメージを持ってしまいます。結局切り捨てられるのは、弱者ですよね」
*  *  *
 もしボランティアが生活支援サービスを担うことになると、その質をどう担保するのか、どう平準化するのか、介護にかかわる他職種と情報をどう共有していくかが課題になるだろう。ボランティアの良心だけに委ねるのはあまりに乱暴だし、需要に見合うだけのボランティアの数をきちんと確保できるのかも不確定だ。有償ボランティアなどとするなど、報酬と一定の研修は不可欠だろう。

 いずれにしてもこれはまだ提案の段階。今後この提案を取りまとめる際には、生活援助サービスを点として見るのではなく、総合的に捉えたうえで充分検討を重ねてほしいと思う。

※1 要支援・要介護認定を受けた人からの相談を受け、利用者にもっとも適切なサービスを組み合わせたケアプランを作成し、総合的なコーディネートやマネジメント管理をする
※2 訪問介護サービスのコーディネート業務をする。訪問介護計画を作成し、ヘルパーにサービスの指示をするほか、ヘルパーへの技術指導や勤務スケジュールの組み立てなどもする

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  • 流石にもう関わるなよってレベルの無能だな…。介護問題、人死に出てるのに誰だ…?どこの阿呆だ…?何でそんなに阿呆だ…?え?何で?
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