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ユダヤ偏向のイスラエル観光ツアーに異議あり

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2018年09月04日 16:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<祖国の文化への理解を深めるはずの招待旅行に参加したユダヤ系の若者たちが反乱を起こし始めた>


ユダヤ人の血を引く皆さん、「約束の地」イスラエルを旅してみませんか。よろしければ無料でご招待しますよ。


そんな呼び掛けで、アメリカなどにいるユダヤ系の若者をイスラエル観光に勧誘している団体がある。その名を「バースライト(生まれながらの権利)」。親イスラエルの慈善団体で、99年の設立以来、65万人以上の若いユダヤ人を10日間のイスラエル旅行に無料招待してきた。


目的は、世界各地にいるユダヤ系の若者に民族固有の文化や伝統に触れる機会を提供し、それを通じてユダヤ民族「共通の遺産」への認識を新たにしてもらうことにあるという。


しかし参加者の間には異論があるようだ。ツアーの内容に偏りがあり、不誠実で、現実から目を背けている。そんな不満が噴出している。


この夏休み中も、ツアーの途中で一部の参加者が離脱する事件が2度あり、合計8人が別行動を取ってパレスチナ人の居住地区に向かった。ネット上でライブ公開した自撮り映像で、彼らはこう言っていた。「これこそ本物の貴重な機会。人々の声を聞き、学び、終わりなき占領に反対し、自由と平等を支持する得難いチャンスだ」


本誌の取材に応じた離脱組のうち、2人のアメリカ人は現地に入ってすぐ、これじゃダメだと思ったという。


「私が参加したのは、本物の対話を通じてこの国の真実の全てを見たかったから」と言ったのは、ボストン出身のベッキー・ワッサーマン(26)。しかし見せてくれないものが多過ぎたので、離脱を決めた。


ニューヨーク近郊から来たリサ・ネーゲル(24)は、自分がたった6日でツアーを離れるとは思ってもいなかった。でもツアーが進むにつれて、疑問ばかりが増えていった。「ヨルダン川西岸やガザ地区、占領と入植地のことなどについてたくさんの人が質問していた」のに、まともな返事はなかったからだ。大事な質問に「答えてもらえなければ、ツアー主催者への怒りが増すだけ」と、彼女は言う。


現実から目を背けている


このツアーに同行していたイスラエル人の女性兵士ケレン・グリーンブラット(19)も、同様な疑問を口にした。「民族紛争に関する話は1つもなかったと思う」と彼女は言う。「これじゃ、さまざまな立場の人と対話する機会もない。これって何なの?と思った」


ツアーを離れた若者たちは、バースライトのツアーに反対する活動家の支援を得て、ヨルダン川西岸にあるパレスチナ人のコミュニティーを訪問した。その途中ではイスラエル人の入植者による嫌がらせを受け、罵られたりもした。


それでもグリーンブラットは、離脱組のしたことは「正しい」と考え、この国の厳しい現実から目を背けるのは間違いだと言う。「意見の異なる人を受け入れ、何が問題で、どうすれば解決できるのかを真剣に話し合う。そうすれば、イスラエルはもっと強くなれる」


バースライトの活動はアメリカと密接に結び付いている。これまで何万もの若いユダヤ系アメリカ人がツアーに参加しているが、必要な資金の多くを提供しているのはアメリカ在住のユダヤ人だ。最大の寄付者は、カジノ王で熱烈な共和党支持者のシェルドン・エーデルソン。設立以来、2億5000万ドル以上を提供している。


ワッサーマンとネーゲルがツアーを離脱したきっかけの1つは、エルサレムにある考古学公園デービッドソン・センターへの訪問だった。「嘆きの壁」のすぐ近くにあるが、運営するのは入植者団体のエラド。遺跡の発掘を口実にパレスチナ人を追い出している極右団体だ。あまりの政治的偏向に、あきれ果てた参加者の一部は考古学公園の訪問を拒んだ。


ネーゲルによれば、エーデルソンがドナルド・トランプ米大統領の支持者だという事実も多くの参加者を困惑させていた。「アメリカ右翼的でクレイジーな陰謀論を信じているこの男が、ツアーの費用を負担している。この事実を、私たちはどう受け止めればいいの?」


ごまかしは許されない


バースライトの無料ツアーに反対する活動を続けているアリッサ・ルービンによれば、多くの若いユダヤ人がバースライトに疑問を持ち始め、その「ごまかし」に異議を唱えている。「いまイスラエルを訪問して占領地の問題を議論しないのは、1954年にアメリカ南部を訪れて人種差別問題について議論をしないのと同じだと思う」と、ルービンは言い切った。


バースライトの規模は大きく影響力も強い。だからこそ、イスラエルの置かれた政治的状況を中立的な立場から見せる責任がある――ルービンはそう考える。「嫌なら別のツアーで行けばいいと言う人もいるだろう。でも現実問題として、無料のツアーを提供している団体はごくわずかだ」


本誌の取材に対し、バースライトの広報担当は政治的な意図を否定。この旅は「ユダヤ民族の遺産や価値観、伝統、そしてイスラエルの今を紹介する」ためのものだと強調し、こう付け加えた。「バースライトは政治の話をしない。だから参加者が政治的な議論を持ち出し、他の参加者の体験を邪魔するような行為は容認しない」


そんなツアーに参加した若者たちは気付きを得る。そうか、これが大人の偽善なのかと。


<本誌2018年9月4日号掲載>




デービッド・ブレナン


このニュースに関するつぶやき

  • まぁ、無料だからな。主催者側の思惑が不快なら自費で行く事だ。
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