西日本豪雨の腰の引けた災害報道は、見直す時ではないか - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2018年07月10日 16:22  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<西日本豪雨では被害の中心が中国・四国だったため、全国ネット、全国紙の報道の現場感覚が希薄に見える。ローカル局、支局を前面に出したリアリティある災害報道を目指すべき>


今回の西日本における豪雨で被害に遭われた皆さまに、お見舞いを申し上げます。


雨が止み、水が引いたとはいえ、復旧どころか安否不明の方の捜索も進まない厳しい状況が続いていると思いますが、今後のことを考えると、現時点でこうした甚大な自然災害における報道について見直しをする必要があるのではないかと思います。


1つは、情報量が圧倒的に少ないということです。従来でしたら、府県別の不明者数や死者数は常にテレビ各局も新聞社も集計して発表し、時々刻々と更新していたように思います。その数字と、そして数字が動くことで、全国に被害の深刻さが伝わり、今後の治水対策などの論議に役立つことを思うと、今回の災害では、そうした数字の把握が追いついていないようです。


数字だけではありません。とにかく現場の情報が断片的です。各社が取材に入っていますが、その情報はピンポイント的で、網羅的な全体像がつかめるような報道がありません。数字が分からないということもありますが、各府県の首長ないし災害対策の責任者が行なっている会見などがテレビ中継や動画として浸透していないということもあると思います。


もしかしたら、全国的な重要度がある会見でも、地域の記者クラブ会員しか取材できないなどという硬直した体制があるのかもしれません。とにかく全国の世論に対して訴える必要のある局面では、そうしたタブーは解除すべきでしょう。


2点目は、現場取材を恐れないでいただきたいということです。一時期、災害時の取材活動に関して、「救助の邪魔だ」と言って批判が高まったことがありました。確かに行き過ぎはあったかもしれませんが、現在は、どう考えても各メディアには「萎縮」が見られると思います。


と言いますか、最初は「萎縮」があって、次にはコスト削減、さらには「働き方改革」という話が乗っかって、厳しい現場取材ができなくなっているのではないでしょうか。ですが、世界各国どこでもそうですが、甚大な自然災害については、できるだけリアリティのある報道をすることは、防災意識を高め、災害の再発防止のために必要なことです。その意味で、今回の西日本豪雨と、これに続く土砂災害、洪水災害に関する報道は、あらためて各メディアとして力を入れ直すことが必要でしょう。


3点目は、取材活動は地元第一主義でお願いしたいということです。昨今のテレビのニュース番組や情報番組では、全国各地での災害や事件があると、全国ネットのメインキャスターや、レギュラーのレポーターを「現地に派遣」してレポートするのが主流です。見慣れたキャラクターが現場から報告すると、そのキャラクターに親近感を持っている視聴者が「臨場感」を感じるというわけですが、その結果として、情報そのものの現場感覚は希薄になります。


そうではなくて、それぞれの地形や地域社会を熟知した現地の記者やレポーターが、より地元に密着した「現場ならではの情報という臨場感」を持って報告するというのがあるべき姿でしょう。


NHKや全国紙であれば各地に支局がありますし、民放の場合でも系列局があるはずです。そうした地元に根ざしたプロによる報道が、全国に流れるようにすれば、災害の切迫感はより伝わるのではないかと思います。また、地元に密着したローカル局や支局の取材活動であれば、反感を持つ人も減るのではないでしょうか。もちろんですが、必要な追加予算は全国ネットで用意するべきです。


4点目は、こうした深刻な状況だからこそ、いま、何が必要か、どうなっているのかを報道を通じて訴えるべきだと思います。必要なのが物資ではなく義援金なのであれば、その振込方法を案内するべきです。物流が混乱している問題については回復の見込みが立つのかどうかを、地域別に報じるべきだと思います。


救助活動に関しては、自衛隊に加えて、全国から警察・消防が応援に入っています。酷暑の中、大変な作業が続いていると思います。少なくとも、どの部隊や、どの都道府県から、どのぐらいの応援が入っているのか、また彼らはどんな状況なのかといった現状の報道も必要でしょう。


一方で、ボランティアが必要で、受け付けている地域があるならば、参加条件などの案内も必要でしょうし、ボランティアについては、主要メディアがポータルサイトなどを設けて、ニーズのあるところに人が行くように、工夫をしたら良いと思います。


最大の問題は、メディアや全国スポンサーが東京一極集中となる中で、今回のような西日本、それも中国・四国と九州が中心の災害に関しては、現場感覚が希薄だということです。だからこそ、ローカル局や支局を表舞台に上げて、しっかりした報道が必要だと思います。


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このニュースに関するつぶやき

  • でも自衛隊や各援助隊が活動している現場じゃ〜報道の皆様は邪魔でしょ?🙄
    • イイネ!42
    • コメント 5件

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