アルツハイマー病で最も損なわれる記憶と同種の記憶がラットにもあった!新薬開発に期待

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2018年05月14日 18:12  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<人以外の動物で初めて、ラットにも出来事の順序を記憶できることが確認された。これで、実験動物にアルツハイマー病を正確に再現する希望が見えた>


人以外の動物も記憶から順序通りに過去の出来事を思い出せることを、科学者が初めて突き止めた──アルツハイマー病の新薬開発につながる可能性のある発見だ。


米科学誌「カレント・バイオロジー」に発表された最新の研究で、米インディアナ大学の研究チームは、人の神経障害でみられる記憶障害の解明に役立つ新たな記憶モデルを開発するため、動物の記憶に注目した。


現在、アルツハイマー病の新薬開発における臨床前試験の大半は、移動に関わる空間記憶に及ぼす効果に着目している。ラットやマウスは優れた空間記憶をもつことから、動物実験で最も検証が容易な方法の1つだからだと、論文の筆頭著者を務めたインディアナ大学の神経科学者、ジョナソン・クリスタル教授は声明で述べた。


だが通常、アルツハイマー病が悪化する最大の原因は、空間記憶の損傷ではなく、いわゆる「エピソード記憶」の減少だ。


アルツハイマーに伴って減退する記憶


エピソード記憶とは、特定の出来事を起きた順序で思い出せる能力を指す。その能力があるからこそ、私たちは過去の経験を頭の中で再生して思い出すことができる。アルツハイマー病の患者が、意味をなさない記憶に苦しむのは、過去の出来事を順序立てて思い出すことができなくなるからだ。


「もしあなたの祖母がアルツハイマー病を患っているとして、最も残酷なことの一つは、最後に2人で会った時にあなたが語った内容を、彼女が覚えていないことだ」と、論文の第一筆者を務めたインディアナ大学博士課程のダニエル・パノス・ブラウンは声明で述べた。「われわれの研究チームがエピソード記憶とエピソード記憶の再生に注目するのは、この記憶の力がアルツハイマー病の進行や一般的な老化に伴って減少するからだ」


研究チームは1年かけて、ラット13匹が過去の出来事を起きた順序で記憶する能力を検証した。最初はラットが最大で12種類の異なる匂いを順序通りに覚えるよう訓練。実験用の白い囲いの中にいくつもの穴を用意し、それぞれの穴の奥底に匂いがついたプラスチック蓋を置く方法で、異なる匂いを嗅ぎ分けられるようにした。ラットが正しい順序で正解した時だけ、ご褒美のエサを与えた。


研究チームは訓練後、ラットを囲いに入れ、匂いの順番に関する記憶を検証した。プラスチック蓋を置く位置のパターンは、実験ごとに多少変えた。ご褒美のエサを与えるのは、最後から2番目か4番目の匂いを当てた時とした。


ラットが単に知っている匂いを当てにするのでなく、順序を思い出していることを確認するため、研究チームは実験ごとに、匂いの種類の数を変更した。


その結果、ラットは実験全体の87%で見事正解したことが分かった。研究チームによれば、それはラットがエピソード記憶を再生できることを示す有力な証拠だという。


チームは追加実験を実施し、それらの記憶は長続きし、他の記憶の「介入」による影響を受けにくい、ということも証明した。両方ともエピソード記憶の特性に合致するものだ。さらに、ラットがエピソード記憶に関わるとされる脳の「海馬」で匂いの順番を覚えていたことも確認できた。


クリスタルに言わせれば、人間以外の動物で初めてエピソード記憶が確認できたことで、アルツハイマー病で起きる障害をより正確に動物実験で再現できることを意味する。そうすれば、動物で有効だった新薬がアルツハイマーには効かなかったという失敗も減らすことができるという。


(翻訳:河原里香)




アリストス・ジョルジオ


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