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「ビジネスの仕方がとにかくエグい」 作家が取材の先に行きついた「マネーのモンスター」

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2018年10月02日 18:02  新刊JP

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新刊JP

写真『特捜投資家』の著者である永瀬隼介氏
『特捜投資家』の著者である永瀬隼介氏
「カネのない人間は一生、他人の奴隷になるしかないのか」

斜陽の新聞社を辞めた泣き虫記者、
失敗続きのバリキャリ美女、
うだつの上がらない学習塾経営者、
そして、地獄から這い上がった孤高の投資家。
はじめはバラバラだった崖っぷちのアラフォー4人が、「足」と「汗」と「頭」と「カネ」で「マネーのモンスター」に対して反撃を始める。

『特捜投資家』(ダイヤモンド社刊)は痛快なエンターテインメント小説でありながら、日本経済の奥にある「闇」に潜り込み、そこに蔓延るカネの亡者たちの全貌を明らかにする経済小説としての顔を持つ一冊となっている。
さまざまな企業や経営者がモデルとなっていることが伺える本作。その作者で元週刊誌記者でもある作家の永瀬隼介氏に、「取材」秘話や物語の成り立ちについてお話をうかがった。

(取材・文:金井元貴)

■取材をする中で行き着いた日本経済の闇にいた「怪物」とは?

――金融小説でもあり、ミステリー説でもある、現代的なテーマを扱ったとても面白い小説でした。ただ、金融をテーマにした作品を執筆されるのは初めてだったとか。

永瀬:担当の編集者さんから「金融をテーマに書き下ろしを書かないか」とお話をいただきまして、おっしゃるとおり金融はこれまでノータッチの世界でしたから、「どうしよう」と(笑)。

ただ、もともと記者時代から「大物」について取材するのは好きでしたから、カリスマ性とか善悪とかは別にして、金融界の「怪物」のような存在を中心に書くことができればと思って筆を進めました。

あと、経済や金融のことをあまり知らないからこそ、面白いかなと思ったのもあります。物書きとして新しいフィールドに進まないと殻を破れないじゃないですか。そういう意味では編集者に背中を押してもらったという感覚ですね。

――今回の小説を書くにあたってそうとう取材を重ねたそうですね。

永瀬:はい。ベンチャーを立ち上げて若くしてものすごい額のお金を稼いでいる方とかに会いましたが、驚きばかりでした。平気で億単位の話が出てくるし、世界の見方も違う。

それで「怪物」的な人の存在について取材を進めていくと、ある一人の実業家に行き着いたんです。おそらく若い方だと知らないのではないかと思うのですが、とにかくビジネスの仕方がエグい。資産のガードに長けた金持ちではなく、情弱の貧乏人から金を絞り取る。しかも非情で狡猾で、妥協を知らない。

僕はもともと『週刊新潮』で記者をしていたので、バブル期に儲けまくっている人に数多く会っています。彼らは法に触れることをしたり、暴力的な手段も使って人を従わせたりしていたんですね。
しかし、その実業家は頭脳明晰で違法なことはしない。当局が“司法テロ” と呼んで恐れた手法で弱者からお金を巻き上げて、骨の髄までしゃぶり尽くす。でも犯罪ではないから、公権力も手を出せない。すごい怪物がいるものだと思いまして、その人物を参考にすれば面白い小説が書けるのではないかと考えたんです。

――その怪物に戦いを挑むのが4人の主要登場人物です。本作の主人公ともいえる有馬浩介は35歳で元大手紙の新聞記者。うだつの上がらないフリーのジャーナリストですが、4人の中でも彼を中心にしたのはなぜですか?

永瀬:彼は金融・投資についてはズブの素人。しかし、ものすごい取材力の持ち主で、それが唯一の武器でもあります。単純ではあるけれど、その武器でどんどん金融の知識を身に付けていきながら、難所を突破していく。取材を通して成長していくんですね。だから、有馬を中心にすることで、ページを繰る毎に読者が彼の成長を通して金融の世界について知ることができるという作りにしたんです。

――有馬たちの「プロジェクト」のリーダーは凄腕投資家の城隆一郎(46歳)です。ほとんどの人はこうした投資家と接する機会はないと思いますが、取材で実際に会われた永瀬さんは彼らの世界をどのように見ていますか?

永瀬:お金のあるところにお金は行くんだなと。億単位の莫大なお金を稼いでいる人は寸暇を惜しんで勉強しているし、頭もキレます。体力も欲望も底無し。メンタルも鋼のごとく強靭。人脈もワールドワイド。とても自分には無理というか、絶対にお金持ちになれないなと痛感しました(笑)。

あとは度胸ですね。投資はまさに度胸がない人が負ける世界です。一時期、優秀な学生がこぞってゴールドマン・サックスのような外資系投資銀行に就職していましたけれど、優秀で自信にあふれた若者を引きつける魅力があるのだろうなと思います。

