<非ホルモン性で副作用もない男性用ピルは、精子の泳ぐ力をストップさせる効果が期待できる>
男性の避妊の形が大きく変わるかもしれない。
米オレゴン国立霊長類研究センターの研究チームが、理想の男性用避妊薬の開発に向けた実験に成功したというニュースが飛び込んできた。
その名も化合物「EP055」。飲み薬として服用できるいわば男性版のピルといったところだ。男性の避妊方法としてメジャーなコンドームは物理的な手間がかかることなどから、より手軽に使える経口避妊薬の開発は長く待望されてきた。
英インディペンデント紙によると、EP055は精子の泳ぐ能力を抑える効果がある。実験でアカゲザルにEP055を与えたところ、精子の表面のタンパク質に作用し、精子が動く能力を制限することが確認された。
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副作用のない理想的な男性用避妊薬
研究チームの主任マイケル・オランドは「簡単に言えば、EP055は精子の泳ぐ力を失わせることで受精能力を大幅に抑える」と説明する。実験でEP055を与えられた全てのアカザルが18日後に完全に回復したことが確認されており、理想的な男性避妊薬(非ホルモン性)の候補として熱い視線が注がれている。
現時点で、男性ができる避妊法はコンドームかバセクトミー(精管切除術)しかない。日本で「パイプカット」と呼ばれるバセクトミーは、外科的な手術を受ける必要があるし、一生子供を作れなくなる可能性もあるため、手軽な方法とはとても言えない。
これ以外の男性向けの避妊法もないことはないが、ホルモンに作用し「精子の生産」を抑えるタイプという。人によっては副作用が出る恐れもある。
2016年には、避妊薬注射が有効だと判明したものの、副作用の発生率が高く、早い段階で実験は中止された。この実験に参加した男性のうち気分障害の発症例が5つ、さらに約5%の男性が試験薬を飲んでから1年経っても精子の量が元に戻らなかった。参加者の半数未満だが、ニキビが出たという報告もあった。
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「JQ1」の名で知られている別の薬剤はマウスを使った実験は上手くいったというが、長期的に見て何も影響が出ないかどうかは分からない。
意外なヒントと最新の臨床試験
驚くべきものが開発のヒントになったケースもある。今年1月に、アメリカ化学会の研究チームは、ある化合物をラットで試した実験結果を発表した。
この化合物のもとになっているのは、アフリカ先住民族のソマリ族が狩りで使う毒矢に塗っていた「ウアバイン」。植物などから抽出された「ウアバイン」に避妊効果が認められたと報告した。
また、男性の精子の数を減少させる効果が期待できる避妊用ジェルの臨床試験も近々始まる予定という。
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男性にとって便利な避妊法を探る研究は多くの機関で行われているが、利便性の面そして何よりも副作用がないことからも冒頭の「EP055」の製品化への期待は大きい。「EP055はまだヒトを対象にした臨床試験は行っていないが、今メジャーなコンドームやバセクトミーといった手段に取って代わる、可逆的で短期間効く薬を供給できる可能性は高い」とオランドは考えている。
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
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