寝たきりの兄を家族は…日本も他人事ではない介護小説『ファミリー・ライフ』著者に聞く(3)

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2018年04月30日 17:02  新刊JP

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『ファミリー・ライフ』の著者、アキール・シャルマさん
出版業界の最重要人物にフォーカスする「ベストセラーズインタビュー」。

第98回となる今回は、自身二作目の長編『ファミリー・ライフ』(新潮社刊)が国際IMPACダブリン文学賞を受けるなど国際的な評価を得ている作家・アキール・シャルマさんが登場してくれました。

『ファミリー・ライフ』は、インドからアメリカに移住した一家を巡る物語。憧れのアメリカで幸福を築きつつあった一家の日常は、長男・ビルジュの事故で一変。彼の介護という仕事が、両親と弟のアジェの心に晴れることのない深い影を落としていきます。

アキールさん自身の経験が元になっているこの作品について、その魅力と読みどころを、翻訳を手掛けた作家の小野正嗣さんを交えて語っていただきました。最終回はアキールさんが、これまでに影響を受けた本について語ってくれました。

(インタビュー・文/山田洋介、撮影/金井元貴)

■海外文学の注目作家アキール・シャルマのお気に入り本

――この作品からは、アメリカに移住したインド人の葛藤も読み取れます。インド人のままではアメリカで暮らせない一方、アメリカ人になりきることもできないという複雑な立場で、アキールさんご自身はアメリカでどのようにアイデンティティを発見していったのでしょうか。

アキール:大人になるにつれて精神的に安定して、自分自身でいることを快適に感じることができるようになったというのもありますし、私の場合は作家としてのアイデンティティを確立することができたというのも大きかったです。国際的に活動する作家というのが、今の私の一番のアイデンティティなので。

――作中でアジェがヘミングウェイの評論を読んで創作を始める場面がありますが、アキールさんご自身もそのようにして小説を書き始めたのでしょうか。

アキール:これはもう現実そのままです。その通りですね。

――アキールさんが人生で影響を受けた本がありましたら3冊ほどご紹介いただきたいです。以前、小野さんに同じ質問をした時は、本ではなく「影響を受けた人」を教えていただいたので、そちらでも構いません。

アキール:じゃあ、「影響を受けた作家」にします。私が影響を受けたのは、トルストイ、ヘミングウェイ、チェーホフの3人です。

――トルストイはどの作品が最も気に入っていますか?

アキール:『戦争と平和』ですね。兄が病院に入院していた頃、彼は人工呼吸器をつけて横たわっていたのですが、私はその兄の姿を見ていられなくて、背中を向けてこの小説を読んでいました。私にとって思い出深い本です。

――ヘミングウェイはいかがですか?

アキール:『日はまた昇る』が一番好きですし、影響を受けました。この作品はヘミングウェイの小説のなかでは荒削りで、たとえば『武器よさらば』の方が文章が磨き上げられていてよくできていると思いますが、影響を受けたかどうかでいうとこちらですね。

チェーホフは全部いいです。英訳版はいろんなバージョンが出ているのですが、どれもいい仕上がりでした。

小野:チェーホフの作品についても、『戦争と平和』のように自身の人生の一場面と結びついていたりするんですか?

アキール:小説を書いている時に、たまにパニックに陥ることがあるのですが、そういう時にチェーホフの「The New Villa」という作品を読むとすごく落ち着きます。そんなによく知られている作品ではないのですが。

――最後にお二人から日本の読者にメッセージをお願いします。

小野:決して読みにくくはなく、読者に開かれていて、中に入れば各自が自身の経験と重ねあわせながら色々なことを考えることができる作品です。介護に直面した家族の心情という、今の日本にとっても重要なトピックについて書かれている本でもあるので、ぜひ多くの人にいただきたいです。

アキール:笑えるところもありますし、つらい時に読めばホッとできるところ、安心できるところもあると思います。楽しんで読んでもらえたらうれしいですね。
(インタビュー・文/山田洋介、撮影/金井元貴)

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