ワールドカップ、オリンピック…国際的なイベントに潜む感染症のリスクとは?

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2018年04月20日 12:01  QLife(キューライフ)

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QLife(キューライフ)

風邪に似た症状でも、24時間以内に死亡することもある髄膜炎菌感染症

 2019年のラグビーワールドカップ、2020年には東京でオリンピック・パラリンピックと、国際的なスポーツイベントの開催を控える日本。観戦を楽しみにしている方や、ボランティアとして参加予定の方もいらっしゃるのではないでしょうか。イベント開催に合わせて世界各地からたくさんの人が日本を訪れることが見込まれ、その経済効果も期待されています。しかし同時に、さまざまな感染症が持ち込まれるリスクや、一定のエリアに人が集中するため大規模に感染が広がるリスクをはらんでいます。

 侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)は、髄膜炎菌という細菌が、血液や髄液に侵入して起こる感染症です。2017年に神奈川県内の全寮制の学校で集団感染が起こり、10代の学生が死亡するという痛ましいニュースがあったことを、覚えている方もいるかもしれません。感染すると2〜10日後に急に発症して急速に進行し、発症後24時間以内に死に至ることもあるIMD。初めに現れるのが、頭痛やのどの痛み、鼻水といった風邪に似た症状であることから、診断が非常に難しいうえ、早めに診断ができて適切な治療を受けられても、2日以内に5〜10%が死亡するという研究結果もあります。また、1〜2割の割合で聴覚障害や神経障害、壊死した四肢の切断など、深刻な後遺症を残すこともある、重篤な感染症です。

 日本では2013年4月〜2017年10月の間に、160人がIMDを発症していたと報告されています。発症数自体は多くありませんが、学生寮などで集団生活をしていたり、ドーム式のイベント会場など換気の悪い空間に多くの人が集まる場合には、髄膜炎菌に感染しやすくなります。咳やくしゃみなどの飛沫で感染し、鼻やのどなどの粘膜に髄膜炎菌が感染しただけではIMDは発症しませんが、体力が低下していたり、持病がある場合にはIMDを発症することもあり、注意が必要です。

集団生活を送る学生は、予防接種で感染対策を


かずえキッズクリニック 院長 川上一恵先生(左)、メディカルHQファミリークリニック ロドニー・ピアース先生

 それでは、髄膜炎菌に感染しないように、どんな注意をしたらよいのでしょうか。サノフィ株式会社が主催したメディアラウンドテーブルで講演した、かずえキッズクリニック院長で東京医師会理事も務める川上一恵先生は、「IMDの発症を防ぐには、髄膜炎菌の予防接種を受けること」といいます。

 「日本小児科学会では2017年に、髄膜炎菌予防接種を任意接種ワクチンとして、学生寮などで集団生活を送る学生さんなどを推奨接種対象者に追加しました」と、川上先生。予防接種の対象年齢は2〜55歳で、集団生活を送る人のほか、IMDが流行している地域へ行く予定のある人、重症化しやすい持病のある人にも接種を推奨しています。「IMDは、発症してもすぐに検査ができないうえ、昨今では薬剤耐性菌の出現を防ぐため、抗菌薬を予防的に使うことも控えるようになってきました。そういう状況をふまえると、予防接種は、IMD対策として現実的に実施可能な手段だといえます」(川上先生)

 実際に、予防接種によってIMDへの感染を減らすことに成功したのがオーストラリアです。髄膜炎菌の血清型のひとつ「C型」に対応した予防接種を開始したことで、C型髄膜炎菌の感染例が激減したことを、オーストラリアのメディカルHQファミリークリニックのロドニー・ピアース先生が紹介しました。現在は、2015年頃から流行している「W型」髄膜炎菌に対応した予防接種プログラムを、2018年7月から開始する予定で最終的な協議を行っているとのこと。「IMDが発生してから、予防接種を推奨するのでは間に合いません。イギリスで行われた青少年を対象とした予防接種の取り組みでは、接種率が4割に満たなかったにもかかわらず、感染が7割減少しています。流行に先んじて、予防の取り組みをしていくことが大切です」(ピアース先生)。

 ワールドカップやオリンピックの開催も、もうすぐ。リスクを知って、必要な対策をしっかりとっていきたいものですね。(QLife編集部)

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