米中の関係悪化に乗じて中国に食い込むロシアのプーチン

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2018年10月19日 16:32  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<関係悪化が止まらないアメリカと中国。偶発衝突を避けるため軍事面での連携強化を働きかけるマティス米国防長官の前に、プーチンが立ちはだかる>


米中の緊張が高まるなか、米軍が中国との関係修復を模索したい考えを表明。だがそこには既にロシアがいた──。


ジェームズ・マティス米国防長官は10月18日、シンガポールで開かれるASEAN(東南アジア諸国連合)の国防相会議に合わせて、中国の魏鳳和国防相と会談。両者が顔を合わせるのは、中国側が9月末、10月に予定されていたマティスとの協議を中止してから初めてのことだ。1時間半近くに及んだ会談の内容は明らかにされていないが、会談に同席した米国防総省のある高官によれば、マティスは米中の連携強化を強く呼びかけたという。


ランドール・シュライバー米国防次官補(アジア太平洋担当)によれば、マティスは潜在的に危険な「考え方の相違や不快な事態がある時は特に、意見の相違や対処法を話し合うためのハイレベルな対話機会を持つべきだ」と述べたという。だがシュライバーは、ドナルド・トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争については、今回の会談では解決に至らなかった、とも語った。


アメリカの制裁を受ける国同士


こうしたなか、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はセルゲイ・ショイグ国防相を中国に派遣し、中国との緊密な関係をアピールした。中国とロシアはそろってアメリカからの経済制裁に苦しむ仲だけに、親近感はひとしおだろう。10月18日、ロシア南部のソチで開催されていた国際有識者会議「バルダイ・クラブ討論会」のセッションでは、中国とロシアが経済面および政治面での関係を強化しつつあることが強調された。


トランプと中国の習近平国家主席は、貿易面で報復関税の応酬を激化させている。その間にプーチンは、「『親愛なる友人、習』の一帯一路イニシアチブに貢献し、中国がアジア全域やそれ以外の地域に通商路や経済的影響力を拡大するのを手助けする」ことでロシアが利益を得る方法を見出した。


「たとえば、従来中国に大量の大豆を輸出してきたのはアメリカだが、今後はロシアがこの市場に参入していく。中国側のパートナーがこの分野への投資を望むなら、大豆生産に極東の土地を提供してもいい」とプーチンは語り、両国は航空機の技術でも協力を行っているとつけ加えた。


中露両国の「軍事・技術分野における協力はきわめて大きな規模に及んでいる」とプーチンは説明。両国はこれまで以上に頻繁に合同軍事演習を実施しており、中国は9月にロシア軍が実施した近代史上最大規模の軍事演習に数千人規模の部隊を派遣。この際、ロシア軍がシリアでの戦闘経験を中国軍と共有したとされている。


また10月18日、ロシア国防省はセルゲイ・ショイグ国防相が北京に到着したと発表。両国は10月19日に第23回中露軍事技術協力合同政府間委員会を開催する予定だ。


米中間の安全保障対話は現在、ほぼ凍結状態。原因は南シナ海の領有権と台湾の帰属wめぐる対立だ。


中露が接近する間も、アメリカは経済面での攻撃をエスカレートさせている。トランプ政権は9月、「敵対者に対する制裁措置法」に基づき、中国軍の調達を担当する中央軍事委員会装備発展部を制裁対象リストに載せた。中国が、既に制裁対象であるロシア軍からロシアの戦闘機Su-35とS-400地対空ミサイル関連の設備を調達したことがその理由。中露両国は激しく反発した。


この決定に先立ち、プーチンと習はウラジオストクで開かれていた東方経済フォーラムで会談を行い、2国間貿易をドルではなく自国通貨建てで決済していくことも確認した。


(翻訳:森美歩)




トム・オコナー


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