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アメフトの元スター選手を広告に起用したナイキ、人権と愛国の落とし穴にはまる

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2018年09月07日 16:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<責任ある企業の模範例だったナイキが、まだ「搾取工場」をやっていたことがばれた上、件のスター選手を嫌う愛国的消費者がナイキ製品を燃やしはじめた>


アメリカン・フットボールの試合前の国歌斉唱で立たずにひざまずき、警官による黒人への暴力などの人種差別に抗議した元スター選手のコリン・キャパニック選手が、スポーツブランド、ナイキのスローガン「Just Do It」の30周年記念キャンペーンの広告に起用され、世界中の注目を集めている。


2016年には人権活動家としての戦いが評価されてタイム誌の「今年の人」特集の表紙にも選ばれたキャパニックだが、ナイキの広告を引き受けたのは失敗だったようだ。


キャパニックのような政治的なセレブリティを起用することには腰が引ける企業が多いなか、ナイキの勇気を称賛する声が多い。しかしその一方、少なからぬ人権活動家やネットユーザーは、ナイキはいまだに海外工場で労働者を低賃金で長時間働かせ、労働環境も劣悪だと反発しているからだ。


「活動家も時に間違いを犯す。キャパニックは、労働者を搾取し労働組合を潰すナイキに協力する間違いを犯した」と、ジャーナリストで政治活動家のローザ・クレメンテは今週ニューヨーク・タイムズの取材に語った。「ナイキはただの資本主義企業ではない。ハイパー資本主義企業だ」


キャパニックが出演するナイキの広告では、「何かを信じろ。例えすべてを犠牲にするとしても」というメッセージが流れる。ソーシャルメディアではそのパロディ動画が拡散しているが、その中にはキャパニックの顔がナイキの工場で働く若い女性の姿に変わり、画面下のスローガンが「Just Do It, for $0.23 per hour.(時給23セントで働け)」に変わっるものもある。


Believe in something, even if it means sacrificing everything. #JustDoIt pic.twitter.com/SRWkMIDdaO— Colin Kaepernick (@Kaepernick7) 2018年9月3日


キャパニックが出演したナイキの「Just Do It」30周年の広告(上はキャパニックのツイッターから)


ナイキは更正したはずでは?


時給23セントの実態は本当にあるのか、海外の工場労働者の平均賃金はいくらなのか、ナイキに問い合わせたが、返答はなかった。


ナイキは「更正した」と一般には考えられていた。1997年、ベトナムなど東南アジアにおける児童労働、低賃金労働、強制労働といった「奴隷搾取工場」の実態がNGOに暴露されて世界中から批判を受け、ブランドイメージも台無しになった。それ以降、海外工場の労働環境の改善に努め、CSR(企業の社会的責任)の教科書的な成功例として扱われてきた。


世界中の衣料製造労働者の権利を守る団体「クリーン・クローズ・キャンペーン(CCC)」は6月の報告書の中で、労働者が受け取る賃金がナイキの収益に占める割合は、90年代より現在の方が低いと指摘している。


上のCMのパロディ版「Just Do Whatever」


「ナイキとアディダスのスポーツシューズの製造コストのうち、労働者の給料が占める割合は、90年代前半より30%も減っている(ナイキのスポーツシューズでは、1995年に4%だった割合が2017年には2.5%に低下)」と、報告書は述べている。CCCによると、ナイキは中国での賃金が上昇したために製造工程のほとんどをインドネシア、カンボジア、ベトナムに移している。


ナイキ・ボイコット動画。現役時代のキャパニックがひざまずく姿も


これらの3カ国では、衣料製造労働者の平均賃金はいわゆる「生活賃金(一定レベルの生活を維持できる時間給)」よりも45%〜65%低いという。


ロイター通信の取材に対してナイキは、すべての工場が最低でもその国の法律で規定された「最低賃金」か、または法律で規定された残業手当などすべての手当を含む「現行賃金」を支払っていると答えた。


ナイキの広報担当者は、「弊社は体系的な待遇改善のため、各国政府、製造業者、NGO、労働組合、そして労働者との対話に長年、時間を割いてきている」と語っている。


しかし労働者支援団体「倫理的取引イニシアティブ」のマーティン・バトルは、ナイキの工場は労働者を「貧困のサイクルに陥れて」いる可能性がある、と主張する。


2017年6月の英ガーディアン紙の報道によれば、ナイキ、プーマ、アシックス、VFC(米アパレルメーカー)の4社の製品を製造するカンボジアの4つの工場を合わせて、過去1年間に500人以上の労働者が職場で体調を崩して病院に運ばれたという。4社ともこうした事態が発生したことを認めている。倒れた労働者のほとんどが、高温と長時間労働が原因の体調不良だった。


キャパニックを嫌う者も


労働組合の代表や労働者は、多くの労働者が1日10時間以上、週に6日間働き、工場内はときには35度前後の高温になることもあると語っている。4社のいずれも月給400ドルに満たないカンボジアの「生活賃金」を支払っていなかった。


それでも、ナイキをはじめ各スポーツウェアメーカーの労働条件は、世界的なアパレル企業の多くと同程度。衣料産業が、アジア全域で経済成長に多大な貢献をしていることは事実だ。


「衣料産業はアジアで何百万という雇用を地元住民に提供している。アジア各国の急激な経済成長を支えている。しかし急激な成長には対価が付きもので、それを支払わされているのが工場労働者だ」と、アジア地域の労働者の賃金引き上げを推進する団体「アジア・フロアー・ウェイジ」はウェブサイトで解説している。


「すべての衣料労働者は、住居や食品、教育、医療といった自分と家族の基本的なニーズを満たすために、賃金の引き上げが必要だ。しかしある国の労働者が、賃金や労働環境を改善しようと動くと、企業側は賃金や労働環境が悪い別の国に工場を移してしまう」と、問題点を指摘している。


一部の消費者の間では今、ナイキのシューズを燃やしたり、ナイキの靴下を引き裂いたりするナイキ不買運動が起こっているが、皮肉にもそれは搾取工場のためではない。国歌斉唱で立たずにひざまずいていたキャパニックがナイキの「顔」になることに抗議しているのだ。彼らに言わせれば、キャパニックはアメリカの国歌にも国旗にも敬意を払わない裏切り者なのだ。ナイキとキャパニックは、どちらにとっても思ったほどいい組み合わせではなかったようだ。


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ジェイソン・レモン


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