ベネズエラで止まらない危機の連鎖──首都カラカスの断水で病院の手術ができない

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2018年08月16日 15:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ドローン爆発による暗殺をまぬがれたマドゥロ大統領は「米政府の支援を受けた」反政府勢力にすべての責任をなすりつけるが>


ハイパーインフレ、不足する医療物資、スーパーの棚は空っぽ――国民の苦難が続くベネズエラの首都カラカスで、水不足がさらに追い討ちをかけている。


ロイター通信によると、医療器具が洗えない病院では手術を延期せざるを得ない、と伝えた。


断続的に水が出ることはあるが、しょっちゅう汚い水が出る。ただでさえワクチンや抗生物質が不足し、十分な医療が提供できないのが現状で、病院はリスクを承知で汚れた水を使うしかない。


ベネズエラ中央大学病院では、手術待ちの患者が増える一方だ。「手術の前に手を洗う必要があるが、蛇口を開けても水が一滴も出てこない」と、婦人科医のリナ・フィグエリアは嘆く。


5年前から経済危機に苦しむベネズエラ。2015年の原油価格の大暴落で、事態はさらに悪化した。財政破綻寸前に追い込まれた政府は紙幣を大増刷。この対応がハイパーインフレを招き、通貨ボリバルは紙屑同然になった。


300万人のカラカス市民は、日常的な断水に直面している。カラカスは海抜900メートルの盆地に位置し、低地にある水源からポンプで水を汲み上げているが、予算不足でポンプや配管のメンテナンスができなくなっている。


「長年にわたって設備の老朽化が気付かないうちに進んでいた。今や水の供給システム全体が手の施しようがないほど劣化している」と言うのは、カラカスの上水道を運営している国営の水道会社ヒドロカピタルのホセ・デビアナ元社長だ。


100万%の超インフレ


ベネズエラのNGOの調査によると、カラカス市民のざっと75%は恒常的な水の供給を受けられていない、水の汚染による皮膚炎や胃腸障害を訴える人は約11%にのぼるという。


ホルヘ・ロドリゲス通信情報相は今年7月、水危機の解消を目指す「特別計画」があると発表したが、詳細は明らかにしなかった。ニコラス・マドゥロ大統領率いる現政権は、政権打倒を企む右派テロリストが首都の上水道施設を破壊していると主張。そればかりか大統領とその取り巻きは、米政府の支援を受けた国内の反政府勢力が「経済戦争」を仕掛け、ベネズエラ経済の危機を拡大しようとしていると国民に説明している。


現実には通貨価値の大暴落で輸入がストップし、食料や医薬品、さらには石油大国にもかかわらず燃料まで不足。IMF(国際通貨基金)が7月に発表した予測によると、2018年末までにインフレ率は100万%に達し、「深刻な経済・社会危機」が続く可能性があるという。政府はもはや公式データを発表していないため、正確なインフレ率は算出しにくい。


食料確保も困難な状況で、ベネズエラからコロンビアなど周辺国に脱出する難民は増加の一途をたどる。国連によると、ベネズエラ難民はすでに230万人に上り、引き続き1日に5000人前後が国境を越えていると見られている。


軍と警察内部にも反政府勢力


マドゥロが失政を認めず、独裁体制を強化しているため、難民の流出には歯止めがかからない。8月4日には、カラカスで演説中にマドゥロの近くで2機のドローン(無人機)が爆発する暗殺未遂事件が起きた。マドゥロはアメリカとコロンビアの支援を受けた一派の仕業だと主張し、事件に関与した疑いで軍高官や野党議員を含む14人を逮捕したが、暗殺未遂はマドゥロ政権による自作自演の可能性もあると、米政府高官は指摘している。


今回の事件では「Tシャツの兵士」を名乗るグループが犯行声明を出したが、その実態についてはほとんど知られていない。軍と警察内部にも反政府勢力がいると見られ、2017年6月末には警察のヘリコプターがカラカスにある最高裁判所と内務省を攻撃する事件も起きている。


(翻訳:伊藤和子)



デービッド・ブレナン


このニュースに関するつぶやき

  • ベネズエラは大量の石油埋蔵量を誇っているが、超重質油しか産出しない。アメリカの制裁により収入源がほとんど断たれたまま。いったい誰が人道危機を招いてるんだ?
    • イイネ!3
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