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認知症の改善効果をうたう健康サプリにご用心

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2018年07月03日 15:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<記憶力や知力の衰えは誰だって怖い――サプリメントはその不安につけ込みかつてなく大繁栄しているが、規制と監視が緩く私たちの健康を害する可能性も>


うちの家系には認知症患者がいる。もしかしたら私も......。そう不安にかられたビー・ペナリームズ(57)は数年前、記憶力向上と脳の働きの改善をうたうサプリメントを飲み始めた。安全で効果があると宣伝されていたが、彼女には別の作用が表れた。


「いつもの私は陽気な人間。それなのに気分が落ち込み、ひどく悲しい感情に襲われた」と、テキサス州在住で元高校教師のペナリームズは言う。「少しのことで腹が立った」


サプリメントは医薬品と違って規制が緩く、安価なために脳の機能低下やアルツハイマー病を心配する中高年層に人気が高い。認知症の治療法が確立されていない今は、こうした効能をうたったサプリを売り込む絶好のチャンス。業界は勢いづいている。


アメリカ市場に出回るサプリの種類は過去20年で約20倍になった。成長の原動力は、「ぼけ」を恐れる人々に向けた商品。社会的弱者の不安につけ込むマーケティングがサプリ消費をあおっている構図だ。


16年9月には米食品医薬品局(FDA)が、ペナリームズの飲んでいたサプリ(主成分はビンポセチン)の販売中止を勧告した。サプリの成分は全て天然由来でなければならないが、ビンポセチンは人工的な合成物だからだ。しかしビンポセチンを含むサプリは20年近く前から売られており、FDAが知らなかったでは済まされない。業者がたっぷり儲けを上げた今になって禁止を言いだすのはなぜか?


サプリのメーカーや販売業者は、法によって「認知症に効く」といった治療効果表示を禁じられている。それでも陳列方法や宣伝文句から、言いたいことが伝わってくるのは確かだ。


グリーン・バレー・ナチュラル・ソリューションズ社(米バージニア州)は、『アルツハイマー病からの覚醒』と題したビデオシリーズを宣伝している。認知症予防のハウツーなるものが満載の内容で、これと一緒に同社の誇る「進化した」サプリも買わせようという魂胆だ。


「ニューロ・ナチュラル・リコール」を販売するエクステンド・ライフ社(ニュージーランド)のウェブサイトには、アルツハイマー病や認知症の治療に関する記事があり、同社のサプリの「強力な」成分が役に立つと記されていた(同社に問い合わせると、表現を修正するという返事が来た)。


認知症に確実な治療法はない。あるかのように思わせるのは消費者にとって有害な行為だと専門家は言う。「誰だって特効薬を探しているが......科学はそこまで進歩していない」と、アルツハイマー病協会の家族・情報サービス担当者ルース・ドリューは言う。


サプリ業界が急成長したのは、クリントン政権下で「栄養補助食品健康教育法(DSHEA)」が成立した94年以降だ。この法律によって、医薬品に求められる大規模な臨床試験やFDAの認可なしでサプリメントを販売できるようになった。


当時のFDAは未認可医薬品の摘発を強化し、派手な強制捜査を行っていた。そうした流れのなかでDSHEAができ、俳優のメル・ギブソンが連邦政府の調査官に「ビタミン剤」を押収される広告まで制作された。当時のビル・クリントン大統領によれば、この法律はサプリメント規制に関する「良識的」な解決策だった。


20人だけで虚偽広告を監視


FDAによると、現在アメリカにおけるサプリ市場は年間370億ドル規模と推定され、流通しているサプリの種類はDSHEA成立当時の約4000から8万に増加した。法律の施行後、業界は政治力も付けた。「民意を反映する政治センター」の調べでは、これまでに政治家や関係省庁へのロビー活動に4400万ドル以上を注ぎ込み、選挙関連の献金額も2500万ドルに迫る(大統領選のあった16年だけで920万ドル)。


業界は政府への影響力を増し、サプリのリスクや副作用についての情報をラベルに入れるよう求める声を抑え込んでいる。業界内には大きなコネを持つリーダーもいる。例えばダニエル・ファブリカント。FDAのサプリメント部門の元責任者だが、現在は業界団体トップのナチュラル・プロダクツ協会のCEOだ。


しかも、サプリの虚偽広告を監視する米連邦取引委員会(FTC)には担当者が20人しかいない。「私はいつも『市場で売られているからといって効くと思うな』と言っているのだが」と、FTC広告局のリック・クリーランドは言う。「広告があまりに多過ぎて、現在の体制では全部に目を通すことなど不可能だ」


