ユニクロが抱える“3つの地雷”――「とにかく安い」「質がいい」崩壊の足音も?

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2018年06月14日 21:33  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

ユニクロ公式サイトより

 世間的には「低価格ファッション全盛」とか「ファストファッション全盛」と言われている現在。しかし一口に低価格ブランドと言っても、実は好調のブランドもあれば、不調のブランドもあります。今回から数回に分けて、低価格の庶民派ブランドの落とし穴を探っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

 本題に入る前に、1つお伝えしておきたいのが、世間では「低価格ブランド=ファストファッションブランド」という認識がまかり通っているものの、厳密に言うと同じではないということです。ファストファッションというのは、流行を取り入れて店頭に投入する速度が「速い(ファスト)」であり、企画開始から店頭投入まで半年以上費やすブランドは、いくら低価格であっても「ファスト」とは呼びません。前者の代表はZARA、後者の代表はユニクロ、GAPです。ZARAは企画開始から店頭投入まで2〜3週間くらいとされている一方、ユニクロは企画開始から店頭投入まで1年以上費やします。GAPも同じく半年以上は費やしますので、前者と後者は価格帯が同じでも事業構造が異なるのです。

 ユニクロは「国民服」ともいえる存在

 みなさんにもなじみの深いブランドで、ユニクロを買ったことがない人はいないほどの普及ぶりという、まさに「国民服」ともいえる存在です。通常のファッションブランドは、ターゲットの年齢や好むテイストを細かく絞り込みますが、ユニクロはベーシックなテイストを基本に、全年代・全テイストに向けて商品を作っています。通常のファッションブランドで、老人と若者が同じ店で買うことはまずあり得ないのですが、ユニクロでは珍しくありません。若者、中年、老人どの年代にも多くの固定客を持っています。ベーシックなデザインに徹して使用素材や縫製仕様の品質を高め、1型10万枚を軽く越える大量生産をすることにより製造コストを安く引き下げ、低価格を実現しています。高品質・低価格が全年代に評価されていると言えるでしょう。 まず、最初に取り上げるのは、日本を代表するグローバルブランドとなったユニクロです。

 ユニクロを運営するファーストリテイリングの2018年8月期連結は売上高がついに2兆円を突破して2兆1100億円となる見通しです。17年8月期連結の売上高が1兆8619億円でしたから、3000億円弱の増収ということになります。売上高1兆円を超えた日本のアパレル小売企業はファーストリテイリングが初めてで、17年8月期連結ではGAPを追い抜いて世界第3位の巨大アパレル小売企業になりました。2年前に前年比が悪化して「一人負け」とメディアから酷評されたユニクロですが、実は別にその時期でも「負け」てなどいなかったのです。減収したわけでも、減益したわけでもありません。増収増益を続けていましたがその伸び率が鈍化しただけなのです。

 こういった数字面からすると、実はユニクロには、取り立てて弱点らしい弱点は見当たりません。消費者目線からは、以前だと「ユニクロの服は色のトーンや柄が変」と言われ、例えば、ピンクやパープルなど、通常の人気ブランドとは色の彩度や明度が異なるものが多く、また柄も通常のブランドの物より特徴がはっきりと見えやすい物が多くありましたが、これも徐々に改善されており、18年春夏商品では、そこまでおかしな色柄の商品は見当たりません。

 また、ブランドステイタスが低いことがユニクロの弱点とされていたものの、クリストフ・ルメールとのコラボ「Uniqlo U」やJ.W.アンダーソンなど、世界的一流デザイナーとのコラボラインを発表し続けることでそれも克服しつつあります。今春からは新たにトーマス・マイヤーとのコラボラインも始まり、ユニクロはその財力を生かして今後もさらに一流ブランドとのコラボを続々と発表するのではないかと推測されます。

 業界的な話も1つ。ユニクロは、「インターネット通販比率が低いことが弱点」だとまことしやかに語られていますが、ユニクロのネット通販売上高は500億円前後あります。ユニクロは国内売上高が8000億円なので、単純計算だと6%超となり、確かに低いように思えますが、単独ブランドのネット通販売上高ではユニクロが断トツで首位なのです。ほかのブランドのインターネット通販比率の方が高かろうが、それは基準となる売上高そのものが小さいから、比率構成では高くなるというだけ。例えば、STUDIOUS(ステュディオス)やUNITED TOKYO(ユナイテッドトウキョウ)などのブランドを展開するTOKYO BASE(トウキョウベース)のインターネット通販比率は38.9%ありますが、トウキョウベースの売上高は127億円しかなく、インターネット通販の売上高も50億円ほどしかありません。ユニクロは基準となる売上高のケタが違うのです。それを無視して%表示だけで比較するから、このようなミスリードを引き起こしてしまうのです。

 とはいえ、この世界に完全無欠の企業なんて存在しませんから弱点もあるはずです。今回はそんな圧倒的強者になりつつあるユニクロの落とし穴を考えてみましょう。

1.原材料費の値上がりで「低価格・高品質」が崩壊!?

