【南シナ海】中国がASEAN諸国と新たな合同軍事演習を画策

8

2018年08月03日 19:51  ニューズウィーク日本版

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ニューズウィーク日本版

<今年の「リムパック」に招かれなかった仕返しか。中国がASEAN諸国を巻き込んでアメリカ抜きの新たな合同軍事演習を始めようとしている>


中国が、東南アジア諸国連合(ASEAN)を新たな合同軍事演習に招待したことが分かった。ただしアメリカは招かれていない。


中国とASEANが策定を進めている南シナ海における「行動規範」草案の中で、中国はASEAN加盟10カ国の首脳に対し、定期的な合同軍事演習への参加と、南シナ海での合同の石油・ガス探査を呼び掛けている。草案を確認したAFP通信が8月2日に報じた。これに最も反発したのはベトナムで、中国はASEAN諸国と領有権を争う海域に人工島を造成し軍事拠点化している、と名指しで非難したが、他の国々はほとんど抵抗しなかったようだ。


AFP通信によれば、中国は草案の中で、合同軍事演習には中国とASEAN以外の第三国の参加は「事前通知の上、どの国からも反対が出なかった場合に限る」、とわざわざ明記したという。


今回の報道は、米中関係が悪化の一途をたどる中、米海軍の主導で世界から20カ国以上の海軍が参加する世界最大規模の「環太平洋合同演習」(リムパック)が8月4日に終了する直前というタイミングで浮上した。アメリカは5月、今年のリムパックに中国を招待しないと発表。ASEANでは7カ国が参加し、東南アジアにおけるアメリカの軍事的影響力を見せつけた。


近代化した中国軍


一方の中国軍は7月31日、中国人民解放軍の建軍91周年を盛大に祝った。かつては中国共産党のゲリラ部隊だったが、今では近代化した巨大な軍隊へと成長した。中国の習近平国家主席は2013年の就任以降、今世紀半ばまでに中国軍を「世界一流の軍隊」に進化させる必要性を強調。アメリカを大いに刺激した。


アメリカは、中国が裏で卑怯なやり方をして政治的にも経済的にも自国の国際的地位を高めようとしている、と非難してきた。とりわけドナルド・トランプ米政権は、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムを含む周辺国が領有権を主張している南シナ海のほぼ全域の領有権を主張する中国と中国軍の活動を激しく批判してきた。


あそこは自分たちの領海だから軍隊を派遣する権利がある、と中国は主張するが、アメリカはそうした主張を認めず、中国による軍事拠点化に断固反対する立場を示すため、南シナ海の人工島近くで「航行の自由作戦」を実施してきた。中国軍がそれに逆らうように5月18日、核搭載可能なH6K爆撃機を南シナ海の複数の人工島や環礁に着陸させた。アメリカはその5日後、中国が南シナ海で「軍事拠点化を続けている」ことを理由に、リムパックへの中国の招待を取り消した。


その際アメリカは、中国がスプラトリー(南沙)諸島の人工島に「対艦巡航ミサイルと地対空ミサイルを配備し、米海軍などの通信やレーダー探査を妨害するための電子戦施設を設置した証拠がある」と批判。「南シナ海で中国が進める軍事拠点化は、同地域の緊張を高めて情勢を不安定化させるだけだ」、と批判した。中国外務省は反発し、もしアメリカが「1つや2つの合同演習を操ることで、中国を脅迫し南シナ海における主権を放棄させられると考えているなら、非現実的な妄想であり、無駄だ」と牽制した。


その後は、米中が共に方向修正を図っている。6月には、ジェームズ・マティス米国防長官がアメリカの国防長官として4年ぶりに中国を訪問。米中間における外交手段を強化する狙いがあったとみられている。このときのマティスの招聘に応じ、中国からも魏鳳和国務委員(副首相級)兼国防相と海軍トップの沈金竜司令官が年内に訪米する見込みだ。中国共産党系メディアの環球時報の記事を引用して、中国国営の英字メディア、チャイナ・ミリタリーが報じた。


貿易でも火花


だが、アジア太平洋地域における地政学的な争い以外にも、アメリカと中国の利害が激しく対立している分野がある──貿易だ。トランプは国内の雇用と安全保障を守るのに必要、という理由で鉄鋼とアルミニウムに追加関税を発動。それに対して中国は、世界の2大経済大国が初の貿易戦争に突入することになる、と警告。米中両国はすでに互いの輸入品に数百億ドル規模の追加関税をかけており、トランプは今後さらに2000億ドル、あるいは中国から輸入する年5000億ドル強の輸入品すべてに関税をかけるかもしれない、と脅している。


中国は「経済史上最大の貿易戦争」(商務省)に徹底抗戦すると言いながらも、トランプの脅迫に対して比較的冷静な対応を貫いている。中国外務省の耿爽報道官は8月2日の定例会見で、アメリカに2つの忠告をした。


「まずは態度を正し、中国を脅迫しようとしても無駄だと忠告する。次に、理性を取り戻し、感情にまかせた行動を取らないよう忠告する。さもないと、最後は我が身を傷つけてしまうからだ」


(翻訳:河原里香)




トム・オコナー


このニュースに関するつぶやき

  • これでちょっちは暮らし豊かになるから軍拡競争減るといいね、、、。
    • イイネ!0
    • コメント 1件

つぶやき一覧へ(8件)

ニュース設定