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希少動物「珍渦虫」の謎の多さを研究者に聞く 進化の過程を知る糸口に?

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2018年09月10日 23:23  Excite Bit コネタ

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Excite Bit コネタ

写真三浦半島沖で採取された珍渦虫 撮影:新潟大学 大森紹仁
三浦半島沖で採取された珍渦虫 撮影:新潟大学 大森紹仁
はやぶさ2が小惑星リュウグウの探査へ向かうなど宇宙の調査が進む現代だが、地球上でも日々新しい発見が続いている。昆虫は年間2万種も新種が認定されているし、地球の総面積の70パーセントを占める海、なかでも深海へ行くのは宇宙に行くより難しいともいわれ、多くの謎が残されている。深海の生き物には金属のうんちをする海老や、マグマの熱水に棲息するチューブワームなど不思議なやつらが多い。

ところで「珍渦虫(ちんうずむし)」という名前を聞いたことはあるだろうか。筑波大学などのグループが昨年、西太平洋で初めて希少動物・珍渦虫の新種を発見したと発表した。
動物の起源や進化の過程を知るための糸口になるのではと期待されている生き物だ。珍渦虫とはいったいどんな生き物なのか、研究者である筑波大学下田臨海実験センターの中野裕昭(なかの・ひろあき)准教授に話をうかがってきた。

中野先生は東京大学、東京大学大学院でウミユリを研究、卒業後はスウェーデン王立科学アカデミーとイエテボリ大学で計6年間珍渦虫の研究をし、現在も調査を進めている。筑波大学下田臨海実験センターへ来てからは平板動物の研究も行っている。

珍渦虫とはどんな生き物なのか


珍渦虫は海に住む海産無脊椎動物で、脳などの中枢神経系、眼、肛門、循環器官、生殖器官を持たない極めて単純な構造のため、どこに分類すればいいのか専門家も長い間頭を悩ませてきた生き物だ。クラゲなどに比較的近い動物であるという説と、人などの背骨を持つ脊椎動物(せきついどうぶつ)に比較的近いのではという説がある。多くの動物の祖先に共通する特徴を持つ可能性があり、研究が進めば生物の進化について発見があるかもしれない。

珍渦虫は1949年にXenoturbella(セノターベラ)という学名がつけられた。「Xeno」が珍しい・奇妙なという意味、「turbella」がウズムシという意味で、直訳すると珍しいウズムシで「珍渦虫」になる。この和名は1960年代に出版された動物学辞典に掲載されているが、仮名表記がなく読み方は不明。索引の「ち」の項目に載っていたため、かろうじて始めの一文字が「ちん」であることはわかった。しかし「ちんうずむし」なのか「ちんかちゅう」なのかはわからない。そこで中野先生は動物の分類学を専門にしている研究者に相談、「ちんうずむし」がいいのではということになった。

この謎多き珍渦虫、1990年代には貝の仲間だとされた時期があった。DNAから貝の遺伝子が出たためだが、実は食べた餌の貝が検出されたためということが後に判明。
どうやら珍渦虫の餌は貝のようだが、体内から貝の幼生や精子が発見されたことはあっても、餌を食べる瞬間を目撃した人はいない。中野先生も珍渦虫を2〜3カ月絶食させ、二枚貝の幼生を与えるという実験をしたことがあるが、まったく食べなかったそうだ。それどころか2年近く絶食状態でも平気だったという。


スウェーデンで初めて生きた珍渦虫と対面


中野先生が珍渦虫と対面したのは、珍渦虫の研究のためスウェーデンへ移り住んで1週間ほど経ってから。生息地であるスウェーデンでも、当時は珍渦虫を専門にしている研究者はおらず「こういう方法で採れるとは聞いているけど、やってみないと本当に採れるかわからないよ」といわれていた。海底の泥をすくいあげて、こして容器に入れて置いておくと、珍渦虫がいた場合はしばらくすると容器の壁を登ってくる。もし採取できなかったら研究できず、日本に帰ることになってしまう。
「生きた珍渦虫と対面したときには、嬉しいのはあるけれど、安心したというのが大きかったですね」と中野先生。

スウェーデンのフィヨルドでしか採れないといわれていた珍渦虫だが、その後アメリカ西海岸や日本近海でも発見された。
スウェーデンの珍渦虫は大きくても3.5センチほど。日本のものは5センチぐらいだが、アメリカ西海岸の珍渦虫はなんと20センチ。さすがはアメリカ、深海生物すらスケール感が違う。採取された水深もアメリカがもっとも深く、水深3700メートルという環境だ。日本は500メートルほど、スウェーデンは50〜120メートルという。

日本近海で採取された珍渦虫は、岩手県と神奈川県の三浦半島沖で採取された。貴重なサンプルなので、個体を破壊しないようマイクロCTスキャンによって調査された。現在は中野先生の研究室で保管されている。

珍渦虫は海の底を這い回っているが、泳いだりはしない。
体全体に細い繊毛という毛が生えていて、動きながら体から粘液を出し、その上を繊毛で滑りながら移動するという感じだ。体もやわらかいので、ちょっとした隙間からすぐに逃げ出してしまう。水槽の縁(ふち)まで水を入れずに隙間を開けておくと、珍渦虫が容器の壁を登ってきてしまう。そのまま一晩経ち、朝になって縁の上で乾燥して死んでいる姿を見つけたこともあるそうだ。数センチ下に水があるのに、なぜ戻らずに干からびてしまうのだろう。中野先生は「深海に住む生物なので水の無い環境というのが理解できないのでは」と考察する。


まだまだ新種の珍渦虫がみつかる可能性が



研究者でも知らない人が多い珍渦虫。もしかしたら今までにも調査などで珍渦虫が採取され、どこかの博物館や研究施設などの「海の水深〇メートルで採れたもの」「ヒラムシに似たもの」というような標本の中に混じっている可能性がある。

今のところ日本で見つかっているのが水深300メートル以深の場所だが、漁師さんの網にかかったり、海底にあったゴミなどが上がってきた時についている可能性はゼロではない。「もし見つけたら、瓶に捕獲して教えてください」と中野先生。
珍渦虫の生態がわかったら、生物の進化の歴史がわかるかもしれない。
(すがたもえ子)

取材協力:
筑波大学下田臨海実験センター中野 研究室(進化発生学)

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