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どん底ウッズが放ったリカバリーショット

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2018年10月06日 13:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<42歳のタイガー・ウッズが5年ぶりに優勝――苦難を経た男の「ゴルフ第2章」が始まった>


プロゴルファーに向けられる声援は、矛盾に満ちている。8月、ミズーリ州セントルイスで男子ゴルフの全米プロ選手権を取材しながら、そんなことを思った。


私が主に見て回った松山英樹が、この大会で最も大きな歓声を受けたのは3日目の1番ホールだった。2打目はグリーンを大きく越え、大木の前に。これを上から越す曲芸のようなリカバリーショットを目の当たりにして、ファンは酔いしれた。池田勇太もカート道付近に落ちたミスショットから難を逃れたときに、大声援を受けた。


ゴルファーにとって本来、ピンチは避けるべき事態。ミスである。しかし観客は危うき道にこそ引かれる。無難なパーでなく、窮地を乗り越えて(あるいは大きな偉業を達成して)彼らはようやく大きな称賛を浴びる。


タイガー・ウッズはピンチに立っていた。


09年に複数の女性との不倫が発覚して以降、公私で歯車は狂い続けた。翌10年には離婚が成立し、アメリカツアーで15年ぶりに未勝利に終わった。その後一旦は復活したものの、今度は相次ぐ腰の手術などで肝心の体が思うように動かない。「痛みなく座ったり、立ったり、歩いたり、横になることができるのかも分からなかった」と、不安にさいなまれた。


16年から2シーズンをほぼ丸ごと棒に振り、17年には抗不安薬や大麻の成分を含む薬を服用し、無謀な運転をしたとして有罪判決を受けた。無精ひげで、うつろな目をした逮捕時の写真は転落を物語るに十分だった。


今季前にウッズの復活を予想できた人は誰もいなかっただろう。本人ですら「またプレーできるのか分からなかった」のだから。


しかしウッズははい上がった。1月に競技に復帰すると、7月の全英オープンで6位につけ、全米プロ選手権は2位。そして9月23日までアトランタで行われた今季最終戦、ツアー選手権で5年ぶりに優勝を遂げた。サム・スニードのアメリカツアー史上最多勝利まであと2に迫る通算80勝目だ。


最終日の最終ホールでは「涙を我慢するのに必死だった」と感慨に浸りながら、まるで大蛇のようにうねりながら自分の後を付いてくるギャラリーの祝福を受けた。復活が認められ、9月28日に始まったアメリカとヨーロッパの対抗戦、ライダーカップの母国代表にも名を連ねた。活躍した大会のテレビ視聴率は跳ね上がり「第2次タイガー・ブーム」とでも呼ぶべき状況がやって来た。やはり窮地が深刻であればあるほど、抜け出したときの称賛の声は大きくなる。


危険な橋を渡り続ける男


競技人生最大のピンチを脱し、ウッズはどこに向かうのか。この先は安定が待っているのだろうか。おそらく、答えはノーだ。危険な橋を渡り続けるのが全盛期から引き継がれた彼のプレーの真骨頂であり、だからこそスーパースターなのだと思う。


おなじみの赤の勝負服で回った8月の全米プロ選手権最終日、私はギャラリーの1人である水泳界の「怪物」マイケル・フェルプスのすぐそばを歩きながら、何度もウッズのピンチを目の当たりにした。いや、ほとんどピンチしか見なかった。前半は一度もフェアウエーをキープできず、後半もティーショットが右に左にぶれた。だが、それを信じられないようなスーパーショットで挽回する。


ため息と驚嘆、ピンチとチャンスが目まぐるしく入れ替わる展開は、ゴルフコースよりフットボールスタジアムにふさわしそうな熱狂を呼んだ。大会の主役は、安定したプレーで今季メジャー2勝目を挙げたブルックス・ケプカでなく、間違いなくウッズだった。


逃げ切ったツアー選手権も、最終日の15、16番ホールで連続ボギーをたたき、2位との差がみるみる縮まった。17番もやはり窮地に立った。まるで演出のように見る者をハラハラさせ、勝利の瞬間を盛り上げた。


もちろん、全盛期とは置かれた状況が違う。10年前、ツアー屈指の飛距離を誇ったウッズも今や数々の故障歴のある42歳だ。全米プロ選手権を制した28歳のケプカに「以前、一緒に練習で回ったときも340〜350ヤードは飛ばしていた。そんな選手が真っすぐ打ったら、上回るのは難しい」と脱帽したように、羨まれる存在から羨む立場に変わりつつある。


世界中の多くの42歳と同じく、ウッズも若き日とは違う方法で、自分に憧れて育った世代の突き上げに対処しなければならなくなった。復活優勝がまた次の優勝を保証するわけではない。けがの再発というリスクと付き合いながら、戦い続けなければならない。


しかし今後付きまとう、そうした危うさがまた魅力になるのかもしれない。全盛期にもなかった魅力だ。


圧倒的な強さを誇ったウッズにファンは憧れはしても、自己を投影することは難しかっただろう。神業のようなショットを繰り出し、最年少記録を次々と更新するカリスマは、ただただあがめるべき存在だった。


だが私生活のトラブルが明るみに出され、苦境と隣り合わせになった今は違う。自分と同じように情けなく、弱さを抱えた人間であることを誰もが知った。不完全だからこそ見守る価値があり、もろさがあるからこそ応援したくなる――。そんなファン心理もあるのではないか。


矛盾するようだが。


<本誌2018年10月09日号掲載>




芹澤渉(共同通信ロサンゼルス支局記者)


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