米中貿易戦争第3ステージへ 慌てぬ中国、トランプは勝てるのか

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2018年09月19日 19:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<トランプには勝つ自信があるようだが、中国は通関を遅らせるなど関税以外の武器も駆使し始めている。トランプの任期中には解決しないという声も>


ドナルド・トランプ米大統領と中国は今や、本格的な貿易戦争に突入した。そしてこの戦いは、さらに長期的かつ大がかりな局面になだれこもうとしている。


「これまで警告してきたことが現実になった。両国の関係は、ついに最悪のスパイラルに陥ったようだ」と、中米国商工会議所のウィリアム・ザリット会長は言う。


トランプにとって中国製品の関税引き上げは、アメリカの労働者を守るために世界貿易のバランスを取り戻すという選挙公約の延長線上にある。彼にとって、2017年の時点で3360億ドルと推定される対中貿易赤字は到底容認しがたいものだ。


だが中国との貿易戦争が本番を迎えた今、新たに大きな疑問が浮上している。トランプは、そしてアメリカは勝てるのか?


中国はハイテク産業でアメリカをしのぐ製造強国をめざすことを宣言している。その象徴が「中国製造2025」構想だ。ロボティクスその他のあらゆる先進技術分野で競合できる強い中国企業の創造を目的とする


AP通信によると、アメリカは中国の計画を「盗んだ技術」に基づくものだと主張。中国市場の開放という約束違反でもあり、産業界におけるアメリカの覇権を脅かしかねないと見ている。


アメリカ国内に中国の計画を警戒する声があるのは確かだ。だが一方で、トランプが貿易戦争を開始し、9月17日には中国からの輸入品2000億ドル(22兆円)相当という巨額の制裁関税の第3弾を発表したことには懸念も大きい。関税は9月24日に発動する。


 関税以外の手で米企業を攻撃


トランプの発表の翌日、中国は報復措置として、コーヒー、蜂蜜、工業用化学物質を含むアメリカからの輸入品600億ドル相当に対する関税の引き上げを発表した。


中国は、戦いの場を関税以外の分野にも広げようとしている。一見すると、アメリカの対中赤字が3360億ドルにも達していることから、高い関税でアメリカに輸出ができなくなれば困るのは中国のように見える。単なる報復合戦なら、アメリカからの輸入額がはるかに小さい中国のほうが、先に関税をかける輸入品が尽きてしまうからだ。


だが中国は関税以外に使える攻撃方法を用意し、米企業に打撃を与えるために流通を妨害している。


「米企業はすでに中国規制当局に活動を妨害されているようだ。中国と上海の米商工会議所の調査では、調査に応じた企業430社以上の52%が、通関が遅れており、検査と官僚的な手続きが増えていると答えた」と、AP通信は報じた。


中国はまた、関税引き上げで、アメリカとトランプにとって、最大の泣き所をついている。


AP通信によると、アメリカによる関税引き上げの対象になっているのは、中国の不公平な産業政策の恩恵を受けているとみられる品目だ。一方、中国の関税は2016年の大統領選挙でトランプを支持した州の主要産物である大豆などの農産物を標的にしている。


「米政府の見方とは対照的に、中国は一歩も譲らないだろう。この問題は短い時間で解決できるとは思えない」と、ザリットは言う。「この非生産的な悪循環のなかでは、誰も勝者にはなれない」


自分が関税で中国を攻撃している間、中国は無数の武器でアメリカを攻撃していることを、トランプは理解しているようだ。だが彼は降参するつもりはない。


「中国は、アメリカの選挙に影響を与え、結果を変えようとしたことを公然と認めている。彼らは、私の支持者であるということを理由に、アメリカの農家や畜産家、産業労働者を攻撃した」


9月18日に中国が600億ドル相当の報復措置を発表すると、トランプはツイッターに投稿した。


「中国はわかっていないが、彼ら(トランプ支持者)は偉大な愛国者で、中国が長年にわたってアメリカの貿易を搾取してきたことを理解している」


「彼らはまた、私こそが中国による搾取を阻止できることを知っている。中国が農家や畜産家、産業労働者を攻撃の対象にしたら、中国に対してすばやく強力な経済的報復措置をとる!」


トランプは、中国が報復措置を取り続ける限り、さらなる対中関税引き上げで応じることを明らかにしている。この先も2670憶ドル相当の中国製品に対する新たな追加関税を準備しているとも発表された。トランプ対中国の貿易戦争は、トランプの任期より長く、20年近く続く可能性がある。


時間との戦いは中国に有利


「短期的には、中国、アメリカ、欧州の産業界はたいへんなことになるだろう。この問題は長引く。短期的な解決策は存在しない」と、アリババ・グループ創業者で会長を務める馬雲(ジャック・マー)は、杭州で行われたアリババの投資家向け会議で語った。


トランプが発表した最新の追加関税措置が、今後の米中交渉に与える影響はまだわからない。中国商務省は声明で、アメリカの関税引き上げは「米中間の協議に新たな不確実性をもたらす」と述べた。


この貿易戦争で、トランプの最大の弱点となりうるのは、大統領の任期が限られていることだ(最長で8年)。一方、中国側はその点では心配がない。


トランプは再選される可能性もあるが、1期4年で終わる可能性もあり、すでに任期の3分の1が過ぎている。この貿易戦争に関して言えば、トランプには最低2年、最長で6年しか持ち時間がない。問題は、トランプが勝てるかどうかより、彼が中国より長く持ちこたえられるかどうかだ。


「中国はこの嵐を乗り切るうえで、かなり有利な立場にある。経済は全体としてそれほど輸出に依存しておらず、特に対米輸出への依存度は10年前よりも減った」と、ブルッキングズ研究所の上級研究員デービッド・ダラーは指摘する。「対米輸出額は、経済全体の3%に満たない」


(翻訳 栗原紀子)




デービッド・マギー


このニュースに関するつぶやき

  • 要するにこれは単なる貿易戦争ではなく文字通り「覇権」を争う戦いだ。日本の中枢に居座る老害にその意味が理解出来ているのだろうか?中共が覇権を握ればその害悪は米覇権をも凌ぐ。
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