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2019年10月に消費税率が10%へと引き上げられる予定だが、この際に政府が「消費税還元セール」を解禁する方向だと報道された。2014年4月に5%から8%へと上がる際、消費者は引き上げ前に買いだめに走り、その反動で引き上げ後は消費が大きく冷え込んだ。
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この時の個人消費の落ち込みは、経済に悪影響を与えたといわれる。この「駆け込み需要」と「反動減」による消費の山と谷を、なるべく生じさせないようにするのが狙いだという。
ただ、そもそも還元セールが禁止されたのは、1997年に3%から5%へと税率が上がった際に還元セールが各地であり、値下げ分の負担を立場の弱い業者がさせられたりといった「しわ寄せ」があったためとされている。
今回の政府の動きを受けて、日本商工会議所の三村明夫会頭は5月24日の会見で、「結局は仕入れ先に対してその分の値下げを要求してくることになるのではないか」と反対する考えを示したことが報道されている。
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還元セールが解禁されたとして問題は生じないのか。そもそもの効果と弊害も含め、安藤由紀税理士に聞いた。(注:軽減税率については考慮しない)
ーー還元セールにはどのような効果があると考えていますか
「前回は、増税される前に買いだめされ、増税後は、みんな買い控え。消費の落ち込みがはっきり現れました。消費税還元セールが禁止されていたから、同じものでも、『確実に増税分の3%高い!』と感じたら誰も買いたくないですからね。
還元セールOKとなったら、もちろん売り手はこぞって『消費税還元!』とセールをするでしょう。消費者も、通常なら増税後は消費税分の損をするから買いたくない、だけど、それが損しないなら買ってもいいかとなる。増税された感を薄め、購買意欲をあげることで、前回のような、急激な消費の落ち込みを減らす効果があるでしょう」
ーー逆にどのような弊害がありそうですか
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「還元セールがそもそも禁止された理由にも通じますが、税率アップ後に『増税分値引き』とか『消費税分サービス』とうたっても、実際は税率が10%に上がっているわけですから、どこかで誰かが負担しているわけです。
本来、100円のものは『税率10%なので税込み110円』となりますが、還元セールとして108円で売ったところで、消費税はもう8円ではなくなっています。税込み108円なら内訳は『98.2円+消費税9.8円』となります。つまり、還元サービスを行うことで、売る側の手取りは差額である1.8円分、減ってしまいます」
ーーこうした手取り減が積み重なると、大きな打撃になりますね
「はい。結局、立場の弱い業者が、損をかぶるということにつながります。前回はこれを防ぐために禁止されたのですが、解禁されればこのような事態が懸念されます。業者間のやりとりなので、表立って見えにくいということもあります。また本来は、消費者が負担すべき消費税を、実質、業者が負担することになってしまう構図も問題です。
前回の消費税増税の折には、公正取引委員会から、各事業者に、『増税分の値上げを拒否されたり、増税分の値引きを強要されたりするイジメをうけていませんか?そういう悪い会社があったら、会社名を教えてください!おしおきします』という内容のお手紙が届きました。増税分の負担を立場の弱い業者に強要するのは、ものすごく悪いということですね」
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【取材協力税理士】
安藤 由紀(あんどう・ゆき)税理士
大学卒業後、銀行勤務を経て2008年に税理士登録(簿記、財務諸表論、法人税法、所得税法、相続税法の5科目合格)。大学講師、セミナー、執筆など業務は幅広い。経理初心者向けのわかりやすい解説に定評あり。(ブログ : https://ameblo.jp/ando-tax/ Twitter : @andoyuki_)
事務所名:安藤由紀税理士事務所
事務所URL:http://www.ando.jdlibex.jp/index.html
(弁護士ドットコムニュース)
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