IT産業が東京都心部に一極集中する理由

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2018年05月16日 14:21  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<東京の港区、千代田区、新宿区、渋谷区、品川区の5つの区に首都圏のIT産業は集中している。その集積度は全産業の倍以上>


収入は学歴や職業といった個人の属性によって決まるが、居住地の影響も大きい。統計で見ても、東京のブルーカラーの平均年収が地方のホワイトカラーより高くなっている(総務省『就業構造基本調査』2012年)。


エンリコ・モレッティの『年収は住むところで決まる 雇用とイノベーションの都市経済学』(邦訳:プレジデント社、2014年)によると、旧来の製造都市の大卒者より、イノベーション都市の高卒者のほうが稼いでいるという。産業構造の違いによるが、とりわけIT産業のようなイノベーション産業は特定地域に集積する傾向がある。


本書では、アメリカ国内のデータでそれが実証されているが、日本でもおおむね当てはまる。首都圏の情報通信産業(以下、IT産業)従事者比率の地図を描くと<図1>、そのことはよく分かる。各区市町村の全就業者のうち、IT産業従事者が何%いるかというデータだ。


首位は東京の品川区の18.1%、2位は港区の17.8%、3位は江東区の15.1%となっている。これらの区では5〜7人に1人がIT産業従事者だが、こういう地域は数の上ではごくわずかだ。IT産業従事者率が10%を超える地域は、242区市町村のうち9しかない。


地図の上ではマックスの階級を「3%以上」としたが、ここまで下げても該当する地域は多くない(濃い青色)。また、高率地域が都内の都心に集中していることも注目される。確かに、IT産業の地域的集積の傾向がみられる。


IT産業従事者の数が多い順に242区市町村を並べると、上位5位(港区、千代田区、新宿区、渋谷区、品川区)の合計は53万2000人ほどで、全体の53.1%を占める。首都圏全体のIT産業従事者の半分以上が、これらの5区に集中している。


特定地域への集中度がどれほど凄まじいかをグラフにすると、<図2>のようになる。IT産業従事者の数が多い順に242区市町村を並べ、全体に占める割合を累積グラフにした。


色付きのゾーンは上位20位までの区市町村の占有率だが、IT産業では上位20位の地域が全体の8割を占めている。そこへの集中度は全産業の倍以上だ。


IT産業の場合、事業所はどこに構えてもよさそうなものだが、なぜ中枢部に集中するのか。モレッティによると、高度な知識や発想に触れる機会が多いためだという。イノベーションを担うIT産業従事者には、絶えず一流の知や人と接する必要がある。それはデジタルを介してでも可能だが、やはり直に会う(接する)ことによる効果は大きい。人間はアナログ動物だということなのだろう。


モレッティは「相乗効果」と呼んでいるが、それはいろいろなことに当てはまる。たとえば、低い階層の子弟であっても、高い階層の人間が多い地域に住んでいるならば、大学に行きたいという欲求を高めるだろう。居住地のクライメイトは、当人の家庭環境を凌ぐ影響力を持っている。


日本でも、衰退する製造都市と、勃興の可能性を秘めたイノベーション都市に分化(segregate)していくのではないか。それは、子どもの教育格差が生じる条件にもなる。日本もこの先、「住むところ」が重要な時代になるかもしれない。


<資料:総務省『経済センサス基礎調査』(2014年)>




舞田敏彦(教育社会学者)


このニュースに関するつぶやき

  • ネットワーク環境は地方でもかなり良くなっている所があるけど、そこで働く人々やその家族の住環境や通勤環境というのまで考慮すると仕方ない気がする ^^;
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