意外と多い日本のラジオ体操人口。実は海外にルーツがあった!?

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2018年06月06日 11:00  citrus

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■ラジオ体操人口ってそんなに多いの?

 

ラジオ体操ってアナクロなイメージが漂いますが、意外と多くの日本人がやっていて、ネットで検索すると何と3000万人(!)という記事もあります。元ボクサーのノンフィクション作家・高橋秀実が書いた『素晴らしきラジオ体操』(初版1998年)にも同様の記述が……。ちょっと盛っている気もしますが、ラジオ体操をスポーツと定義づければ、一番多くの日本人がやっている(場合によってはやらされている)スポーツである可能性すらあります。

 

昨年、小池(百合子)都知事は、「みんなでラジオ体操プロジェクト」として2020年に迫る東京オリンピック・パラリンピックに向けて職員全員でラジオ体操をすると発表。

 


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(ラジオ体操!小池都知事と職員で踊ってみた)

 

「ラジオ体操は日本人のDNAに刻まれたスポーツ。都民と国民の心を一つにしてほしい」とも……。確かに、そんなイメージはありますし、今なおラジオ体操を実践している日本の企業や組織は、特に工場や現場的な職場を中心に結構あります。ちょっと古いですが2011年のデータによれば、約57%の建設・運輸系企業がラジオ体操を実施しています(社内全体で実施する企業は約33%)。

 

一方で、「働き方」という観点から強制的なラジオ体操に対する批判的な意見も散見されるのも事実。自動車メーカーのスズキは、工場における始業前の5分間体操が任意と認められず、2017年7月に労基署から是正勧告受けて1000万円の支払いを命じられています。文章等で「体操に参加しなさい」と具体的に示されていなくとも、実質的にそう取れる状況の場合は労働時間と見なすべきとの判断がくだされたのです。

 

 

■伝統的な体操と思いきや、ルーツは海外?

 

そのラジオ体操のルーツが、意外なことに日本ではないことをご存じでしたか?

 

日本でラジオ体操放送が始まったのは1928年のこと。かんぽ生命によれば、1923年に逓信省(後の日本郵政)が国営の簡易保険事業を始めるにあたって、海外の保険事業の視察を始めたことがきっかけとなっています(「ラジオ体操の歴史」かんぽ生命)。

 

1925年に米メトロポリタンライフ生命保険会社(現在のメットライフ生命)が、ラジオ放送による健康体操「メトロポリタンライフ・ヘルス・エクササイズ」を開始。今となれば想像しにくいですが、当時はアメリカ人も職場でラジオ体操を実施していて、最盛期で約400万人が聞いていたとの情報もあるほど。それを参考に、1928年、国民保健体操を普及させることを目的にNHKでラジオ体操の放送が始まったのです。

 

 

■さらにさかのぼるとソ連の「生産体操」に…?

 

さらに紐解いていくと、ソ連の方がルーツにふさわしいのではないかと私は考えています。メトロポリタンライフよりも早い1920年代前半に、ソ連では「生産体操」という名で、ラジオ体操とほぼ同じものが導入されたとの記述が書籍『Sport in the USSR』にあるのです。

 


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生産体操のラジオ放送が開始されたのは1961年ですが(その後、ソ連崩壊の1991年まで続いた)、音楽に合わせて行う労働者のための体操は米国よりも日本よりも、ソ連が早かったと推測できます。ソ連の音の雑誌『クルガゾール』の第2号(1965年)でも「6分の体操」というラジオ体操曲が収録されました。

 

さらにソ連で生産体操が生まれた背景には、チェコスロバキアで推進されていたソコール運動(ソコール体操とも言う)も影響していたと考えられます。オーストリアの支配下にあった1868年当時、チェコ人の民族意識を高揚させることを目的とした体操運動で、マスゲームの元祖とも言えるもの。

 

19世紀のヨーロッパでは、器械体操を生み出した「ドイツ体操」、健康増進のための「スウェーデン体操」、柔軟体操に近い「デンマーク体操」など……、体操は国家や民族との結びつきが強く、ソコール体操もその潮流の中である種の対抗意識を持ってつくられました。それが、こうした歴史的背景のもとで共産主義と結びつき、生産体操としてソ連で普及していったと考えるのが自然でしょう。

 

意外なルーツを持つ「ラジオ体操」。それ自体は、適度な運動が容易にできる合理的な方法ですし、定型業務を行う産業においては、職場で実施する効果もあるでしょう。けれども、働く人のライフスタイルや価値観が多様になっていく中で、やらないと不利益を被るような半ば強制的なラジオ体操というのは考え直すべき時なのではないでしょうか。

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