米中間選挙直前の移民キャラバン、トランプへの追い風になる「逆効果」 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2018年10月25日 17:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<治安悪化が深刻な中南米から一斉にアメリカを目指す移民キャラバンは、これまでのところ「キャラバン阻止」を訴えるトランプへの追い風になっている>


米中間選挙の投票日が来月6日に迫って来ました。そんななかで、連日全米のトップニュースになっているのは中米ホンジュラスからの移民キャラバンの問題です。


ホンジュラスでは、2009年の軍事クーデター後の経済の低迷と、麻薬取引を行うギャング集団の活動のために治安が大きく悪化しており、まず経済力のある国民から国外に脱出しているのが現状です。


そんななかで、「中米移民キャラバン」という市民団体が小さな子供と親を中心に、これまで「逃げたくても逃げられなかった」人を集めてキャラバンを組み、アメリカを目指すという運動を開始しました。まず3月25日には、「第一回キャラバン」がホンジュラス南部のチョルテカ県を起点としてスタート、グアテマラ経由で約1200人がメキシコに入り、北上して4月29日には、メキシコとカリフォルニアの国境の町ティファナに到着しました。


この事件も連日報道されていましたが、結局のところセッションズ司法長官は、「この人々は我々の法律に違反しようとしている」としてこれを拒否。150人が難民申請をしようとしたのですが、受理されるどころか申請のために国境を少しでも越えたなどとして10数人と支援者が逮捕される結果に終わりました。


それから7カ月後、今度は「第二回キャラバン」が企画され、そのプランはSNSで拡散され、今度はホンジュラス第二の都市サンペドロスーラを起点としてのキャラバンが組まれました。この街は、元々はホンジュラスの経済の中心ですが、現在は麻薬ギャングの抗争が激しく、「世界で一番危険な町」と言われている場所です。


今回は、スタート時点では500人規模であったのが、徐々に参加者が増え、第一回よりも規模が大きくなっています。ホンジュラスからグアテマラに入ると規模は4000人近くになり、メキシコはトラブルを避けるために、グアテマラ国境に大規模な警察隊を派遣しました。しかし強制的な排除はできず、キャラバンはメキシコに入りました。現在は、約5000人が徒歩でメキシコ国内を北上中です。


今回の「第二回」ですが、アメリカの中間選挙を意識して、この移民問題をアメリカの政治問題にして何とか活路を開こう、そのような意図でタイミングが図られた可能性はあります。ですが現時点では、反対に「トランプ派が工作を仕掛けた?」のではないかと思わせるぐらい、政治的には逆効果になっています。


つまり、連日この「キャラバン」が報道されることで、トランプ派には追い風になっているのです。まず、キャラバンが出発した時点で、ペンス副大統領は、「(移民を送り出している)ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグアの3カ国の政府は、住民を国外に出さないよう強制措置を行え」という声明を出しています。


これを受けて、トランプ大統領は、この3カ国に「移民を送り出したら援助を停止する」と脅しています。また、南部に遊説した際には「民主党はこうした移民を歓迎している」などと批判する一方で、「(アメリカに到達しても)絶対に入国させない」として入国を阻止するために軍の出動を行うという示唆もしています。


とにかく、ここへ来て大統領は遊説のたびに、この「キャラバン阻止」という話題ばかりを取り上げており、それが支持者に受けるという状況になっています。ただ、この問題を「取り上げ過ぎる」とヒスパニック系の有権者に悪印象を与える危険があります。これを避けるために、サンダース報道官などは「キャラバンにはアラブのテロリストが混じっている」などと、証拠もないことを述べて大統領を擁護しています。


そんな中で、トランプ系の共和党候補の中からは、「大統領は国境地帯に戒厳令を布告すべきだ」という主張も出てきています。またネットでは、この「キャラバン」に資金を提供しているとして、投資家のジョージ・ソロス氏を批判する書き込みがあり、ソロス氏が脅迫がされているという報道もありました。


一方の民主党ですが、2つに分かれています。サンダース議員などの流れをくむ左派候補は、このキャラバンに同情的です。そして、従来から主張している不法移民の取り締まり組織「ICE(移民・関税執行局)」の解散を訴えています。一方で、中道派は保守的な有権者の離反を恐れてこの移民問題にはダンマリという感じです。それでも地元密着型の下院の小選挙区への影響は少ないでしょうが、州単位の選挙となる上院では、共和党側に有利な情勢を後押ししている状況です。


キャラバンは、このままのスピードで進むとアメリカ国境に11月下旬に到着するペースで進んでいます。ということは、11月6日の投票日までは、連日この「キャラバン隊」の映像がニュースで報じられることになり、それは現時点ではトランプ側の政治的モメンタム作りに一役買っているという、何とも言えない皮肉な「逆効果」を生んでいます。


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