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「埋まっている物語を掘り出して」村田沙耶香・新刊『地球星人』を語る(1)

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2018年10月06日 19:02  新刊JP

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新刊JP

写真『地球星人』(新潮社刊)の著者、村田沙耶香さん
『地球星人』(新潮社刊)の著者、村田沙耶香さん
出版界の最重要人物にフォーカスする「ベストセラーズインタビュー」。
第103回目となる今回は村田沙耶香さんが登場してくれました。

村田さんといえば94万部を突破した芥川賞受賞作『コンビニ人間』が知られていますが、最新作『地球星人』(新潮社刊)はそれを超える衝撃作。地球は「人間工場」で、人間は繁殖のための道具。私たちが「普通」だと思っている営みが、村田さんにかかれば奇妙で巨大でグロテスクなシステムの回転に思えてきます。

『コンビニ人間』の芥川賞受賞後、どのような道のりを経てこの作品ができあがっていったのか。そして、作家を志したきっかけや本との思い出などについてお話をうかがいました。(インタビュー・記事/山田洋介)

■「小説の先がどうなるのかは自分の手を離れたところにある」

――村田さんの新作『地球星人』は、『コンビニ人間』で芥川賞を受賞されてから初めての長編です。あれだけ注目された作品の次ということで、何か期するものはありましたか?

村田:特別な思い入れは特にありませんでした。ただ、受賞後に思った以上に忙しくなってしまって右往左往したというのはあります。

私は一つ小説を書き終えた次の日にはもう次の作品を書き始めるので、『コンビニ人間』を書き終えたあとすぐに次の小説に取りかかっていたのですが、受賞後の忙しさが少し落ち着いて執筆に戻ろうとしたら、もうそれは自分が書きたいものではなくなっていたんです。

――執筆の間が空いたことで、ご自身の中でズレのようなものができてしまった。

村田:そうです。やはり自分の考えや発想は日々変わっていくので、その時書きたかったことと、今書きたいことが違ってしまうことがあります。

ただ、その後編集者の方と話して、「長野を舞台に」ということだけ決めたら、一年くらいで書くことができました。



――『地球星人』は、登場人物たちが「人間性とされるもの」を捨て去っていくことで、「人間とは何か」を逆説的に浮かび上がらせます。この小説の最初のアイデアはどんなところにあったのでしょうか?

村田:最初は、今お話しした通り、長野という舞台が決まっていただけでした。ただ、その時点で、主人公の奈月の少女時代と大人になった後を書きたいとは思っていました。現実生活で性的被害を受けていることで、奈月は空想の世界にかなりのめりこみながら暮らしているという設定は早い段階でできていましたね。

女の子への性的搾取についてはこれまでの小説にも入っているテーマなのですが、淡くしか書いてこなかったので、いつか大きな形で書きたいと思っていました。次に少女を書くときは、性的虐待を真っ向から書こうと思っていました。ですが実際に書き始めるととても葛藤があり、苦しいテーマでした。

――なぜ長野を舞台にされたんですか?

村田:私の父方が長野の出身で、私自身子どもの頃は夏休みに長野の祖父の家を訪ねて、従兄弟が集まって花火をしたり、お盆の送り火迎え火をしていました。こういう思い出はどこかで書き留めたいという話をしたら、じゃあ次の小説は長野を舞台にするのがいいんじゃないか、となりました。

――奈月だけでなく、奈月の幼い頃の「恋人」だった由宇や、大人になってからのパートナーである智臣も、「普通」であることを強要するかのような社会に生きにくさを感じています。それぞれ本当に切実な問題を抱えているのですが、智臣の言動にはどこかユーモアがありますね。

村田:笑わせようと思って書いていたわけではないのですが、ユーモラスさは感じてほしいと思っていました。智臣はすごく変な人というか無邪気な人で、私自身書いていて救われるところがありました。

奈月と由宇だけだと思い詰めて暗くなってしまうところを、明るくしてくれたと思います。後半はお話を引っ張ってくれましたしね。キャラクター的には『コンビニ人間』の白羽さんを、とても性格を良くした感じに近いかもしれません。

――奈月も由宇も智臣も三者三様、歪んだ家庭で育っています。こういう登場人物でないと表現できなかったことは何だったのでしょうか?

村田:登場人物については奈月が起点になっています。私は登場人物を考える時、まず似顔絵を書くのですが、奈月の顔を描いた時に「すごく孤独な子」だと感じました。そして、自分が魔法少女だと思い込んだり、恋を熱烈に妄想したりという行動はその孤独さからくるものなんだというのは、何となく最初からわかっていました。

歪んだ家庭で育った人を書かないと表現できなかった世界だったのかはわかりませんが、この奈月のキャラクターがまずあって、そんな彼女と惹かれあう夫はどんな人なんだろうと考えていくと、彼女とはまた違った形で孤独な人間だったということが後からわかったような感じです。

――書きながら見えてくるものがあった。

村田:そうですね。最初から全部決めて書くことはせずに、書きながら設定をいじりつつ進めていきます。どういうラストにするかとか、先のことを決めずに書くのが好きなんです。今回も智臣の性格がもっと悪かった時があったんですけど、それだとあまりうまくいきませんでした。

小説の先がどうなっていくのかは自分の手を離れたところにあると思っています。よく「埋まっている物語を掘り出す」とおっしゃる作家さんがいますが、私もその感覚に近いです。とはいえ、いつも自分の小説は「本当にそんなものが埋まっていたのか?」と言われるとちょっと不安になるような物語なのですが(笑)。

第二回 ■デビューから15年 創作のモチベーションは「知りたい気持ち」 につづく

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