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ユーロ圏を脅かすイタリアの暴走

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2018年11月02日 15:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<欧州委員会による予算案差し戻しで強気のコンテ政権も軟化するのか、それとも欧州全体をパニックに陥れるのか>


EUの執行機関である欧州委員会は10月23日、イタリア政府が提出した19年予算案を、欧州経済を不安定化させる恐れがあるとして差し戻した。イタリアの左派「五つ星運動」と極右「同盟」(元「北部同盟」)の奇妙なポピュリスト連立政権は、これまでもEUを批判してきたが、予算案差し戻しという前代未聞の措置に、両者の対立は一気に悪化したようにみえる。


果たしてこれは、新たな世界経済危機につながるのか。フォーリン・ポリシー誌のマイケル・ハーシュ記者が、米コロンビア大学のアダム・トゥーズ教授(経済史)に話を聞いた。


***


――欧州委員会によるイタリアの予算案差し戻しに驚いたか。


いいや。今年イタリアに新政権が成立して以来、欧州委員会とイタリア政府の間では非常に不快で激しい駆け引きがあった。第2与党・同盟を率いるマッテオ・サルビニ副首相は、EUの価値観全般に対する明白かつ現実的な脅威と考えられている。


欧州委員会は、イタリア政府の言動に我慢ならないと感じていたのだと思う。そしてEUにとって明らかな危険を取り除くためには、最初から厳しい態度で臨む必要があると考えたのだろう。だから(予算案差し戻しという)前代未聞の措置に出たのだと思う。


――今後、短期的には何が起きるのか。3週間以内に見直し案の提出が求められているが。


イタリア政治のメカニズムは非常に複雑で、外野から予想するのは非常に難しい。ただ、真のリスクは、政治的決定を下す人々が、金融市場のダイナミクスを過小評価していることだ。かつ市場はさほど万能ではない。とりわけECB(欧州中央銀行)は、今もイタリア国債を大量に買っている。その関係をめちゃくちゃにするほど対立が悪化すれば、混乱に歯止めがかからなくなるかもしれない。


既に10月19日、格付会社のムーディーズは、イタリア国債の格付けを投資適格で最低水準に引き下げた。格付けが投資適格水準も割り込むようなことになれば、自動的に売り注文が殺到するだろう。


怪しいハゲタカファンドの話ではない。機関投資家は、一定の格付け以上の資産を保有することを義務付けられている。イタリア国債が投資不適格と判断されれば、自動的に処分しなければならない。


これは極めて危険な状況をもたらす恐れがある。イタリアの金融部門は約4000億ユーロ相当の国債を保有しているから、悪夢のシナリオと言っていい。


――イタリア発のユーロ危機が世界的な金融危機をもたらす可能性はあるのか。金利が極めて低い水準にあるなか、世界の中央銀行が取れる手段は限られているようにみえる。


もしヨーロッパが世界的な金融危機の引き金を引くとすれば、イタリアが震源地になるだろう。イタリアは世界第4位の国債発行国だ。現在、金融市場は全体としてデリケートな状況にある。


とりわけアメリカの株式市場は過熱気味で、金融引き締めとのバランスは心もとない。パニックに陥った投資家がイタリア国債を売り払い、より安全な資産であるドイツ国債や米国債に資金を逃避させやすい状況にある。それはユーロ圏にモラル上のリスクを引き起こす。


――ギリシャ財政危機よりも影響は大きいということか。


レベルが全く違う。これは3兆ドルの債務問題で、3000億ドルではない。現在のヨーロッパの救済メカニズムは、全面的なイタリア危機に対処できるほどのものではない。唯一問題を解決できるのは、マリオ・ドラギECB総裁が「いかなる手段を講じてでも」危機を回避すると決意表明をするとともに、ECBがイタリア国債を買い続けることだ。


もちろんECBも、EU経済全体の状況を幅広く検討して、場合によっては、国債買い付けの規模を縮小するとしている。それでも、カギを握るのがECBであることに変わりはない。財政調整やユーロ圏の構造改革などいろいろなことが言われるが、実際に市場がパニックに陥れば、短期間で市場を安定化できるのは中央銀行だけだ。


当然ながら、それはユーロ圏に政治的問題を引き起こす。ドイツの極右政党「ドイツのため_の選択肢(AfD)」を伸長させたのは、15年の難民危機ではなく、アンゲラ・メルケル首相のユーロ危機への対応の不満だ。保守派は強硬な措置を求めている。メルケル率いる与党・キリスト教民主同盟(CDU)が今、何としてでも避けたいのは、ECBがイタリアを救済するために緊急措置を講じることだ。


――予算規律の維持に失敗し、ドイツが圧倒的地位を築いて他の国々に緊縮を強いるなど、ユーロ圏というコンセプト自体が崩れつつあるのか。


実のところイタリアは、20年前から緊縮政策を取っている。これはドイツよりも長い。イタリアの問題は、70年代、80年代、そして90年代初めに積み上げた莫大な政府債務だ。財政赤字自体は控えめだ。しかし現政権がそれを少しばかり増やそうとすれば、EUの財政ルールに違反することになってしまう。


イタリア発ユーロ危機が起きるとすれば、その原因は財政規律の欠如ではなく、成長が欠如しているせいだ。イタリア経済は成長していない。そして成長を生み出す方法が分からずにいる。確かにこれは、現在の形のユーロ圏の存続の危機だ。


だが、ユーロ圏の崩壊が始まっているかどうか判断するのは時期尚早だ。イタリアが離脱すれば、ユーロ圏が壊滅的な打撃を受けるのは間違いないが、その可能性は最小限と言っていい。五つ星運動はアンチEU政党ではない。ただ、ユーロ圏は組織や優先課題といった基礎を見直す必要性に直面している。


――イタリアとユーロ圏は別として、新たな世界金融危機が起きる可能性はあるのか。


景気後退のリスクと危機のリスクを区別して考える必要がある。景気後退はリスクというより、これから1年半〜2年後には不可避なものだ。米経済はこの先、現在ほどの好調を長く維持することはできないだろう。


一方、世界的な経済危機を引き起こすリスクという意味では、イタリアはかなり高いランクに位置付けられると思う。新興国も世界的な危機の引き金となる可能性は高い。中国の状況には誰もが毎日目を配るべきだ。中国をはじめとする新興国は、現在世界の成長の牽引役となっている。それにこれらの国はもう「新興」ではない。世界の成長の65%以上を占めるのだから。


従って世界経済の先行きを心配するなら、注目するべき場所は一にも二にも中国だ。


From Foreign Policy Magazine


<本誌2018年11月6日号掲載>




マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌記者)


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