本田に野茂にネイマール......「ゲームチェンジャー」は批判を恐れない

1

2018年09月19日 17:22  ニューズウィーク日本版

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ニューズウィーク日本版

<ゲームのルールまで変えてしまうような偉大な先駆者に、常識的な謙虚さを望むこと自体が間違い>


来年、ラグビーのワールドカップ(W杯)が日本で開催される。11月2日に横浜国際総合競技場で行われる決勝に勝ったチームは、ウェッブ・エリス・カップを高く掲げて歓喜に浸る。


でも、ちょっと待ってほしい。優勝トロフィーに名前を残すウィリアム・ウェッブ・エリスとは、一体誰なのか。


約200年前、ウェッブ・エリスはイングランドの名門ラグビー校の生徒だった。後に牧師になったが、同級生によると、学生時代にはクリケットでもフットボールでも「ずるをする」ことで有名だった。いま彼の名がトロフィーに刻まれているのも、ある驚くべき反則行為が理由だ。


ラグビー校に残る銘板には、彼についてこう記されている。「当時のフットボールの規則を無視し、初めてボールを抱えて走った。これがラグビー競技の生まれる発端となった」


あなたがウェッブ・エリスのチームと対戦していたら、ボールを抱えてゴールへ走る彼を見て、どう思うだろう。なんて勇敢で創造性にあふれた男だと思うだろうか。そんなはずはない。だがラグビー誕生をめぐる物語では、彼はスポーツ界のスティーブ・ジョブズのような人物。すなわち、あらゆる意味で「ゲームチェンジャー」なのだ。


先見の明のあるスポーツ選手には、さまざまなタイプがいる。彼らに共通しているのは、リスクを恐れないことと、批判にさらされがちなことだ。


1995年、日本のプロ野球選手で初めて米メジャーリーグのスターとなった野茂英雄もそうだった。彼が切り開いた道を、イチローや松井秀喜、大谷翔平などがたどることになった。


野茂が所属チームの近鉄バファローズと日本球界に盾突いたとき、そんな前例はなかった。彼は「任意引退」という抜け穴を使ってアメリカに渡るという手段に出た。メディアは彼に冷たく、裏切り者と非難する声もあった。


野茂は自分の才能に賭け、そして勝った。日本野球についての著書が多い作家ロバート・ホワイティングの言葉を借りれば、野茂はその後わずか数年で「日本人初の国際的なスポーツスター」になった。


スポーツヒーローも普通の人間であってほしいと願う人もいるだろう。だが、彼らは私たちとは違う。技術だけではない。自信、ひたむきさ、プレッシャーに負けない能力、全てが違う。


サッカーW杯3大会連続でゴールを決めていながら批判も多い本田圭佑 ADAM PRETTY-FIFA/GETTY IMAGES


多くのトップアスリートは、例えばクリスティアーノ・ロナウドのようにナルシシストだと言われたり、朝青龍や本田圭佑のように傲慢に見えたりする(本田はサッカーW杯3大会連続でゴールを決めた数少ない選手の1人なのに、なぜかやたらと批判を浴びる)。


それは避けられないことなのだ。一般社会では謙虚は美徳だ。だがトップレベルのアスリートが自分の能力に疑いを持ったら、対戦相手を怖がらせることはできない。


彼らは子供時代や青春時代を犠牲にして、成功に全てを賭けた。道半ばにして失敗し、精神を病んだり依存症になった選手もいる。キャリアを終えてから、それまでのツケを払うことになった選手もいる(例えば清原和博だ)。


彼らに普通の人生を生きろと言っても無理なのだ。普通の人生など知らないのだから。


すごい選手は欠点もすごい


偉大なアスリートが人前で見せる顔はさまざまだ。ロジャー・フェデラーやペレは紳士に見えたが、ジョン・マッケンローやディエゴ・マラドーナは違う。だが、フェデラーにも外からはうかがい知れない部分があるだろう。


マッケンローは26歳の頃から女優たちと浮名を流し、二度とトップに返り咲くことはなかった。80年代前半のテニス界で王者として一時代を築いた後は、人生を楽しみたかったのだ。


フェデラーは今年のウィンブルドン選手権で36歳にして第1シードとなったが、まだ満足してはいない。彼が目指すのは史上最高のテニス選手として名を刻むことだ。マッケンローとフェデラー、どちらがナイスガイで、どちらが勝利に取りつかれた戦士だろうか。


サッカーブラジル代表のネイマールは、ファウル欲しさから大げさに痛がる「過剰演技」で知られ、マラドーナは「神の手」ゴールで歴史に名を残した。タイガー・ウッズはセックス依存症だった。並外れたアスリートは欠点も並外れている。


スティーブ・ジョブズが礼儀正しい男だったら、iPadもiPhoneも生まれていなかっただろう。そしてウェッブ・エリスがフェアプレー精神あふれる少年だったら、ラグビーは生まれていなかった。


<本誌2018年9月11日号掲載「特集:『嫌われ力』が世界を回す」より転載>




ピーター・タスカ(経済評論家)


このニュースに関するつぶやき

  • ジョブズは有名になる前はアタリで働いてて、ブロック崩しのゲームの基板の部品をピンハネしてたのは有名な話し(笑)
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

前日のランキングへ

ニュース設定