FTCが法廷に持ち込んだケースもあるが、消費者の保護にはあまり結び付いていない。


15年、FTCは15年分の記憶が30日でよみがえると称してビンポセチン配合のサプリメント「プロセラAVH」を販売していた業者から、140万ドルの民事制裁金を勝ち取った。もっとも、その頃までにプロセラの売り上げは1億ドル近くに達していたとされる。ちなみにプロセラは今も販売されているが、製造元のキービュー・ラボラトリーズ(フロリダ州)によれば、販売手法も経営陣も一新したという。


94年にDSHEAが成立した際、サプリメントの成分は天然由来なので食品に近く、医薬品よりも規制は緩くていいというのが賛成派の主な論点だった。薬の代用品として安く提供すれば公共の利益になるとの主張もあった。


その後、サプリ業界は規制の網をかいくぐって商売を拡大したが、FDAの監視は不十分だった。例えば、新しい成分を使用する場合にはメーカーがFDAに届け出る義務がある。しかしFDAによれば、適正な情報開示の行われていない成分が大量に出回っている恐れがある。


欧州などで広く脳卒中の治療に使われているビンポセチンに関しても、FDAによる監視には疑問符が付く。


ビンポセチンがアメリカで、アルツハイマー病や認知症の治療薬として注目されたのは80年代のことだ。しかし治験では有効性が確認されず、医薬品として認可されることはなかった。


しかし90年代後半、ビンポセチンはDSHEAの下で復活した。血流の改善効果が期待されることから、業界はこれを「脳のバイアグラ」と持ち上げた。現在、ビンポセチンは単体で、あるいはプロセラやニューロ・ナチュラル・リコールといったサプリの成分として広く用いられており、業界関係者によれば、年間で2000万〜4000万ドルの売り上げがある。


TRIFONENKO/ISTOCKPHOTO


業界の反撃と消費者の困惑


しかしビンポセチンには根本的な問題がある。キョウチクトウ科の植物ヒメツルニチニチソウの抽出物として販売されてきたが、実はこの植物に含まれるアルカロイドに人の手を加えた合成品だ。つまり天然由来の成分ではないから、サプリには使えない。FDAは届け出を受けた時点でこの事実に気付くべきだったが、何もしなかった。


15年10月、ハーバード大学医学大学院とミシシッピ大学の研究チームが学術誌ドラッグ・テスティング・アンド・アナリシスに論文を寄せ、健康食品チェーンのGNCなどで販売されたビンポセチン含有商品23種類を調査したところ、成分表に多くの誤りが見られたと報告した。ビンポセチンを天然成分とする表示もあった。


「そもそもビンポセチンをサプリメントに入れて販売すること自体が許されない」と言うのは、非営利団体「公益科学センター」のデービッド・シャルド上級栄養士だ。「この論文でFDAのいい加減さも明らかになった」


FDAの態度は煮え切らない。報道官も「何しろ20年近く前のことなので、当時の状況はよく分からない」と言葉を濁している。


今になってビンポセチンを禁止すると言われて、サプリメント業界は色めき立った。かつてFDAの捜索を受けたことのあるライフ・エクステンション・ファウンデーション社も反撃に出た。販売禁止は「非科学的で違法」だとする陳情書を特設サイトに用意し、これに署名してFDAと議会に送るよう消費者に呼び掛けたこともある。


FDAにはアルツハイマー病の親を持つ人々の「証言」や、犬にビンポセチンを投与したところ「症状の改善が見られた」という獣医からの手紙も届いた。FDAは製薬会社の言いなりになっていて、ビンポセチンを医薬品として認可して価格を吊り上げるつもりだという陰謀説まで飛び出した。


こうなると消費者は困惑するばかり。ハンク・オーワーダ(81)はアマゾン・ドットコムでビンポセチンを購入した。頭部の手術を受けた後で、サプリが記憶力の改善に役立つのではないかと期待したからだ。しかし飲み始めて2日後に「幻覚」が始まった。服用していた鎮静剤との飲み合わせが悪かったのだろうと彼は考えている。


だが警告文がなかったことには怒りを覚えた。そこで販売元のソース・ナチュラルズに問い合わせたが、アマゾンに連絡して返金手続きをするよう勧められただけだった。それでもオーワーダは、規制強化には賛成できない。サプリは安く手に入る薬の代用品だからだ。


冒頭のペナリームズの場合、ビンポセチンをやめると不快な症状は消えた。でも、今さらビンポセチンの販売を禁止すると言われてもFDAを信用する気にはなれない。「怪しげな薬を売り付けるやからはいくらでもいる。気を付けなくちゃ」と、彼女は言う。


なお日本にもビンポセチンの愛用者は多いが、この夏からネット通販などでの購入は禁止される見込みだ。


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[2018.6.19号掲載]


リック・シュミット (非営利調査報道サイト「フェアウォーニング」記者)


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