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ダイバーシティ論は「グローバル戦略に必要」なだけではない

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2018年10月25日 16:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<国際競争の只中にある日本企業は「ダイバーシティ・マネジメント」を実現できるか。改めて「ダイバーシティ」とは何かを整理する>


グローバル化のうねりの中で、日本企業が国際競争の真っ只中に置かれている。ただし将来的にも外国企業との市場獲得競争に勝ち抜いていくためには、世界の多様な人材を確保していく必要がある。すなわち、「ダイバーシティ」が重要なキーワードになる。


グローバル化の世界的なリーダーであるアメリカ企業は、多様な文化的背景や価値観をもった人材を率先して雇用し、それぞれのローカルな市場に最適な経営戦略を展開し、成功を収めてきた。日本企業もこうした市場トレンドを見極め、世界の多様な人材を取り込んだ「ダイバーシティ・マネジメント」ができるかどうかが、きわめて重要な課題であるといえよう。


そもそも「ダイバーシティ」(Diversity=多様性)*という言葉は、欧米の多国籍企業が世界市場に進出し、多角的な経営戦略を展開していく過程で登場してきたものである。つまり、企業の経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報等のグローバル化の進展が、多様な価値観をもった人材を多様な市場に投入することにつながった。新しい市場ニーズに企業側が応えようとしたものなのだ。


*この「ダイバーシティ」は、正確には<Diversity & Inclusion=多様性の受容>を簡略化したものである。


この「ダイバーシティ」という考え方は本来、アメリカにおける人種等によるさまざまな社会的差別を撤廃していく運動が進展した結果、1964年に「公民権法」(Civil Rights)が施行され、それまで黒人・ヒスパニック系・アジア系等から構成されるマイノリティが企業における就職や昇進等で差別を受けていたことに対して、「積極的差別是正措置」(Affirmative Action)の一環の、そのポジティブな政策展開として出てきたものでもある。すなわち、企業におけるマイノリティに対するさまざまな差別的行為を撤廃し、平等な機会をマイノリティに付与し、社会がそれを受容するというというものである。


また、この「ダイバーシティ」には、ジェンダー(性別)、人種・民族、宗教、国籍、身体状況(身体障害者等)、世代(高齢者等)といった属性を越えた人材の登用を進め、さらには、働き方(フレックスタイム、在宅勤務、育児休業等)、雇用形態(正社員、契約社員、派遣社員等)、労働の場所(在宅、地域限定等)といった働き方のスタイルと労働条件に多様性をもたせようという考え方も含まれている。


他方、上述のように1980年代より欧米の巨大企業を中心として、企業活動のグローバル化が進展し、市場・技術の多様化に対応した人材の登用が企業のグローバル戦略上、必要となってきたのである。


世界各地のローカル市場には、当該市場に精通した、すぐれた人材を登用しようという「グローバル市場における適材適所」の方針が世界各国の有力企業において採用された。


日本でも2000年に「ダイバーシティ・マネジメント」の機運が生まれたが


2000年に、日経連(当時)が「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」を発足させたのを皮切りに、企業側も環境に配慮した経営としての「サステナビリティ・マネジメント」(Sustainability Management)とともに、人材の多様化に対応した「ダイバーシティ・マネジメント」を積極的に取り入れていこうとする機運が生まれた。


今後、グローバル化の展開の中で、企業が「ダイバーシティ・マネジメント」に対して留意すべきことは、(1)多様な背景をもつ従業員を確保していくためにダイバーシティ倫理に基づいた企業行動をとっていくこと、(2)多様な背景をもつ従業員を雇用している企業は多様な顧客に十分に対応できること、(3)グローバル市場は言語的能力、文化的な感受性およびそれぞれの市場間における国民性やその他の相違をよく知っている労働力を必要とすること、などである。(Post, J.E.et al., 2002=2012:128)


アメリカン・スタンダードに象徴されるような一元的な価値観によるグローバル市場の支配という、これまでの経営戦略は、世界の多様な市場や顧客を獲得していくには困難となりつつある。今後、グロ−バル市場を勝ち抜いていくためには、ハイブリッドな(異文化価値融合的な)価値観をもち、多元的な市場反応ができるような多様性のある人材が必須の要素となりつつある。


さらに、「ダイバーシティ」を「個人の確立の問題であり、自分の生き方や価値観を大切にしながら他人の生き方や価値観を認め、社会の成員がいきいきと活動し、人生を楽しむことを可能にするものである」といったような社会的価値としての理念を基本とした上で、それを経営戦略に活かし、そうした戦略を推進していく人材を育成していくことができれば、その企業は真の「ダイバーシティ・マネジメント」に成功したグロ−バル企業になることができるのである。


[参考資料]


●「アメリカにおけるアファーマティブ・アクションの展開:制度・争点・課題」(岡本葵・藤田英典、「Education Studies 51」、International Christian University、2009年)


●「CSRの観点からのダイバーシティ(1)ダイバーシティとは」/「CSR の観点からのダイバーシティ(3)ダイバーシティ推進の意味すること」(堀井紀壬子、日経CSRプロジェクト、日本経済新聞社広告局、2005年5月・8月)


●「今、求められる「ダイバーシティ・マネジメント」(福田敦之、日本の人事部、2007年)


●『企業と社会(下)』(J.E. Post et al., 松野弘他監訳、ミネルヴァ書房、2012年)


[筆者]


松野 弘


博士(人間科学)。千葉大学客員教授。早稲田大学スポーツビジネス研究所・スポーツCSR研究会会長。大学未来総合研究所所長、現代社会総合研究所所長。日本大学文理学部教授、大学院総合社会情報研究科教授、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、千葉商科大学人間社会学部教授を歴任。『現代社会論』『現代環境思想論』(以上、ミネルヴァ書房)、『大学教授の資格』(NTT出版)、『環境思想とは何か』(ちくま新書)、『大学生のための知的勉強術』(講談社現代新書)など著作多数。




松野 弘


このニュースに関するつぶやき

  • ダイバーシティ・マネジメント = 空中線切換法、アメリカン・スタンダード = 便器水栓屋
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  • グローバルという言葉を持て囃した結果どうなったか?という話になると思うのだが、日本人は鎖国から開国をして世界に出た時に日本人だと言うだけで差別を受けた。
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