 衣料品の原材料費は年々値上がりしています。ユニクロはご存じのように低価格・高品質で評価されたブランドです。原材料費が値上がりすれば、その分商品価格を値上げするほかないのですが、ユニクロは14年秋冬に、原材料費の高騰を受けて5%の値上げ、15年秋冬にさらに10%の値上げをしたところ、売れ行きが伸び悩み、16年から値上げを撤回しました。一度値上げに失敗していますから、次からは、そう簡単に値上げはできません。

 衣料品の材料には、綿・麻・ウール(羊毛)・カシミヤ(高級獣毛)・ダウン(羽毛)などがありますが、このうちウールが今年年初に大幅に値上がりし、同じくダウンも値上がりしています。そして、カシミヤは毎年値上がりし続けているのです。多くの衣料品メーカーは「今年秋冬物向けの材料はほぼ確保できているので問題はないが、来秋冬からはウール、ダウン、カシミヤ製品は値上げせざるを得ない」と言い、ユニクロももちろん同様の危機に直面しています。

 また、綿も5月には値上がりし、綿(コットン)製品の価格も現状維持し続けられるかは不透明。特に「低価格・高品質」を看板にしてきたユニクロにとっては、低価格を捨てるのか、高品質を捨てるのかという厳しい選択が迫られる状況になることも、今後はあり得るかもしれません。一方、消費者にとっても、「低価格・高品質」の崩壊は、ユニクロの魅力がなくなるに等しいのではないでしょうか。

2.国内でユニクロ飽和状態、「どこにでもある」がネックに

 ユニクロの現在の国内売上高は8000億円で、店舗数は800店舗以上あります。国内でのブランド規模拡大はそろそろ限界に近付いていると言わねばなりません。また出店場所も全国的に目ぼしいところには出店し尽くしたと言えます。都心や郊外を見ても主要な商業施設・商業エリアにはほぼ出店してしまっています。8000億円のブランドなんて国内にはユニクロしかありません。先述の通り、一説には日本人の96%がユニクロの商品を購入したことがあると言われており、これ以上の国内でのシェア拡大はかなり難しいと言わねばなりません。

 とはいえ、成長を貪欲に追求する柳井正会長ですから、何としてでも売り上げ規模の拡大を狙うと考えられます。売上高を伸ばすには、「1.店舗数を増やす」「2.客単価を上げる」「3.買い上げ客数を増やす」の3つのうちのどれかを、または全部を実行する必要があります。1の店舗数を増やすことはこれ以上難しいでしょうし、3の買い上げ客数を増やすのも、ほとんどの人が所有しているといわれる状況ではこれも難しいと言わねばなりません。残るは2の客単価を上げることですが、目に見えた値上げも容易ではありません。どのような施策を取るのかに注目したいと思いますが、消費者にとっては客単価の上積を狙っての値上げは受け入れづらいのではないでしょうか。

3.最大の弱点は後継者問題! ユニクロが街から消える?

 これがユニクロを擁するファーストリテイリング最大の弱点です。2兆円企業に育てた柳井正社長兼会長は、公式には1949年生まれとされているので、来年70歳になります。ご本人は、70歳で社長職を譲り、会長職に専念することを現時点では予定されているようで、あと1年弱しかないのです。

 実はファーストリテイリングには「専任社長」がいません。柳井会長が社長も兼務していて、十数年になります。企業は、リーダーによって業績が大きく左右されます。以前、2003年頃、柳井会長は、当時同社社員で、のちにローソン代表取締役会長となった玉塚元一氏を後継者に据えようと、社長に就任させましたが、3年ほどで解任となりました。その理由については、玉塚氏の指揮が、柳井会長が思い描いていた企業の成長像とは異なっていたからだといわれています。そこから柳井会長はずっと社長を兼務したままで今に至ります。果たして柳井会長のお眼鏡にかなう後継者は誰なのか注目が集まりますが、人選を誤るとファーストリテイリングは一挙に崩壊する可能性もあります。街からユニクロが急速に消えてゆく――なんて最悪の事態も、十分あり得るということです。
(南充浩)

このニュースに関するつぶやき

  • ユニクロが開店したら入場待ちで渋滞を引き起こす、そこまでして入りたいとは思わんから行かないな。
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