<大ヒット映画の続編『皇帝ペンギン ただいま』のリュック・ジャケ監督が語るペンギンの魅力と絶滅の危機>
自然ドキュメンタリー映画としては異例のヒットを記録し、米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を獲得、「ペンギン・ブーム」を生んだ05年の『皇帝ペンギン』。南極の過酷な環境で子育てをする皇帝ペンギンの生態がさまざまな角度から捉えられ、ペンギンの父と母、子供たちそれぞれが語っているようなナレーションの演出も新鮮だった。
その続編『皇帝ペンギン ただいま』が8月25日に日本公開される。監督は前作と同じフランスのリュック・ジャケ。舞台も同じオアモック(営巣地となる氷丘のオアシス)でペンギンの子育てを追うが、捉える視点が変わり、前作ではできなかったドローン(無人機)撮影や水中深くの撮影などがされている。本誌・大橋希がジャケに話を聞いた。
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――皇帝ペンギンをもう一度撮ろうと思ったきっかけは。
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大きく3つの理由が挙げられる。まずは15年にパリで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)。その時期に合わせて自分が南極に行けば、ライブ配信で南極や皇帝ペンギンの現状を伝え、会議をより活性化できるのではないかと思った。
それから、前作とは別のやり方で、例えば1匹の皇帝ペンギンの半生を描くようなストーリーができるんじゃないかという思いがあった。皇帝ペンギンは映画を作るにあたってのさまざまな条件や魅力を持つ動物だと私は考えているので。
もう1つは、前作では水中の映像はほとんど撮れなかったが、それができる条件が整ったから。十数年たって機材の進歩があり、水中に長時間入って映像を撮ることのできる人たちとの出会いもあった。
――映画的な条件とは?
皇帝ペンギンの姿を描くということは、南極全体を描くということでもある。自分が初めて南極に行ったのは1991年で、そのときは生物学者として14カ月間、南極でいろいろなものを観測した。
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そこで今までの人生観が覆されるような、ものすごく大きな衝撃を受けた。皇帝ペンギンの美しさやパワーにも、南極の景色が持つ力強さにも圧倒された。それを機に、科学者ではなく映画人として、人間と自然の関係性をテーマに仕事をしていく道を選んだ。
ペンギンが人間を怖がらないことも大きい。彼らはフィルムに収めやすい生き物なんだ。
――でも『皇帝ペンギン ただいま』は、温暖化問題についてそれほど強いメッセージを発していない気がする。
あくまで映画作品なので、そこで何か強い主張をするということはしない。映画は映画として映像を見てもらい、人々に問題意識を持ってもらうことが役割だと思う。
私は映画以外にも、展覧会のようなものを企画したり、子供たちや学生たちに教育的な材料を提供したり、あるいはCOP21に映像を提供して議論の手助けをしたりしてきた。映画以外のさまざまな手段で自分の主張を伝えられると思っている。
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今回はCOP21に合わせて南極に行き、このような映像を撮ったが、同時期にフランスのミッテラン図書館で写真展も開催した。いろいろな方法で子供たちや学校の先生、若い人たちに、的確にこの問題を伝えたいと思っている。映画もその1つであって、あくまでも映像や音や物語性で人々の感情に訴えたい。
日本未公開だが、私は以前に『アイス・アンド・スカイ』という映画を撮った。南極の環境変化を具体的に捉えた作品で、『皇帝ペンギン ただいま』よりも強い政治的主張を込めている。それは映画としても評価され、15年のカンヌ国際映画祭ではクロージング作品として上映された。
50年以内に皇帝ペンギンは絶滅すると指摘する研究者もいる (c) BONNE PIOCHE CINEMA - PAPRIKA FILMS - 2016 - Photo : (c) Daisy Gilardini
――ペンギンの生態の特にどんな部分に、温暖化は影響するのか。
いくつかあるが、温暖化により南極で頻繁に雨が降るようになったことの影響がある。ヒナの羽毛には防水性がないので、雨に濡れたら凍死するしかない。今はすごい数のヒナが亡くなっている。そうした状況を見た研究者たちは、このまま温暖化が続けば50年以内に皇帝ペンギンは絶滅すると言っている。
――世界は温暖化防止の方向に向かっていると思うか。
COP21の採択をみたときには、これはいい方向だと思った。でもその後、特にトランプ米政権の温暖化懐疑主義のような動きを見ると、COP21は何だったんだと思う。今の状況では、何の改善もされていないと感じている。
問題は、自然が変化していくスピードが非常に早いこと。人間がそれを認識しながら対処するにも、そのスピードに付いていけていない。大災害が起きて初めて人間は問題の大きさに気付くんだと思う。
――前作とはナレーションの形式を変えた理由は。
前作は、皇帝ペンギンの目で自分たちを語るスタイルだった。今回は私自身の客観的視点で、ペンギンたちを使いながら、環境を考える映画にしたかった。皇帝ペンギンの描き方が変わったのでナレーションも変えたんだ。
――水中の撮影では危険なことも?
南極のあの水深の映像を人間が撮るのは世界で初めてのことだったので、関わった人たちはみんな未経験。やはり危険を覚悟しながらやった。水深100メートル、水温もマイナス2度くらいの中で、5時間、6時間という長時間の撮影で、しかも頭上には氷がかぶさった状態で撮らなければならないので。
もちろん参加しているダイバーは熟練したプロたちだったが、みんなが思っていたのは「ちゃんと南極基地に戻って来てほしい」ということだった。
――ペンギンは1匹?
何匹かを撮っている。ペンギンの外見は区別がつかないので、編集で1匹のようにしている。
――南極は人間にとっても過ごしにくい場所になってきている?
気温が1度や2度上昇したり、あるいは雨が降ったからといって人間の命が危うくなることはない。ただ雨が降れば、先ほど言ったようにヒナたちの生死に関わる。自分たちにとってはそれほどのことでもない気温上昇が、動物たちにはどれほどの影響を与えるのかということだ。環境問題を考えるうえで象徴的な現象だと思う。
大橋希(本誌記者)
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