【『特捜投資家』登場人物】

 
有馬浩介
元全国紙社会部記者。現在は売れないフリージャーナリスト。無駄に正義感が強く妙に涙もろい。取材力は抜群だが文章力に難あり。
 
五反田富子
通名・椎名マリア。クールな美貌と巧みな弁舌で豊富な人脈を築き、成功した男たちを渡り歩く「サクセス・ジャンキー」。バツイチ。
 
兵頭圭吾
板橋区大山で学習塾を経営する冴えない中年。秘めたる野望を抱きながらも、若者の教育に情熱を注ぐ。妻の雪乃はなかなかの美人。
 
城隆一郎
凄腕の個人投資家。数百億の資金を動かし莫大なカネを稼ぐ生粋の一匹狼。その過去は謎のヴェールに包まれている。“金融界のイチロー”。

■「君たち、人殺しの顔が見たくはないのか」と言った伝説の編集者

――有馬は元新聞記者ですが、今の新聞に対して絶望している姿がうかがえます。

永瀬:新聞社の方にお話を聞いても、自分たちの行く末に対して不安を覚えていらっしゃる方は多いです。特に今の若い人たちは紙の新聞を読まなくなっていますよね。それなのに変革を進めることができず、徐々に体自体が劣化してしまう。正直なところ「ゆでガエル状態である」と。そのことに対して有馬は怒りを抱いているわけです。

――永瀬さんは元週刊誌の記者ですが、今の週刊誌についてはどのように見ていますか?

永瀬:『週刊新潮』にいたんですけど、僕がいた頃とは時代が違いますからね。当時は事件物の記事が多かったけれど、今は食べ物や健康ネタが目立つようになりました。あとは動物ネタとか。随分と様変わりしてしまいましたね。

――週刊誌の読者が高齢化したこともあるんでしょうか。

永瀬:そうですね。この『特捜投資家』の主要人物4人って、みんなアラフォーですよね。昔の週刊誌は彼らのようなアラフォーの働き盛りが読んでいたんです。今の週刊誌は事件物の記事があまり載らないですよね。一番取材していて面白いのは事件物で、なぜかというと何が起こるか分からないからです。取材を断られるような情報だから読者が喜ぶはずなのに、今は編集会議の段階で「これは取材できますね」という安易なネタが多いように感じます。
この小説でいえば、有馬も「こんなの無理だ、不可能だ、できるわけがない」というところから調査を開始するわけですが、有馬に自分の記者魂みたいなものをぶつけています。

――確かに有馬は最初迷いを感じつつ取材を始めて、壁にぶち当たりながら乗り越えていきます。

永瀬:そうそう。世の中が「こんな情報取れるわけがないだろ」というところから取ってくる。週刊誌や新聞の記者はそうあるべきだと思います。それでメシを食っているプロなんだから。そういう意味でも、有馬が城によって突然調査を言い渡されて、もがきながら少しずつ真実に近づいて行く様子はぜひ読んでほしいですね。

――永瀬さんもそのような取材をされていたんですか?

永瀬:当時は1週間2本記事を担当していたんですけど、事件物ばかりでした。とりあえずネタを、当事者と関係者の話を、取ってこいと言われて現場に行く。葬式の現場に行って塩をまかれようが、怒鳴られようがとことん行きます。でも行くと、不思議と取れるんですよね。

僕がいた当時、斎藤十一という伝説の編集者が新潮社にいたんですね。『FOCUS』を創刊する際、部下の編集者たちに「君たち、人殺しの顔が見たくはないのか」と言ったといわれる人物です。とにかく超の付く俗物。そして記者である僕らも俗物。だから人殺しの顔も、男の人生を狂わせた女の顔も見たい。そういう取材は面白いですよね。

――では、取材相手も「ならず者」のような存在の方がワクワクする。

永瀬:僕自身はならず者になれませんからね(笑)。一線を越えている人間に会い、話を聞くのが好きなんです。

以前、『19歳 一家四人惨殺犯の告白』というノンフィクションを書いたんですけど、それは1992年に起きた市川一家4人殺人事件の加害者の男(犯行当時は19歳)にスポットをあてた本です。取材で拘置所にいる本人に面会すると本当に驚くことばかりでした。想像とはまったく違っていて人殺しとは思えない。取材者の僕に対して「あなたみたいな人と表(拘置所の外)で出会いたかった」「死刑になることが分かっていればこんなことはしなかった」と言うし、差し入れした本を読むと人間性もどんどん変わっていくんですね。人って、あるきっかけで転んだり、逆に立ち直ったりするものなんだなと実感しました。

――有馬が途中、調査対象の経営者に懐柔されそうになります。あのように騙されることも記者として普通に起こるのですか?

永瀬:ありますよ。詐欺師が詐欺師であることなんて分からないですからね。だから何回も騙されています。この人はすごく良い人だなと思っていると、「えっ」と思うような形で裏切られる。彼らは息を吐くようにをつくんですよ。普通の人なら嘘をつくときに表情を変えたり、その素振りを見せるけれど、そういう人は本当に分からないですね。

ただ、彼らのなかには嘘をつこうと思っているわけではなくて、本気で世界を変えようとしている人物もいる。だから、そういうベンチャー企業の経営者なんかは革命家だと言われるわけです。世界の歴史を紐解いても革命家は妄想家でもありますから。

――本作で有馬が調査するミラクルモーターズは「EV(電気自動車)の革命児」として世間から持て囃されます。EVといえばテスラ社のイーロン・マスク氏が話題にもなっていますが。

永瀬:そうですね。EVについてもすごく取材しました。全固体電池の開発の難しさは感じましたし、でも開発が成功したら世界は変わるでしょうね。夢があるからこそ、詐欺みたいなものがそこに食い込むと、簡単に騙されちゃうと思います。そういえば本書刊行直後にイーロン・マスクが米証券取引委員会(SEC)に証券詐欺罪で提訴されました。手前味噌ながら、あたかも小説内の記述が現実を予言したようで驚きました。

(後編に続く)

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