パスピエ、新旧楽曲で表現した9年間の軌跡と新たな始まり 初の日比谷野外音楽堂ワンマン公演

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2018年10月18日 20:02  リアルサウンド

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 パスピエが10月6日、東京・日比谷野外音楽堂で初の野外ワンマンライブ『パスピエ 野音ワンマンライブ “印象H”』を開催した。2017年5月にドラマーのやおたくやが脱退。サポートドラマーを迎えてライブを行い、『OTONARIさん』(2017年10月)、『ネオンと虎』(2018年4月)という2枚のミニアルバムを発表するなど、活動を継続してきた。そして、この日のライブで成田ハネダ(Key)、大胡田なつき(Vo)、三澤勝洸(Gt)、露崎義邦(Ba)は、これまでの9年間の軌跡を総括しつつ、“4人体制のパスピエ”の明確なビジョンを見せてくれた。


参考:パスピエが『ネオンと虎』で更新した“らしさ”と“新しさ” 『カムフラージュ』ツアー東京公演を観た


 ライブは3rdフルアルバム『娑婆ラバ』(2015年9月)の収録曲「素顔」からスタート。さらに「ヨアケマエ」(6thシングル/2016年4月)、「贅沢ないいわけ」(アルバム『娑婆ラバ』収録)、「永すぎた春」(7thシングル/2016年7月)とメジャーデビュー以降の代表曲を続けた後、「チャイナタウン」を披露。初の全国流通盤『わたし開花したわ』(2011年11月)に収録されている「チャイナタウン」は、初期のパスピエを象徴する楽曲。ライブのハイライトを演出することが多かったこの曲をセットリストの前半に置けること自体が、現在のパスピエの充実ぶりを示していると言えるだろう。


 ライブ前半、もっとも印象に残ったのは最新作『ネオンと虎』のタイトルトラック「ネオンと虎」だった。この曲の背景にあるのは、1980年代の音楽だ。ニューウェイブ、シンセポップ、テクノなどのエッセンスを取り入れ、現代的なポップチューンへと昇華した楽曲を、優れた演奏技術によって肉体的に表現する。人工的なデジタル感としなやかで生々しいバンドサウンドを共存させた「ネオンと虎」は、パスピエのベーシックなスタイルにつながっていると言っていい。楽曲の雰囲気を増幅させる、赤と青のコントラストを活かしたLEDライトの照明演出も秀逸だった。


 メンバー4人の個性を活かしたステージングも、この日のライブの大きなポイントだった。ドラマティックな成田のピアノから始まった「花」では、エモーショナルなバンドサウンドとともに大胡田が感情豊かなボーカルを響かせる。過ぎ行く季節のなかで、散りゆく定めを受け入れながら、それでも美しい色を咲かせようとする花をモチーフにしたこの曲からは、シンガーとしての彼女の成長ぶりがはっきりと伝わってきた。ライブ全編を通し、バンドを引っ張っていく存在感の強さも印象的だった。


 またインディーズ時代の代表曲のひとつ「脳内戦争」では成田がショルダーキーボードを持ち、ステージ中央で派手なソロを披露(この演出は2015年の日本武道館公演以来だった)。「フィーバー」「マッカメッカ」といったアッパーチューンでは、ギタリストの三澤、ベーシストの露崎が華のあるステージングで観客を沸かせる。それぞれの見せ場は確実に増えているし、バンド全体のパフォーマンスも明らかに向上している。4人体制に移行し、メンバーそれぞれが自らの役割に自覚的になったことが、ライブそのものの進化につながっているのだろう。『ネオンと虎』ツアーの全公演にも参加したサポートドラマー・佐藤謙介が現在のパスピエに欠かせない存在であることも記しておきたい。


 ライブ後半のMCで成田、大胡田は、“印象H”と名付けたこの日のライブに対する思いを改めて語った。


「パスピエはもうすぐ結成10年。9年の間にライブハウスもやったし、フェスにも出させてもらったし、ワンマンツアーもやったし、武道館みたいな大きい場所でもやって。そこに日比谷野外音楽堂が加わって本当に嬉しいです。初めの日がみなさんと一緒でよかったなって」(大胡田)


「自分たちとって“印象”は始まりの言葉。パスピエという名前自体が印象派の作品で(パスピエというバンド名は、印象派を代表する作曲家クロード・ドビュッシーの楽曲に由来)、以前やっていた対バンシリーズの名前も“印象A”から始まって。また今回、新しく始めるという意味を込めて“印象H”というライブをこんな素敵な場所でやれて嬉しいです」(成田)


 「今日はこの曲を東京のみなさんのために歌います」(大胡田)とコールされた「ON THE AIR」からライブは後半へ。緻密なアレンジメントとダイナミックな演奏がせめぎ合う「裏の裏」、和の要素を押し出した「MATATABISTEP」、初期からのアンセムのひとつ「最終電車」、そして、観客の大合唱とともに心地よい高揚感が広がった「S.S」。パスピエの多彩な魅力が体感できる圧巻のステージだった。


 アンコールでは「このテンションのなか、調子に乗って新曲やっていいですか!?」(成田)と新曲を披露。80’sニューウェイブ感、オリエンタルな雰囲気といったパスピエの特徴を受け継ぎつつ、アンサンブル、楽曲の構成などにおいて新たな要素を取り入れたこの曲は、“これまで”と“これから”を繋ぐナンバーと言えそうだ。


 ダブルアンコールの「ハイパーリアリスト」でライブは終了。9年間のキャリアのすべてをカバーするようなセットリスト、そして、4人体制のパスピエの在り方を明確に示すステージング。集大成とこの先のビジョンを同時に体現した初の野音ライブはパスピエにとって、大きなターニングポイントになりそうだ。(森朋之)


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