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私が長編を書かない理由 円城塔、新作『文字渦』を語る(3)

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2018年09月09日 19:02  新刊JP

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新刊JP

写真『文字渦』(新潮社刊)の作者、円城塔さん
『文字渦』(新潮社刊)の作者、円城塔さん
出版業界の最重要人物にフォーカスする「ベストセラーズインタビュー」。

第102回となる今回は、新刊『文字渦』(新潮社刊)が話題を読んでいる円城塔さんが登場してくれました。

『文字渦』はその名の通り「文字」への偏愛と奇想が渦巻く作品集。「こんな字あるの?」と驚いてしまう漢字や、所狭しと並ぶルビ、文字でできたインベーダーゲームなど、作品のストーリーだけでなくめくったページのビジュアルにも圧倒されます。

今回は、2007年のデビュー以来「小説」の概念を揺さぶる作品を世に出し続けている円城さんに、『文字渦』のこと、あたためているアイデアのこと、そして仕事や小説のことなど、広くお聞きしました。その最終回をお届けします。(インタビュー・記事/山田洋介)

■「長編こそ王道」の出版界で短編を書き続ける理由

――円城さんの作品はキャリアを通じてほとんどが短編です。長編を書きたいという気持ちはないのでしょうか。

円城:全然ないです(笑)短編が好きというのもありますが、長編はうまく書けないというのもあります。まずキャラクターがしっかり立っていないと長編にならないのですが、僕の小説の登場人物は大抵○とか△とか記号的ですし、そもそもあまり人間が出てきません。今回の本だって、主人公はほとんど「文字」ですしね。

どうも文学の世界は「長編こそ王道」みたいなところがあって、短編をある程度発表すると長編の依頼が来るのですが、僕は長編で何を書いていいのか未だにわかりませんし、「1文字だけ売りたい」なんて言うような人間ですから、できるだけ働きたくない(笑)。

――短編だけで生活している作家の方は珍しい気がします。

円城:純文学系の雑誌に掲載している作家は、割と暮らしていけているんじゃないですかね。今後どうなるかわからないですが。自分の場合はデビューしてから不思議と本の売上げは変わらないですし、やっていけています。



――円城さんといえば、奥様の田辺青蛙さんも小説家で「作家夫婦」です。自宅で小説の話はされますか?

円城:全然しません。書く時間も別々ですね。僕は昼間外に出て書くのですが、妻はホラー作家なので「昼間書くと間抜けだ」と言って夜に書くんです。

――喫茶店などで書くんですか?

円城:そうですね。人が見ていないと寝てしまうんです。家にいると家事をやってしまったりしますし。

――円城さんが人生で影響を受けた本を3冊ほどご紹介いただきたいです。

円城:最近の本なんですけど、アンソニー・ドーアの『すべての見えない光』はショックを受けたというか、すごいなと思いました。

ドーアって多分、いつの時代のどんな主人公でも書けるんです。「ユニバーサル小説マシン」なんじゃないかと思って、ちょっと怖いくらい。『すべての見えない光』は、第二次大戦中のドイツとフランスを舞台に、出会えそうで出会えない少年と少女を書いた作品で、すごく優れた小説なんですけど、ところどころに「あれっ?」というわからなさがあるんですよね。

戦時の少年少女をあそこまでうまく書けるのはすごいんだけど、世界史としてみると「戦争ってこう書いていいんだっけ?」という恐怖感も覚えます。善悪がちょっとわからなくなる感じがある。

――2冊目はいかがですか?

円城:2冊目はミルチャ・エリアーデの『ムントゥリャサ通りで』にします。ルーマニアの革命と幻想的宝探しを重ねて書いている小説で、昔から好きなんです。何らかの秘密を知っているおじいさんがいて、子どもたちはそのおじいさんが地下にある秘密の帝国につながっている人なんじゃないかということで追いかけているんだけど、政府は政府で謎の活動をしている怪しい人物として捕まえて、自白を強要させるわけです。

だけどおじいさんは半分呆けているような人だから、供述がめちゃくちゃで、しかもその供述が延々終わらない、という変な話。

最後はフリオ・リャマーレスの『黄色い雨』です。これはスペインの寒村でおじいさんと犬が孤独に暮らしているというだけの話。耐え難い孤独の話です。

――最後になりますが、円城さんの小説の読者の方にメッセージをお願いします。

円城:メッセージは一つ。「笑ってください」ですね。
(インタビュー・記事/山田洋介)

第一回 ■やってみたら難しかった「新しい漢字作り」 を読む
第二回 ■文字への偏愛と奇想の書『文字渦』を生んだ円城塔の頭の中 を読む

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